人それぞれ違うのだけど、
最近、わたしの場合、素材から発想してゆく事が多い。
そして、織り上がった布の肌触りを想像して、具体的にどうするのかを決めてゆく。
以前は、色とか、組織とか、文様とか、
そういう事から考え始めて、
組み立ててゆく事が多かったのだけど、
最近では、それ等が二次的な要素となった。
「やっぱり、身につけるものは、気持ちいい肌触りが一番大事だと思う。」
まぁっ、感覚的なものだけど、"身につけるひとの生理的な気持ち良さを満たすこと"が、自分の作品の大事な要素になってきたので、ますます糸の事に興味がでてきた。
この前、蚕糸館の東さんが、養蚕にとりかかる前に、いろんな糸を送ってくれて、その子達は、いろいろ表情が豊かで見ているだけでも楽しくなる。
特に、今一番興味があるのが、
上州座繰り器の普及以前は、どのようにして、
繭から糸をとっていたのかという事なんだけど、・・・。
繭から直接糸を引き出す方法や、三丹流といわれるような方法、
また、牛頸(うしくび)やオッタテと云われるような器具に胴(どう)という今の糸枠に相当するものを挿して、
そこに引き出した糸を巻きとってゆく方法などがあって、
それぞれ風合の違う糸になる。

【牛頸(ウシクビ)に挿した胴(どう)】

【山繭養法秘傅抄(文政10年/西暦:1827年)】
そういう上州座繰り器以前の"糸ひき"の実際について示されている資料のひとつに、
「山繭養法秘傅抄」(文政10年/西暦:1827年)という、
山繭の養蚕法について書かれた江戸末期の書物があるが、・・・。

【"山繭養法秘傅抄"に記された上糸の引き方 】
この挿絵は、「上糸に引仕法」として、同書に示されているものなのだけど、中糸、下糸の引き方などの"糸引き法"の事と、他に、紬織りの事などについても示されていて、その意味でも興味深い。
また、この挿絵では、鼓車と振り手がついていない座繰り器が用いられ、引き手の女性の左手は、ウシクビを用いて引く時のような仕草をしている。
江戸期の小袖などでは、撚りがほとんどかけられていない糸が使われているので、このようにしてとった糸かと思うと、興味が尽きない。