黄昏の芸能ブローカー / action 007  | “Mind Resolve” ~ この国の人間の心が どこまでも晴れわたる空のように澄みきる日は もう訪れないのだろうか‥

 
 
 
        action 007 
 
 

世の中には色々な職業があって、
日本の映像業界のスタッフ側(?)の一人、
自分の好きなことを堂々とやって
とても楽しく仕事をしている人もいた! 
・・・・・ということを発見した瞬間がある。
俺も初めて逢った時はちょっとビックリした。
「世の中にはこんな人もいるんだ」
視野が拡がった。
ここではその人のことを仮に
”芸能ブローカー”
と呼ぶことにしよう。
本人も、
「オレは芸能ブローカーだ」
と云っている。
云っているだけでなく、
やっていることも芸能ブローカーそのものだ。
 
ある日、芸能ブローカーは、
あの、人気テレビドラマ『刑事モノ・シリーズ』が
華々しくも映画化される運びとなった撮影現場で
こんなことをやらかしていた。
 
照明の横に隠れ、
本体からの合図を待つ若いスタッフの一人が云った。
「すいません、エキストラのみなさんは、
このシーンの撮影中は静かにしておいてもらえますか」
と。
すると芸能ブローカーは、
「いいじゃねぇかよ、
今まだテストじゃねぇか!」
と、返す。
その顔いつも現場にいるスタッフの一員のような芸能ブローカー
に気づいた若いスタッフは、
黙っていた。
プレミア風のテレフォンカードに乗せられた若い女性も、
それを聞いて、すっかり、
芸能ブローカーは撮影関係者の一員である
ことを認識する。
そうして、この絶妙なバランスの”商い”は継続された。
 
「・・・ねぇ、オジサン。どこで売ってるの?」
「いや、ここでは販売してないんだけど、
もしよかったらこの一枚、譲ってもいいよ。
オレはまた買ってくればいいんだからさ・・・」
「ホントぉ! 
それでいくらですか? そのテレフォンカード」
「う~ん、限定品で 数も少ないから値打ちモンでなぁ、
本当は¥7,000するんだけど、
¥5,000でいいよ」
「ええっ、いいんですかぁ? わぁウレシイ!」
と、感激のあまり涙する寸前というほどの喜びで、
その、たった一枚のテレフォンカードを落札した若い娘。
芸能ブローカーのバッグの中には、
残り 
     49枚 
 
の、同じテレフォンカードがあった。
 
「はい、次!、本テス!」
本体からの大きな声。
現場には徐々に、本番へ備える緊迫感が漂いはじめる。
ところが、
「・・・ねぇ、オジサン」
「ん?」
「まだ持ってるんでしょ?」
「何を?」
「これと同じテレフォンカードぉ」
「もう持っちゃいねぇよ、
それ一枚だけだよ」
「ええーっ、うっそぉ、
さっきそのバッグの中にチラッと見えたもん」
(・・・実際には、ワザト。
それでいて、サリ気ナク・見せていた芸能ブローカー)
この辺りはなぜか、
普段からも若い女性に親しみを持たれる
不思議な 
 
    魔 力  
 
を持つオジサン・のように、
相手のペースに合わせた
駆け引き上手
な芸能ブローカーだった。
 
「だって、もう自分で一枚あるからいいじゃねぇか」
「よくないぃ。友達の分も欲しいのぉ・・・」
「・・・しょうがねぇなぁ、じゃ、あと一枚だけだからな。
今日はこれで終わりな」
「やったぁ!!!」
と、思い切り喜ぶ若い娘。
決して金額は気にしない。
 
「はい次、本番入りますよ、本番!」
と、横にいたスタッフは半分怒った様子だった。
そうして、この日の撮影も無事終了し、
陽が暮れる中、スタッフは現場の後片付けに追われ、
仕出しは急いで衣装から自前の洋服へ着替え、
帰り支度を整えていた。
芸能ブローカーは、
次のスケジュール予定を助監督と確認を取り、
連れてきた仕出しの人数を数え直すと、
今日も無事、
何事もなく終った仕事現場を見守るように、
空を見上げて云った。
 
「明日も いい天気だなぁ、きっとぉ・・・」 
    
    
     つづく 。