図書部(読書好きの会)のメンバーの二人が、面白かったといっていたのが、この「本格小説」
2巻もあるし、と思いながらもう読み始めると止まらなかった。
最初は、恵まれない境遇で生きてきた男が大金持ちになり、なお孤独な様子の展開に、これは「グレート・ギャツビー」みたい、と思った。
途中までは、本当にそんな感じだった。彼が思いを寄せる女性がでてくるところも。そして彼女が家柄の良い女性だったということも。
しかし、単なる恋愛小説ではなかった。
戦後の貧しい時代に毎夏に軽井沢の別荘で過ごす、いわゆる上流階級の人々の暮らしぶりが、その言葉遣い、食事内容、服装、考え方など全て細やかに描かれていく。
その裕福で美しい三姉妹の一人、夏絵の家庭に女中として雇われた女性が語る長い長い物語。
終盤に日本のことを語る場面があり、日本はどうでしょうと若者がきくと、軽薄、いや希薄だね、と答えられる場面もでてきて、大きな流れでは日本が終戦後に立ち上がり、経済成長のあとにバブルを経験し、やがてゆっくり沈んでゆく昭和と
いう時代も描かれている。時が過ぎて裕福だった三姉妹も高齢となり、軽井沢の別荘ももう人手に渡っているのである。
ここで私は漱石の「三四郎」を思い出してしまった。明治の世、上京する三四郎が汽車の車中で、日本は発展するでしょう、と言うが「滅びるね」と返される場面である。
心象風景のように、写真もところどころに挟み込まれている。昭和の日本と昭和の家族の移ろう姿がうまく描かれている。
心の中のことが、自然現象の雨や風や草木の様子とつながっていく。
なんか、うまく言えないけど今年の私のベスト1小説かも。