最初に観たゴバディ監督の作品は「亀も空を飛ぶ」だった。
戦争で家も家族も無い、自分しか頼れない過酷な状況の中で必死に生きている
子供たちの姿に言葉を失い、あまりに悲しい運命に翻弄される少女の結末に、
自分でびっくりするほど大泣きしてしまった。
この「Hafl Moon」はアメリカでジャケ買いし、後でゴバディ監督作品だと気付いた。
随所に散りばめられたダフの演奏や女性歌手の歌声が、過酷な現実を柔らかく包み込む。
やっぱり最後は大泣きしてしまったのだけど。
<あらすじ風>
今はイランに住む年老いたクルド人音楽家マモが、死ぬ前にフセイン政権崩壊後の
イラクのクルド人自治区へ行き、37年ぶりのコンサートを開くことを決意する。
彼の弟子は次の半月の前に不吉な事が起きると予言し、演奏旅行の中止を訴えるが、
マモは聞く耳を持たず、かつての弟子たちを集め、おんぼろバスに乗り込んで出発する…。
見所は、国境へ向かう途中"天上の歌声"を持つ女性歌手ヘショを迎えに立ち寄る、
女性音楽家が軟禁されている村のシーン。何千人もの、音楽を奪われた女性たちが、
ダフを振って歌い出した途端に鳥肌が立った。
私もダフの音色が好きで、自分でDVDを取り寄せて練習したりしているけど
彼女たちの様な魂が震える音は出せていない…。
音楽を続けるために人生をかけて戦うなんて、こんなぬるま湯に漬かった様な
生活の私には考えられない。幸せだけどちょっと悲しい。
今もイランでは女性が歌うことはご法度なので、この映画を上映する許可が下りないらしい。
「亀も空を飛ぶ」もすぐに上映を切られてしまったらしい。
イランは彼の映画制作を全く支援していない。クルド人の現実を見る気は無いらしい。
今年に入ってアメリカのDreamWorksが、ゴバディ氏に監督して欲しいと
オファーしてきたらしいが、制作方法と脚本をアメリカ側がディレクションするという点で
話が決裂した様だ。ゴバディ氏に全て任せればいいのに。