この前まで毎日のように通っていた教室に、通い慣れたルートで向かい、終業式以来に中へ入った。


黒板はあの日のまま時が止まっていて、耳をすませば彼女たちの声が聞こえてきそうだったが、外の工事の音が逆に教室の静寂を引き立てる。


沈黙に身を委ねているのも悪くなかったが、一件用事を思い出したのでその場で電話をかけた。


教室で誰かと会話をできていることに少しホッとしたような暖かな気持ちを味わいながらも、内容としては至極事務的なもので、通話終了の赤いアイコンに触れた瞬間に工事の音と静寂がさっきよりも強く鼓膜を揺らす。


帰らぬ時は大切な人たちの未来へ続く尊い過去のはずだ。


しがみついてもたった1人どこまでも取り残されていくだけで、誰も戻ってきてはくれない。


もうすぐこの教室に入ってくる、あの頃のあの子たちのようにキラキラと目を輝かせた新入生のために無垢な深緑色に戻さねばと思ったが、今日はできず、立ち去った。