会社へ向かうため、
玄関のドアを開けようとした時、
そのあまりの重さに敏は動揺した。
体全体でドアを押し、一歩、外に出ると、
そこは白一色の世界だ。
つい30分ほど前までは
雪がちらついていたとはいえ、
こんな吹雪ではなかった。
「なんだコレ!」
気持ちが折れそうになるのに
耐えながら歩き出す。
だが、彼の進行方向から風が吹いてくるので
前を向くことができない。
無理して顔を上げようとすると
雪が痛いほど打ち付けてくる。
しかも、息が出来ない。
「最悪だ!」
ただ吹雪というのは
そんなに長くは続かない。
息も出来ないひどい状態は
5分もすると小康状態を迎える。
もう長年の経験でそれを体感している敏は
無理して吹雪に立ち向かおうとせず、
奴の小休止を利用して前に進んだ。
敏の家から地下鉄の駅まで
およそ15分の道程。
そこは住宅街で、比較的一戸建てが多い。
どこの家も、老若男女、総出で
雪かきをする姿が見られる。
ただ、どこの家も自分のテリトリーを
除雪するのに精一杯で
歩道まで雪かきをする余裕などない。
地下鉄へ向かう道は
真っ白な新雪に覆われていた。
「邪魔だな。」
敏はまたぼやき始めた。
「雪なんてなんのためにあるんだ。
必要か?これ。」
心の中で、そうブツブツ言いながら
雪をかき分けて進む。
「もう冷たくなって来たよ。
濡れてんな…これ。」
敏はショートブーツを履いていたのだが
雪をこいで歩くと雪はすぐに
ブーツの中に入ってくる。
そして、ブーツの中で融ける。
5分も経たないうちに靴の中は水浸し、
足は濡れた冷たさと外気温の冷たさで
痛くなってくる。
「最悪だ!替えの靴下持ってくるべきだった。」
次々に襲ってくる不幸に
敏は、半ば、呆れ始めていた。
風と雪だけではなく、
吹雪は厄介な事に道路の状況に影響を与える。
風に舞った雪が吹き溜まりを産み、
1mもの雪山が出来ているかと思えば、
凍った路面がむき出しになっているところもある。
歩く側は風と雪で見通しが悪い中、
的確に道路状況を把握して歩かなければならない。
また、風が強くなり始めた時、
敏はぼやきに気を取られて状況判断を誤った。
無造作に氷の上に踏み出してしまったのだ。
こうなると雪国育ちの経験値も役に立たない。
次の瞬間、敏の体は
ドロップキックをするレスラーのように
見事に宙に舞った。 …続く