ミラクル3ショット ~ 黄昏の芸能ブローカー / action 006  | “Mind Resolve” ~ この国の人間の心が どこまでも晴れわたる空のように澄みきる日は もう訪れないのだろうか‥
 
 
        action 006  
 
 

世の中には色々な職業があって、
日本の映像業界のスタッフ側(?)の一人、
自分の好きなことを堂々とやって
とても楽しく仕事をしている人もいた! 
・・・・・ということを発見した瞬間がある。
俺も初めて逢った時はちょっとビックリした。
「世の中にはこんな人もいるんだ」
視野が拡がった。
ここではその人のことを仮に
”芸能ブローカー”
と呼ぶことにしよう。
本人も、
「オレは芸能ブローカーだ」
と云っている。
云っているだけでなく、
やっていることも芸能ブローカーそのものだ。
 
ある日、芸能ブローカーは、
あの、人気テレビドラマ『刑事モノ・シリーズ』が
華々しくも映画化される運びとなった撮影現場で
こんなことをやらかしていた。 

    
芸能ブローカーは云った。
「お前たち早く警官衣装に着替えろ!」
この日、用意された仕出しは
警察署内の職員、警官、婦人警官のほか、
台本の内容に沿って設定された署内を覗く近所の野次馬を数十名。
それでも、
その雰囲気づくりに人の数が足りなければ映像背景も寂しくなる。
そこでお願いするのが、
一般ギャラリーの任意での出演依頼。
この日は仕出しの数よりも、
ごく普通に純粋なファンとして出かけてきた様子の、
若い女性や年配の女性が多かった。
そういうことは、巷で人気あるドラマや映画の撮影ともなれば、
よくあることで、決して珍しいことではない。
ハリウッドとは違い、日本の場合は、
その出演にギャランティが発生するということも考える者もなく、
また何の疑いもなく二つ返事で承諾してしまうのが一般の民間人である。
それほど、自分自身が、
「有名人と競演できる、どうしよう、嬉しい・・・」
という具合に、
素直な、ごく普通の純粋なファンの気持ちが先に立つ。
これは、いか仕方ない。
    
やがて撮影は開始された。
警察署内の門の前で騒ぐ一般人。
揉み合う数人の警察官。
この物語にはよくある場面で
「ここの警察は一体どうなってるんだ!」
というようなシーンの、そのひとコマである。
といってもカメラは奥の方にあって、
役者の芝居の背景にある絵が、
その大切な 
雰囲気づくり ” 
の仕事である。
映画もテレビも知っての通り、
撮影するその撮り方には監督によっても異なるが、
だいたい、テスト
        本テス本番のつもりのテスト 
          本番

と、3段階ある。
そしてここではまず、
「テストぉっ!」
と、監督の指示を受けた助監督の声。
と、その時だった!
芸能ブローカーは自らも、
その、“小競り合う人々”のシーンに紛れ込み、
持っていたいつものセカンドバッグの中から、
すかさず、
一枚のテレフォンカードを取り出した。
そして、
「よぉよぉ、そこのお姉ちゃん、
ちょっとこういうのあるんだけど見てみねぇかい?」
と、芸能ブローカーは、
見ず知らずの一般人の、
その若い娘に声をかけた。
「ああ、スッゴーイ!」
と、その一枚¥500のテレフォンカードにプリントされていたものは、
あの、
    
      
   
であった
「欲しいか?」
「うん、欲しい! どこで売ってるのぉ?」
その会話を遮るかのように、
照明の横に隠れ、本体からの合図を待つ若いスタッフの一人が云った。
「すいません、
エキストラのみなさんは、このシーンの撮影中は
静かにしておいてもらえますか!」
と。
すると芸能ブローカーは、
「いいじゃねぇかよ、
今まだテストじゃねぇか!」
と、返す。
その顔いつも現場にいるスタッフの一員のような芸能ブローカー
に気づいた若いスタッフは、   
黙っていた。
   
   
    つづく。