ちょうどひと月前の11月22日、明和高校音楽科第70回記念定期演奏会の初めての全体リハーサルの時のこと。
この日は作曲家の伊藤康英氏をはじめ、ソリストの山崎祐介先生、河合雪子さん、指揮の小森康弘氏が集結した。
モーツァルトのフルートとハープのための協奏曲から始まり、アニヴァーサリーオーケストラ&コーラスと名付けられたメインプログラム、伊藤康英氏の「悲しみから歓びへ」と進んだ。
初めての全員での通し。
山崎先生のカデンツァがどこまでも美しく響く。
まだオーケストラも合唱も未熟な部分はあれど、作品が持つ音楽の感動は十分に感じることができ、その場にいた全員の心が震えた。
伊藤先生も感激して下さったが、まだまだ完成までは程遠く、指揮者と作曲者による要所要所の細かいリハーサルが始まった。
主にはシラーの歌詞の意味や、ドイツ語の発音についてのアドヴァイスが多かったように思うが、そんな時ふと伊藤先生が、「サクソフォーンの皆さん!」とオーケストラに呼びかけた。
ドキッとした。
一度でもオーケストラで「捕まった」経験がある人は反射的に身構える。
そして曲中ではじめてサクソフォーンセクションが演奏する静かで美しい、しかしシビアな部分を取り出し演奏させた。
「僕はね、この話を頂いた時、オーケストラにサックスが9人もいたら、どうにかなっちゃうんじゃないかと心配してたんだよ。」
息を飲む。
「でもね、さっき聴いたらね、サックスなんていなかったんだよ!」
僕はすぐに意味がわかった。
生徒たちはポカンとしているように後ろからは見えた。
「褒めてるんだよ!みんなオーケストラの音だったよ!」
ホッとした空気が流れ、自然と周りから拍手が起きた。
「サックスなんていなかった」
ともすれば傷つきそうな言葉に聞こえるかもしれないが、僕にとってはサクソフォーン教師としての一つの信念が報われた瞬間に感じられた、最上の褒め言葉だった。