卒業生のコンサートが続く。


今日は家族から時間をもらって朝から事務的な仕事に従事し、夜は長坂美玖さんのコントラバスリサイタルへ。


会場はほぼ満席、名古屋フィル、セントラル愛知他、この地区の大御所コントラバス奏者たちの姿が散見される。


コントラバスのソロはもちろん何度も聴いてきたが、ソロリサイタルはもしかしたら初めてかもしれない。


以下の話を自分からするのはこれで最後にしたい。


長坂さんは明和高校音楽科にピアノ専攻生として入学してきた。


その年の1年生にコントラバスの専攻生はもちろん、副科希望の生徒もいなかった。


このままでは弦楽合奏ができない。


もう一度新入生の副科希望調査票を確認すると、第3希望くらいにチェロと書いてあるものを発見した。


当時1年生担任をしていた僕は、すぐにその生徒が背が高い女子生徒だったことに思い当たり、彼女を呼び出してこう言った。


「ちょっと大きいチェロやらない?」


彼女は「それチェロじゃないですよねー。」と言いながらも、「はい、やってみます。」と言ってくれた。


「おお!ありがとう!合唱奏は弦楽合奏だからね!」


とだけ伝え、彼女は副科でコントラバスを学び始めることになる。


最初の副科試験では、彼女は終盤で暗譜が飛び、再試験となった。


涙を流して悔しがる彼女に、僕は責任を感じながらなんとか前向きになってもらえるように励ました。


とはいうものの、彼女の奏でるコントラバスの音色は副科のそれとは思えないほど深く色彩的で、何より音楽的だった。


それもストレートに彼女に伝えた。


2年生になってからも彼女は専攻のピアノもさることながら副科のコントラバスの力もメキメキとつけ、2年生後期の頃にはほとんど自由に楽器を操っていたように感じられた。


2年生も終わりに差し掛かった頃、彼女は僕のところに相談があると来てこう言った。


「コントラバス専攻に転専攻したいです。」


さすがに狼狽えた。


たしかに2年間はお世辞抜きに彼女のコントラバスを賞賛してきたが、専攻となると話は別だ。


「よく考えろ」

「考えました」

「もう決めたことなのか」

「はい決めました」


彼女の揺るぎない頑固さや一途さはよく知っていたので、その覚悟を尊重して転専攻試験を受けられる手続きを進めた。


彼女は見事に試験を突破し、高校最後の1年をコントラバス専攻生として送り、なんとストレートで第一志望の東京藝大に合格した。


あれから6年、現在は大忙しのコントラバス奏者となり、藝大フィルハーモニア管弦楽団の首席奏者も務めている。


藝大に入った頃はネタとして彼女がいる時にはこの話をよくしていたが、今はもう立派なプロ奏者となり僕ももう恥ずかしくなってきたので、これで最後にしたい。


教員として途轍もなく嬉しくもあり、物凄く大きな責任を感じる瞬間は、生徒の人生の一部に自分がいると感じた時だ。


大好きなシューベルトのアルペジオーネソナタの2楽章では、涙が溢れてきた。


本当に心に沁みる、素晴らしいコンサートだった。


終演後。

ピアノも卒業生、八部陽菜さん。