黄昏の芸能ブローカー / action 009  | “Mind Resolve” ~ この国の人間の心が どこまでも晴れわたる空のように澄みきる日は もう訪れないのだろうか‥

 
 
         action 009 
 
 

世の中には色々な職業があって、
日本の映像業界のスタッフ側(?)の一人、
自分の好きなことを堂々とやって
とても楽しく仕事をしている人もいた! 
・・・・・ということを発見した瞬間がある。
俺も初めて逢った時はちょっとビックリした。
「世の中にはこんな人もいるんだ」
視野が拡がった。
ここではその人のことを仮に
“芸能ブローカー”
と呼ぶことにしよう。
本人も、
「オレは芸能ブローカーだ」
と云っている。
云っているだけでなく、
やっていることも芸能ブローカーそのものだ。
 
日本の映像業界に於ける、
イイこともワルイことも色々と知っている芸能ブローカーだが、
そんな彼を決して憎めない部分も少なくはない。
 
「南ぃ、今日お前、この仕事 跳ねてから時間あるか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「たまには一緒に一杯、呑みに行かねぇか? 
この近くにいい店があるんだ・・・」
新宿中央公園のロケ先で、
その日の撮影時間が巻いたため、
予定より早く終りそうな気配のある、
二時間ドラマの数カットのバックに歩くという仕事だった。
「でもあんまり俺、カネ持ってないし・・・」
「カネのことは心配すんな。
さっき訊いたら、アイツも一緒に行くって言ってたから、大丈夫だろぉ・・・」
そうは云っても、決して他人の財布を宛てにするような性格ではない男。
それもまた、
芸能ブローカーのニヒルな後姿でもあった。
恐らくまた“新たなビジネス”で
それなりのキックバックを得て、
ささやかな一杯の祝杯を挙げたい・・・
そんな気分だったのかも知れない。
 
それでもその日、予定通りに撮影は終わり、
時刻は午後7時を回っていた。
金曜の夜、人や車の溢れる新宿の街。
・・・俺にとっても色々な想い出のある場所だった。
幾つかの記憶を眺めるように交差点の脇で煙草を吸っていると、
現場スタッフと次の打ち合わせを済ませた芸能ブローカーが云った。
「南ぃ、お前、時間だいじょうぶかぁ?」
「ええ、一応。このくらいならまだ・・・」
「じゃ、約束だからなぁ、行くとするか。
・・・あっれぇ? ヤツはどこ行きやがった? 
あ、いたいた。お~い、何やってんだぁ! いくぞぉ・・・・・」
ということで、俺が二人に連れて行かれたのは新宿のど真ん中、
都民銀行の向かいのビル、
その3階だか5階にあった一軒の大衆酒場だった。
「よぉ、ママ。来たよ、席あいてる?」
「あ~ら、コンニチハ。ごめんなさ~い。いま満席でいっぱいなのよぉ・・・」
「あのさぁ、ママ。オレが来たんだよ、オレが。
席が空いてないって、それはないでしょ。どういうこと?」
芸能ブローカーと店の女将は古くからの知り合いのようで、
そのやや怒りめの口調に、
「ちょっと待っててくださいねぇ」
「なんだよ、せっかく来たのに・・・」
などとブツブツ云っている芸能ブローカーを待たせまいと、
その女将は、
スグ目の前にいた別の客で、
まだテーブルにある酒も肴も、
まさに「これから手を付けよう」という二人の年配のサラリーマン。
その二人を簡単に説得し、
我々三人に席を用意した。
「なんだよ、ちゃんと席、あるじゃねぇか・・・」
飲まないうちから酔っ払っているようなことを云う芸能ブローカー。
女将に言われてサッサとテーブルを片付ける従業員。
レジで会計をして立ち去る二人のサラリーマン。
一体、何が起こったのか?
レジにいた彼らは、それほど不機嫌そうでもなく、
一人がチラッとこっちを向き、
芸能ブローカーの顔を見ると、
出口のエレベーターへ乗り込んで行った。
「・・・なんか・・・いいんですか?」
「何が?」
「だってあのオジサンたち、まだ楽しそうに呑んでたのに、
急に追い払うようなことしたみたいで・・・」
「なに云ってるんだよ、お前? 
そんなの構うこたね。気にすんな気にすんな・・・」
すると、まだ何も注文もしていないうちから、
ビールの大瓶が三本、ドンッとテーブルに置かれ、
「ハイ、これはサービスの分」
と、化粧の上手な女将が云った。
そして2分、3分と経たないうちに、
次々にツマミや肴が運ばれてくる。
店の中は我々三人が来る前から混雑したまま、様子は変わっていない。
むしろ、従業員はみんな忙しく、
見れば、そこにいた人数では手も足りないほどの店の繁盛。
一体、何が起こったのか? 
 
 
     
つづく