2017年 上半期映画総評その4:総評の総評 |  書店員バツ丸の気ままにエンタメ

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今回から「総評の総評」を行っていきます。まずは洋画編。次回の邦画編で終了です。



☆洋画編

ここ何年も続く洋画の低調具合=ハリウッド話題作のそれ~に関して、今年も大した変化はなかった。

「ワイルドスピード」「イップマン」「ハクソーリッジ」以外の作品は、率直に言って微妙なのばかり。

特に、ネタがつきたこともあってか、ここ数年で横行している「実際の事件や実在の人物を題材にしたノンフィクション的作品」のダメさ加減があいも変わらず目立っている。

「ジャッキー」「パトリオットデイ」の2作はそのことを象徴する作品。

自分が日本育ちの日本人、ということもあろうが、この2作を観ていて「だから?」との評価・感想しかない。

大金叩いて、有名役者を起用して実在の事件、実在の人物の壮大に描いたのはいいが、仰々しいそれらの描写を通して何を鑑賞者に訴えたいのかが全く伝わってこないからだ。

厳し目に言えば、この2作とも、特に「パトリオットデイ」はアメリカ万歳の自慰ぶりが目立つ。多文化圏、他民族の人が観ても考えさせられる深さや面白みがない。淡々と事実だけを描写するに特化した「再現バラエティー」で観た方がずっとましだろう。

「アメリカファースト」を標榜するトランプ政権になったからかどうかはわからないが、「アメリカンファースト」的なハリウッドノンフィクション作品が増えているように思える。

90点以上を付けた作品が3作あったことは評価すべき点ではあったが、結果は兎も角その内実を観るに、あまり喜ばしい状況ではないことも、ここ数年の洋画シーンで続く傾向だ。

3作のうち2作は、所謂「シリーズ続編もの」。厳しい言い方をすれば、過去の威光・栄光を借りた作品に過ぎない。ファンの期待を裏切らず質の高い作品を送り出し続けた関係者には頭が下がるが、完全オリジナルの新作でこれらを超える作品が一向に出てこない実情は、やはり嘆かわしい。日本と同様、続編、リメイク、リバイバルの悪しき風潮が続いている・・・。

唯一気を吐いたのが、日米戦争沖縄戦、「前田高地の戦い」を描いた「ハクソーリッジ」だ。

戦争や政治に対していろんな考えがあろうが、そういったことを関係なく内包するスケールの大きさと様々な分析や鑑賞に足る見事なつくり、そして作品を通して描写したテーマの深さには感服するしかない。

この作品を観て、鑑賞者がどういう考えを持ったり評価を下したりするかは、当然それぞれあろう。自分は1つ、「何故日本があの戦争でアメリカに勝てなかったか」の自分なりの新たな理由を見つけられたことが大きかった。そして、あの沖縄戦最後の激戦の壮絶さを知れたことも・・・。

クリント・イーストウッドもそうであるが、映画作品としての娯楽性を多分に有しつつ、簡潔明瞭でありながら、人類普遍と言うべき壮大な題材を感動的に、挑戦的に描写しきれるその視点の鋭さと手腕は見事と言う他ない。メル・ギブソンの今後の作品が楽しみでならない。