○公園 (深夜)
不気味に浮かび上がる夜桜。
その向こうに朧月。
辺りは人気が無く、静まり返っている。
点滅する街灯にぼんやりと照らされて
いるベンチ。
一人、房子が座っている。
房子、手に持った包丁を眺め
房子「やっぱり無理…人を殺すなんて」
房子、諦めて立ち上がる。
と、足音がする。
急いで花壇に隠れる房子。
様子を窺う。
宮川さなえ(26)が足早に歩いて来る。
唾を飲み込む房子。
手に持った包丁を眺める。
包丁、鈍い光を放つ。
息を呑む房子。
思い切って出て行こうとする。
が、足が前に進まない。
さなえ、房子の前を通り過ぎていく。
諦めたように溜息を吐く房子。
その場に座り込む。
ぼんやりと空を見上げる房子。
曇天の夜空には朧月。
× × ×
(フラッシュ・レストラン・表)
朧月が涙で更にぼやける。
鼻をすする房子。
一心に月を眺める。
× × ×
唇が震える房子。
包丁を握り締める。
房子「どうせ死ぬつもりだったんだから…」
房子の目、据わっている。
房子、ふらりと立ち上がる。
歩き出す房子。
その視線の先にはさなえの背中。
房子、どんどん早足になっていく。
さなえの背中、段々近づいてくる。
ついに駆け出す房子。
さなえの背中、目前に迫る。
訳の分からない叫び声を上げる房子。
包丁を振り上げる。
振り向くさなえ。
目を見開く。
強い風が吹き、激しく桜が舞う。
○㈱レントビューティー・表 (深夜)
地下に続く階段を駆け下りていく房子。
血に染まった右手には毟り取った様な
髪の毛が数本握られている。
○同・事務所前 (深夜)
房子、息を切らしながら扉の前に立つ。
『㈱レントビューティー』のプレート。
房子、激しく扉を叩く。
房子「開けて!商品持ってきたから!
30分経っちゃうよ!早く!」
扉を叩き続ける房子。
と、鍵の開く音。
安堵する房子。
扉が開き、黒崎が顔を出す。
黒崎、房子の髪の毛が握られた手を一瞥し
黒崎「…どうぞ」
○同・一室 (深夜)
薄暗い室内。
部屋一面にずらりと個室に続く
扉が並んでいる。
房子、部屋の隅に立ち、圧倒された
ように辺りを眺めている。
と、黒崎が入って来る。
黒崎、鉛色に光るカードを房子に差し出す。
黒崎「会員カードです。これであなたも
我社の会員様でございます」
房子、カードを受け取り、眺める。
『レントビューティー会員土岐房子様』
の文字。
房子「…(複雑な表情)」
黒崎「早速レンタルされますか?」
房子「…勿論よ」
房子、自分の右手を見つめて呟く。
房子「一線越えてしまったんだから。
この顔に未練は無い」
黒崎、房子にパソコンの画面を見せる。
黒崎「商品のリストです。お好きなものを
お選びください」
房子、パソコンを見る。
フォルダは年齢別に分けられている。
房子、『15歳~20歳』の部分を開ける。
裸の女の写真が並び、番号がふられている。
写真の女達はどれも魂が入っていない
かのように無表情である。
画面をスクロールしていく房子。
『17番』を指差す。
房子「じゃあ…この17番」
黒崎、房子の指差す写真を見て
黒崎「こちらの商品は享年19歳だった
方のものです。申し訳御座いませんが土岐様は
現在28歳でいらっしゃいますのでその前後5歳…
24から32までの女性をお選び下さい」
房子、眉を顰め
房子「どれを借りてもいいんじゃないの?」
黒崎「装置の技術上お客様の年齢の前後5歳
以内でないとうまく行きませんので…」
房子、舌打ちをしてぼやく。
房子「好きなもの選べって言ったじゃない」
房子、『21歳~25歳』を開ける。
ざっと目を通し、『29番』を指差す房子。
色気のある美人。
房子「この29番お願い」
黒崎、一礼し
黒崎「かしこまりました。こちらへどうぞ」
黒崎、手前の個室の扉を開ける。
扉の向こうに不気味な光を放つ装置が
ちらりと見える。
息を呑む房子。
房子、黒崎について個室に入っていく。
閉まる扉。
○夜空 (深夜)
雲間から顔を出す月。
美しい光を放つ。
○㈱レントビューティー・一室 (深夜)
(※以下、次の指定があるまで
房子の姿は29番の女で)
個室の扉が開く。
そこから出てくる房子の足。
黒崎、房子を見て感嘆したように頷く。
黒崎「お美しいですよ。鏡をご覧下さい」
黒崎、房子に大きな手鏡を渡す。
手鏡を受け取る房子の手。
鏡を覗き込む房子の目。
驚いたように見開く。
鏡に映っているのは29番の女。
写真通りの美しさである。
自分の姿に見惚れる房子。
そっと頬を撫でる。
房子「…すごい…」
房子を見つめる黒崎。
不気味な笑みを浮かべる。
