季節の移り変わりは、想像していたよりも早かった。
僕は就職活動を考える時期に来ていたが、相変わらず、具体的なものは何も見つかっていなかった。
ただ、ひとつだけ、頭から離れないことがあった。
これから、どうやって彼女と未来を築いていけばいいのだろう。
ふと自分の手に目をやった。
油で汚れた手だった。
その手を見て、僕は気づいた。
今の生活の延長線上には、二人の未来はない。
現実は厳しかった。
彼女のお父さんには、あんなことを言ってしまった。自分でも、もう少し素直になれればいいのにと思うことがある。
けれど、素直になれない自分も、紛れもなく本当の自分だった。
その日のアルバイトが終わると、僕は家の近所にある公衆電話から、彼女の家に電話をかけた。
「明日、迎えに行くよ」
すると、彼女はそっけなく答えた。
「明日は一人で帰るから、迎えに来なくていいよ」
「じゃあ、明後日行くよ!」
僕は、すぐにそう告げた。
しかし、彼女の返事は思いがけないものだった。
「しばらく迎えに来なくていいよ。一人で大丈夫だから」
えっ?
僕は、自分の耳を疑った。
何があったんだろう。
どうして、そんなことを言うんだろう。
聞きたいことはいくつもあった。
それなのに、僕の口から出たのは、たったひと言だった。
「わかった。また電話するよ」
僕は、不安になった。
彼女の声が、いつもと違って聞こえたからだ。
その日、僕はガソリンスタンドでのアルバイトを終えると、車を走らせた。
彼女の家の近くまで行き、少し離れた道に車を止めた。
彼女が帰ってくるのを待つためだった。
僕は知っていた。
彼女が帰ってくるまでは、玄関の明かりが消えないことを。
だから、じっと待っていた。
ところが、いつまで経っても、玄関の明かりは消えなかった。
時間だけが過ぎていく。
彼女は、まだ帰っていないのだろうか。
それとも……。
考えても、答えは出なかった。
仕方なく、僕は家に帰ることにした。
本当は、彼女に会って話がしたかった。
顔を見れば、何かわかるかもしれない。
そう思っていた。
けれど、その夜、僕は彼女に会うことができなかった。
そして、僕はまだ知らなかった。
二人の間で、何かが変わり始めていることを。
次回へ続く。
