黄昏の芸能ブローカー / action 008  | “Mind Resolve” ~ この国の人間の心が どこまでも晴れわたる空のように澄みきる日は もう訪れないのだろうか‥

 
 

         action 008 
 
 

世の中には色々な職業があって、
日本の映像業界のスタッフ側(?)の一人、
自分の好きなことを堂々とやって
とても楽しく仕事をしている人もいた! 
・・・・・ということを発見した瞬間がある。
俺も初めて逢った時はちょっとビックリした。
「世の中にはこんな人もいるんだ」
視野が拡がった。
ここではその人のことを仮に
“芸能ブローカー”
と呼ぶことにしよう。
本人も、
「オレは芸能ブローカーだ」
と云っている。
云っているだけでなく、
やっていることも芸能ブローカーそのものだ。
 
ある日、芸能ブローカーは、
あの、人気テレビドラマ『刑事モノ・シリーズ』が
華々しくも映画化される運びとなった撮影現場で
こんなことをやらかしていた。
 
芸能ブローカーは、次のスケジュール予定を助監督と確認を取り、
連れてきた仕出しの人数を数え直すと、
今日も無事、何事もなく終った仕事を見守るように、空を見上げて云った。

「明日もいい天気だなぁ、きっとぉ・・・」
 
衣装を畳んで返すことに戸惑う、不慣れな仕出しの何人かを待ちながら、
あのヒット作の台本を持ち、夕焼けの中に立つ男、芸能ブローカー。
彼は、まだ立ち去らない様子のギャラリーの中に、あの若い娘を見つけると、
ゆっくりとした足取りで近寄り、こう云った。
「来週の今日と同じ時間に、
またココで撮影あっから、
よかったらまた来てみてな」
「え、そうなんですかぁ?」
「そん時も同じようなシーンの撮影で、
また人が大勢、必要になると思うから、
友達もいっぱい連れて来てな」
「うん!」
 
次の週、沢山の友達を引き連れ、
同じロケ現場に訪れた若い女性。また、
残り、
48枚のテレフォンカード
を持って現場に現れた芸能ブローカーが
次々に商談を成立させて行った姿は、
読者の皆さんのご想像にお任せする。
 
ただ、その日の撮影の休憩の合間に、
こんな一場面もあったらしい。
 
「なによ、それ、
そのテレフォンカードは?」
ある日の撮影の合間の休憩時間、
芸能ブローカーをよく知る ある製作側スタッフの一人が、
彼が自分で現場へ連れて来た新人のエキストラに見せていた
一枚のテレフォンカードを見て云った。
「ビジネスよ、ビジネス!」 
と、なんの装いもなく応える芸能ブローカーに
「?」
そのスタッフは首を傾げて立ち去って行った。
・・・まだその時は。
 
後日、製作事務所に呼び出された時のことを芸能ブローカー本人は、
俺にも こう語っていた。
「・・・それがよぉ、見つかっちまってなぁ、あん時は。
製作の○○に呼び出されて、
もうぉ怒られたのなんのって、こってり絞られて、
えらい目にあったぜ、あん時は・・・」
 
それから20年近くの歳月が経ち、未だ、
芸能ブローカーは現役で頑張っている。
日本の映像業界に於ける、
イイこともワルイことも色々と知っている芸能ブローカーだが、
そんな彼を決して憎めない部分も少なくはない。
 
 

     
つづく