映画評 「MINAMATA」 ~ 良作ではあるが気になる所も・・・ |  書店員バツ丸の気ままにエンタメ

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・評価:80点

ジョニー・デップ主演。日本においても歴史的な大問題となった「象徴的公害」と言える「水俣病」。

その特徴と惨状とを世界に知らしめることに大きな役割を果たした、

戦争カメラマンとして名声を得ていたユージン・スミスと、その当時の妻、アイリーン・美都子・スミス

を通して「水俣病」を描いた社会派映画。

正直、個人的にジョニー・デップは俳優として好きでもないし、あまり評価もしていない。

ただ、元来の映画好きの要素に加え、学生時代に受けた環境社会学の授業が水俣病であったこと。個人的に写真を趣味にしていること。

各レビューサイトや雑誌での評価が上々であったこともあり観ることにした。

ただし、人気のシネコンであったにも関わらず、観客は自分一人という、久しぶりの「単独鑑賞」となってしまったのは、残念。

既に水俣病が知られてから50年もの月日が経ち、中年世代以降にとっても「教科書で学ぶ過去のこと」

という印象が強いが、この作品を観ると、それがいかに間違いであることを教えられる。

いや、21世になっても、令和になっても、東電の原発問題を筆頭に、日本のみならず、世界においても尚、企業による公害や薬害、過労死、事故死、

といった企業による災厄、いや犯罪行為が減っていない。

人を豊かにするはずの社会活動の一環である企業活動が、人を幸せにしていない現実は、今の日本の格差問題をみても明らか。

今作は「水俣病」だけでない、様々な企業による社会問題を改めて考えさせる強烈な動機となろう。

そういう観点で考えると、非常に優れた作品と言える。

正直、この作品でも、ジョニー・デップであることが分からない彼の見た目とその演技は微妙としか思えない。この人の何が良いのか、いまだに理解できずにいる。

ただ、それとは対照的に、國村準、浅野忠信、加瀬亮、真田広之といった日本人役者の演技が見事。

こと、チッソへの訴訟のリーダーとなった人物を演じた真田の演技と存在感は本当に素晴らしかった。国際的に通用する日本を代表する役者だ。

アイリーンを演じた美波も、その美しさと魅力が際立っていた素晴らしかった・・・。

しかし、だからこその見逃せない瑕疵も少なからずあった・・・。

ロケ地が日本ではなくモンテネグロメイン。セットづくり・映像づくりにかなりの手間暇と資金をかけていること

は明確にわかるが、少なくとも義務教育で学ぶ日本地理の知識程度もあれば、「日本感」があまりないことに、嫌でも気づかされる。

しかし、漁船が少なすぎ。あっても物凄く小さい手漕ぎの船ばかり。エンジン付きの小型船すらないのはいかがなものか?

また、スミス夫婦が来日した序盤に、村の少女をユージンが撮影したが、この子、どうにも日本人には見えない。というか、ハーフでとてもかわいい女の子だが、何故この子をここで出演させる必要があったかの理由が全く分からない。

この子がその1人であるのかはわからなかったが、公害訴訟リーダーの娘?孫?の女の子も日本人には見えなかったのが気になった。

真田広之演じるヤマザキミツオという名で検索しても、彼が外国人女性と結婚していた、どころか、何もわからずじまいであった。

これ、事実でなかったとしたら、何のためにそうしたのかが全く分からない。

映像や作品を通して描いた内容が良かっただけに本当に残念。

しかし、一番残念なのは、こういう作品を「日本人」が「日本」で作らなかったことに尽きる。

イーストウッドの「硫黄島の手紙」でもそう感じたが、

過去の歴史・事実から学び、未来へとつなげていく観点からも、東電問題やコロナ問題で今尚揺れている日本において、「水俣病」を題材とした映画を作ることの意味・意義があったはず。

そういう着眼点を持てない、日本の映画関係者や配給会社は今こそ猛省すべきだと思わずにはいられない。