この時期は毎年たくさんの演奏を審査させて頂く。

審査員という立場から、どんなに多くて耳や頭が疲れてきても、1人1人、また1組1組にとっては一度しかない演奏であり、その演奏を責任持って見守り、自分なりに評価する責任がある。

今期も、今話題の吹奏楽連盟系のアンサンブルコンテスト、ソロコンテストで346組、明和高校音楽科の専攻試験で115人の演奏を聴かせてもらった。

来週には音楽科2年生の重奏重唱の試験があり、月末には高校入試が始まる。


真剣になればなるほど、ステージの上からの緊張が自分の心臓に伝わってくる。

よく聞かれる、「先生も緊張しますか?」

そうすると僕はいつもこの話をする。

まだ20代前半の頃、オーケストラの客員などの仕事を少しずついただくようになり、そんな時名古屋フィルハーモニー交響楽団で、2日間でラヴェルの「ボレロ」の5回本番という仕事を頂いた。

ボレロには2種類の約1分のソロが様々な楽器に割り当てられていて、サクソフォンにもテナーとソプラノにソロがある。

自分の順番が迫ってくるのは、死刑台に上っていく気分だ。

不謹慎だが、今隕石が落ちたら公演は吹き飛ぶだろうかととんでも妄想に駆られたこともある。

そんな時、当時名フィルのベテランオーボエ奏者だった方(ボレロではオーボエ・ダモーレのソロを担当されていた)に、初日が終わった後勇気を出して聞いてみたのだ。

「何回くらいボレロ経験したら、緊張しなくなりますか?」

返ってきた答えはこうだ。

「あのなー堀江くん。俺なんかオケ30年以上やっててもちゃんと毎回緊張するで。そんなの当たり前やんか。逆に緊張せん本番なんて迎える日が来たら、演奏家は終わりやで。」

準備に余念がないからこそ緊張する。

しかしその緊張はちゃんと強い味方になってくれる。

準備もろくにしないで適当な本番をする日が来たら、確かに演奏家は終わりだ。


その日から僕は毎回思う。

すっごい緊張するなー。
あー、僕はまだ大丈夫だ。
必ずうまくいく。

緊張は無くすものではなく、うまく付き合う大切な味方なのだ。