ピアノなどの老舗楽器のオリジナル作品には、複数の出版社の版があるのは常識である。


奏者によって好きな版や、最も原典版に近いとされるものや、校訂が信用できるとされるものなどを選んで、または複数を研究しながら使用している(のだろう)。


サクソフォンのオリジナル作品で、複数の版が存在するものはほぼなく、2010年にベーレンライター社から出版されたグラズノフの協奏曲が唯一と言ってもいいかもしれない。(ドビュッシーのラプソディは多数あるが、多数の編曲という方が正しいかもしれない)


グラズノフへの直接の委嘱者であるS.ラッシャーの娘、カリーナの監修であり、グラズノフの自筆譜のコピーの一部が掲載されるなど、元々のグラズノフが書いたであろう原典版に迫るものとなっている。


従来のルデュック版だけ見ていたら気づきにくいこともあり、見比べているのは面白い。


例えば、ルデュック版ではグラズノフが書いたカデンツァが全て小節数に含められているが、ベーレンライター版では本来のカデンツァの書き方である、一小節とされているので、ルデュック版よりも全小節数が少ない。


ちなみにベーレンライター版では全329小節であるが、カデンツァはその中の164小節目に差し込まれている。


そう、曲のど真ん中に位置しているのだ。


僕は、この作品はグラズノフがある意図を持って書いたのではと推測し、日々楽譜と睨み合っている。