暇つぶし携帯小説

暇つぶし携帯小説

お暇な方、ドラマや小説が好きな方はどうぞご覧下さい。
通勤中や待ち時間の暇つぶしになるはず。
※脚本形式で書かれています。
ドラマを見るように場面を想像して
お楽しみください。

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○公園 (深夜)
   不気味に浮かび上がる夜桜。
   その向こうに朧月。
   辺りは人気が無く、静まり返っている。
   点滅する街灯にぼんやりと照らされて
   いるベンチ。
   一人、房子が座っている。
   房子、手に持った包丁を眺め
房子「やっぱり無理…人を殺すなんて」
   房子、諦めて立ち上がる。
   と、足音がする。
   急いで花壇に隠れる房子。
   様子を窺う。
   宮川さなえ(26)が足早に歩いて来る。
   唾を飲み込む房子。
   手に持った包丁を眺める。
   包丁、鈍い光を放つ。
   息を呑む房子。
   思い切って出て行こうとする。
   が、足が前に進まない。
   さなえ、房子の前を通り過ぎていく。
   諦めたように溜息を吐く房子。
   その場に座り込む。
   ぼんやりと空を見上げる房子。
   曇天の夜空には朧月。
   ×     ×     ×
   (フラッシュ・レストラン・表)
   朧月が涙で更にぼやける。
   鼻をすする房子。
   一心に月を眺める。
   ×     ×     ×
   唇が震える房子。
包丁を握り締める。
房子「どうせ死ぬつもりだったんだから…」
   房子の目、据わっている。
   房子、ふらりと立ち上がる。
   歩き出す房子。
   その視線の先にはさなえの背中。
   房子、どんどん早足になっていく。
   さなえの背中、段々近づいてくる。
   ついに駆け出す房子。
   さなえの背中、目前に迫る。
   訳の分からない叫び声を上げる房子。
   包丁を振り上げる。
   振り向くさなえ。
   目を見開く。
   強い風が吹き、激しく桜が舞う。

○㈱レントビューティー・表 (深夜)
   地下に続く階段を駆け下りていく房子。
   血に染まった右手には毟り取った様な
   髪の毛が数本握られている。

○同・事務所前 (深夜)
   房子、息を切らしながら扉の前に立つ。
   『㈱レントビューティー』のプレート。
   房子、激しく扉を叩く。
房子「開けて!商品持ってきたから!
30分経っちゃうよ!早く!」
   扉を叩き続ける房子。
   と、鍵の開く音。
   安堵する房子。
   扉が開き、黒崎が顔を出す。
   黒崎、房子の髪の毛が握られた手を一瞥し
黒崎「…どうぞ」

○同・一室 (深夜)
   薄暗い室内。
   部屋一面にずらりと個室に続く
   扉が並んでいる。
   房子、部屋の隅に立ち、圧倒された
   ように辺りを眺めている。
   と、黒崎が入って来る。
   黒崎、鉛色に光るカードを房子に差し出す。
黒崎「会員カードです。これであなたも
我社の会員様でございます」
   房子、カードを受け取り、眺める。
   『レントビューティー会員土岐房子様』
   の文字。
房子「…(複雑な表情)」
黒崎「早速レンタルされますか?」
房子「…勿論よ」
   房子、自分の右手を見つめて呟く。
房子「一線越えてしまったんだから。
この顔に未練は無い」
   黒崎、房子にパソコンの画面を見せる。
黒崎「商品のリストです。お好きなものを
お選びください」
   房子、パソコンを見る。
   フォルダは年齢別に分けられている。
   房子、『15歳~20歳』の部分を開ける。
   裸の女の写真が並び、番号がふられている。
   写真の女達はどれも魂が入っていない
   かのように無表情である。
   画面をスクロールしていく房子。
   『17番』を指差す。
房子「じゃあ…この17番」
   黒崎、房子の指差す写真を見て
黒崎「こちらの商品は享年19歳だった
方のものです。申し訳御座いませんが土岐様は
現在28歳でいらっしゃいますのでその前後5歳…
24から32までの女性をお選び下さい」
   房子、眉を顰め
房子「どれを借りてもいいんじゃないの?」
黒崎「装置の技術上お客様の年齢の前後5歳
以内でないとうまく行きませんので…」
   房子、舌打ちをしてぼやく。
房子「好きなもの選べって言ったじゃない」
   房子、『21歳~25歳』を開ける。
   ざっと目を通し、『29番』を指差す房子。
   色気のある美人。
房子「この29番お願い」
   黒崎、一礼し
黒崎「かしこまりました。こちらへどうぞ」
   黒崎、手前の個室の扉を開ける。
   扉の向こうに不気味な光を放つ装置が
   ちらりと見える。
   息を呑む房子。
   房子、黒崎について個室に入っていく。
   閉まる扉。

○夜空 (深夜)
   雲間から顔を出す月。
   美しい光を放つ。

○㈱レントビューティー・一室 (深夜)
   (※以下、次の指定があるまで
   房子の姿は29番の女で)
   個室の扉が開く。
   そこから出てくる房子の足。
   黒崎、房子を見て感嘆したように頷く。
黒崎「お美しいですよ。鏡をご覧下さい」
   黒崎、房子に大きな手鏡を渡す。
   手鏡を受け取る房子の手。
   鏡を覗き込む房子の目。
   驚いたように見開く。
   鏡に映っているのは29番の女。
   写真通りの美しさである。
   自分の姿に見惚れる房子。
   そっと頬を撫でる。
房子「…すごい…」
   房子を見つめる黒崎。
   不気味な笑みを浮かべる。
○房子のアパート・中 (夜)
   ガムテープを剥がす音。貼る音。
   ボロボロの土壁に傷んだ畳。
   小さな炬燵机の上には数枚の葉書が
   無造作に置いてある。
   葉書には『**ローン』や
   『返済が滞っております』の文字。
   薄汚れた窓の向こうにはぼんやりと
   浮かぶ夜桜。
   窓の縁にガムテープで目貼りをする
   土岐房子(28)の醜い手。

○レストラン・店内 (回想・夜)
   落ち着いた雰囲気の高級レストラン。
   焦燥した様子で店内に入って来る
   房子の足。
   ボーイを振り切り、一直線に一つの席
   の前に立つ房子の背中。
房子「佐田さん…どう言う事!?」
   席に座る佐田哲也(30)と向田輝美(21)、
   同時に振り向く。

○元の房子のアパート・中 (夜)
   ガムテープを目貼りする房子の背中。
   窓ガラスにその顔が映る。
   醜い女。

○レストラン・店内 (回想・夜)
   佐田に詰め寄る房子。
房子「浮気してたの!?」
佐田「浮気?」
   佐田、鼻で笑う。
佐田「浮気って…もしかしてお前自分が
本命だとでも思ってたのか? その顔で」
房子「だ…だって結婚するって…」
   佐田、声を上げて笑い出す。
   輝美、怪訝に
輝美「誰?」
佐田「例のカモネギ」
輝美「あー」
   輝美、ニッコリと房子に笑いかける。
輝美「どーもぉ。いつもお金、ありがとう
ございまぁす! お陰様でこうして贅沢
させて貰ってま~す!」
  房子、愕然とする。
房子「どういう事? 親の借金肩代わりして
大変なんじゃないの!?それ返したら結婚
できるって…う…嘘だったの!?貸したお金は!?」
佐田「は?誰がお前なんかと結婚するか!
丁度良かった。お前の顔、そろそろ限界
だったし。もう俺に近寄るな」
  房子の唇、わなわなと震えだす。
房子「ひ…酷い…」
   房子、嗚咽を堪えながら
   佐田にすがりつく。
房子「お金…せめてお金だけでも返して…」
佐田「金? そんなもん借りたか?
証拠あんのか?」
房子「そんな…酷い…酷い…」
   房子、ついにポロポロと涙を零す。
   周りの客、遠巻きに房子を見る。
   嘲笑を浮かべる輝美。
輝美「やだ、泣いちゃったよ~。
超キモいんですけど」
   佐田、房子を振り払う。
   その拍子に尻餅をつく房子。
   佐田、吐き捨てるように
佐田「消えろよ。飯が不味くなる」

○元の房子のアパート・中 (夜)
   コンロの前に立つ房子。
   ガスの元栓を抜く。
   シューっとガスの漏れる音。
   房子、その場に寝転がる。
   虚ろな目で窓の外を見る房子。
   窓の外には朧月。

○レストラン・表 (回想・夜)
   夜空に浮かぶ朧月。
   店内から駆け出してくる房子。
   夜空を見上げる。
   朧月が涙で更にぼやける。
   鼻をすする房子。
   一心に月を眺める。

○元の房子のアパート・中 (夜)
   目を閉じる房子。
   ガス漏れの音だけがしている。
   微動だにしない房子。
   ガス漏れの音。
   動かない房子。
   と、ノックの音。
   目を開く房子。
   玄関口を一瞥して再び目を閉じる。
   と、またしてもノックの音。
   目を閉じたままの房子。
   ノックの音、しつこく続く。
   目を開く房子。
   溜息を吐いて億劫そうに立ち上がる。
   ガスの元栓を締め、よろよろと玄関口に
   向かう房子。
   扉を開けて、咽こむ。
   ひとしきり咽た後、顔を上げる房子。
   そこに立つのは営業マン風スーツ姿の男、
   黒崎福男(43)である。
   房子、警戒しながら
房子「何?」
   黒崎、礼儀正しくお辞儀して
黒崎「お取り込み中申し訳ございません。
私、こういうものです」
   黒崎、ジャケットから名刺を取り出し
   房子に差し出す。
   名刺を眺める房子。
   名刺には『㈱レントビューティー
   企画営業部部長黒崎福男』の文字。
房子「レントビューティー?」
黒崎「失礼ですが容姿についてお悩みでは
ありませんか?」
   房子、納得したように頷き、手を振る。
房子「あぁ。エステとか整形とかね。
そういうのなら無駄。今まで何したってダメ
だったんだから。それに私お金無いの。
他あたって」
黒崎「いえいえ。我社はそういった類の
会社ではありません。容姿をいじるのでは無く
まるきり取り替えてしまうのです」
房子「はぁ?」
黒崎「つまり容姿を貸し出しているのです。
レンタルビデオ屋のように」
房子「…(意味分からず)」
   黒崎、鞄からパンフレットを取り出す。
   房子に向けてパンフレットを広げる黒崎。
黒崎「我社はクローン技術を応用し、
人の入れ物、つまり外見のみを別人に変化させる
技術を取得しました」
   パンフレットを眺める房子。
   人一人が寝転んで入れる程度の
   カプセル状の装置が載っている。
黒崎「この装置を使って容姿を貸し出して
いるのです」
   鼻で笑う房子。
房子「そんなすごい装置が出来たらとっくの
昔にニュースになってるでしょ。
だけど聞いた事も無い」
黒崎「我社はごく一部の方しか知らない極秘の
会社なのです。サービス内容柄表立つと色々問題
もありますので」
房子「へぇ…」
   半信半疑でパンフレットを眺める房子。
   少し考えてから首を横に振る。
房子「やっぱりいいわ。どうせ今から
死のうとしてたんだから。必要ない」
黒崎「本当にいいのですか? 今まで馬鹿に
してきた人を見返したいとは思わないのですか?」
房子「…(少し心を揺さぶられる)」
   パンフレットを見つめる房子。
   そこには『醜さからの脱出!』の文字。
   房子、迷いながらも
房子「…遠慮しとく」
黒崎「そうですか…」
   黒崎、パンフレットを鞄にしまう。
黒崎「残念ですがそうおっしゃるならしょう
がないですね。お忙しいところ失礼致しました」
   黒崎、一礼すると踵を返して歩いていく。
   房子、扉を閉める。
   振り返り、部屋を見回す房子。
   貧相で何も無い部屋。
房子「…」
黒崎の声「今まで馬鹿にしてきた人を
見返したいとは思わないのですか?」
   ×     ×     ×
   (フラッシュ)
   吐き捨てるように言う佐田。
佐田「消えろよ。飯が不味くなる」
   ×     ×     ×
房子「…どうせ死ぬつもりなんだし…」
   房子、扉を開けて外を見回す。
   去っていく黒崎の後姿。
   房子、叫ぶ。
房子「待って!」
   立ち止まる黒崎。
振り返り、一瞬ニヤリと笑う。

○㈱レントビューティー・表 (夜)
   雑居ビルの群れの中にひっそりと佇む
   古いビル。
   地下に続く階段を下りて行く黒崎。
   房子、キョロキョロとしながら黒崎に続く。

○同・事務所前 (夜)
   階段を下り切り、扉の前に立ち止まる
   黒崎と房子。
   扉には『㈱レントビューティー』の
   目立たないプレートが貼り付けてある。

○同・応接室 (夜)
   一人、客席に座っている房子。
   辺りを見回す。
   怪しげな装置のポスター。
   本棚に並ぶクローン技術の専門書。
   部屋の隅に積まれた何かの部品。
   と、ノックの音がする。
   ドアが開き、黒崎が入ってくる。
黒崎「お待たせしました」
   黒崎、房子の向かいに座る。
   机の上に書類を広げる黒崎。
黒崎「早速入会にあたってのご説明を致します」
   書類は読む気を無くすような細かい字で
   びっしりと埋まっている。
   黒崎、書類を房子に見せる。
黒崎「まず会員カードですが一年単位で更新
して頂きます。年会費をお支払い頂いた日に
発行し、一年間レンタルし放題です」
   房子、書類を眺める。
黒崎「一年後の期限の一月ほど前に翌年の
会員費を納めて頂ければカードは自動で更新
されます。それから…」
   黒崎、房子を見る。
黒崎「これは大変重要な事なのですが…
我社の事は絶対に他言しないよう
お願い致します」
房子「もし話したら?」
   黒崎、房子に顔を寄せ、不気味に笑う。
黒崎「あなたの身に死ぬよりも怖ろしい事が
起こるかもしれません」
房子「…(ゾクッ)」
   フッと真顔に戻る黒崎。
黒崎「その他注意事項はこの書類を
ご覧ください」
   房子、紙一面に埋まった文字に
   うんざりと顔を顰める。
黒崎「ざっと目を通されましたら…」
   黒崎、もう一枚の紙を
   房子の前に差し出す。
黒崎「こちらの申込書にサインと
捺印をお願いします」
   房子、ボールペンを持ち、
   サインしようとする。
   ふと手が止まる房子。
   契約書には『年会費500万』の文字。
房子「500万!? そんなお金用意出来ないよ」
   房子、立ち上がる。
房子「やっぱりこの話は無しにして」
   房子、出て行こうとする。
黒崎「お待ちください」
   房子、振り返る。
黒崎「よくお考えになってください」
   黒崎、立ち上がり、房子の前に立つ。
黒崎「お申込み頂けばあなたは自由に美貌を
手に入れることが出来るのですよ」
   黒崎、舐めるように房子の顔を見る。
黒崎「その顔は勿論の事…」
   黒崎、房子の平らな胸を見る。
黒崎「その胸も…」
   黒崎、房子の手を見る。
黒崎「その手も…」
   黒崎、房子の足を見る。
黒崎「その足も…」
   黒崎、薄笑いを浮かべる。
黒崎「世の男性を虜にする一級品が
手に入るのです」
房子「…」
黒崎「最初の500万さえ何とか用意すれば
その後の500万など容易く手に入ると
思いませんか?
何しろ女の武器があるのですから」
房子「…」
   房子、頬を撫でる。
   房子、胸を押さえる。
   房子、手を見つめる。
   房子、足を眺める。
房子「…わかった」
   房子、席に戻る。
   ボールペンを持つ房子。
   申込書にサインをする。
   黒崎、ニヤリと笑う。

○ニコニコローン・表 (朝)
   『ニコニコローン』の看板。
事務員の声「申し訳ございませんが…」

○同・窓口 (朝)
   仕切られ、半個室になっている窓口。
   カウンターを挟んで房子と女事務員が
   話している。
事務員「審査の結果お客様にご融資するのは
難しいかと…」
房子「…」

○道
   電柱に貼られたチラシ。
   『即融資090********』の文字。
   その横に立ち、電話をしている房子。
金貸しの声「無職でしょ? 車も無いんじゃねぇ~。
あなた結婚は? ご主人の年収いくら?」
房子「…」

○雑居ビル・一室 (夕)
   殺風景な室内。
   ヤクザ風の男数人がたむろする中、
   派手なスーツの男と話している房子。
男「女なら女の武器を担保にって手もあるけどね~」
   値踏みするように房子を見る男。
男「おたくはちょっとな…」
房子「…」

○㈱レントビューティー・応接室 (夜)
   向かい合って座っている房子と黒崎。
   机の上には申込書が広げられている。
黒崎「そうですか。ご用意出来ませんでしたか…」
   黒崎、申込書を手に取る。
黒崎「では残念ですがこのお話は無かった事に…」
   黒崎、申込書を破ろうとする。
房子「待って!」
   手を止める黒崎。
   房子を見る。
房子「何か他に入会出来る方法は無いの?」
黒崎「…(申込書を置く)」
   房子を見つめる黒崎。
黒崎「あるにはあるのですが…」
   黒崎に詰め寄る房子。
房子「何?教えて!この際何でもするから!」
黒崎「何でも…ですか?」
房子「何でも!」
   黒崎、少し考え
黒崎「…分かりました。教えましょう」
房子「何?」
黒崎「商品を一点、提供して頂くのです」
房子「商品?」
黒崎「商品。つまりクローンの元となる
人物の遺伝子です。これが中々手に入りにくい
ので商品不足に困っておりまして」
房子「…どうすればいいの?」
黒崎「その人物の髪の毛か爪か、とにかく
体の一部を持ってきて頂くだけで結構です」
   房子、安堵の溜息を吐く。
房子「何だ。簡単な事じゃない」
黒崎「ただしその辺を歩いている方じゃ
いけません」
   黒崎、房子に顔を寄せる。
黒崎「亡くなった方に限られます」
   顔を顰める房子。
房子「死体から髪を抜けって事?」
黒崎「そう言う事です。全く同じ容姿の人間
が世の中に2人いるとトラブルの元ですから。
亡くなった方のクローンしか作らない。
これは我社の決まりなんです」
房子「じゃあ病院かなんかに忍び込んで…」
黒崎「それから死後30分以内に物を
届けて頂かないとクローンは出来ません」
房子「30分!?そんなの死に際に立ち会わない
限り無理じゃない!」
   黒崎、微かに口角を上げる。
   房子、ハッとする。
房子「まさか殺せって事…?」
   黒崎、薄笑いを浮かべる。
黒崎「入手方法はお客様の自由です。
ただし我社は一切関与致しませんが…」
   黒崎、房子を見つめる。
黒崎「さぁ、どうしますか?」
房子「…(申込書を見つめる)」
○都会の朝の情景

○公園(朝)
   通学中の子供達や通勤中の人、
   犬の散歩の人などが行き交う。
   その中、一人歩いている山本望(12)。
   望、遥か向こうの公園のベンチを見る。
   こちらを見ている男、圭介(36)。
   望、圭介を見つめる。
   ベンチの圭介、遥か向こうから
   こちらを見ている望をみる。
   と、望、微かに微笑む。
圭介「!」
望の友達「望ー!」
   望、友達の方へ駆けていく。
   圭介、微笑む。
香奈の声「やっぱりここか」
   振り返る圭介。
   香奈(25)が立っている。
圭介「よう。久しぶり~」
香奈「久しぶり」
   香奈、圭介の横に座る。
香奈「その後、どうなの?」
圭介「普通にやってるよ~。借金はまだ少し残ってる」
香奈「…そ。あんた引っ越したし、電話も出ないし。
命の恩人にちょっと冷たいんじゃない?」
   圭介、苦笑して
圭介「あの事はもう言いっこ無しだって~。
何?今日はどうした?」
香奈「別に~。今日誕生日なんだけどさ、
運悪く仕事も休みだし。朝から一人で過ごすのも
ちょっとな~って思って」
   圭介、あきれて
圭介「まだ男できて無い訳~?」
   香奈、ムッとして
香奈「元カレと別れてから出来てませんけど!」
   香奈、空を見上げてしみじみと
香奈「あの最悪な誕生日からもう1年かぁ~」
   香奈、圭介を見る。
香奈「忘れられない男がいてさ。
なかなか出来ないんだよね~好きな人」
圭介「忘れられない男?」
香奈「そう。超ダメダメ人間。
ダメすぎて…
インパクト強すぎて忘れられない」
   圭介、フッと笑う。
圭介「やっぱさ、あれだね、
あんた似てるわ、俺の奥さんに」
香奈「えぇ?」
圭介「気が強いのに男に弱い。
ダメな奴ばっかり好きになって
そいつのやること『も~!』なんて
怒りながらついつい許しちゃう」
   香奈、フッと笑って
香奈「当たり」
圭介「俺もだなぁ」
   圭介、ぼんやり呟く。
圭介「そんな女ばっか好きになっちゃう」
香奈「え…」
   と、立ち上がる圭介。
圭介「よしっと」
   圭介、振り返り
圭介「しゃーないから一緒に
祝ってやるか、誕生日」
   香奈、笑顔で立ち上がる。
   歩き出す2人。
香奈「上から目線がムカツクけど」
圭介「あのさ~前から思ってたけど
俺チョコよりかなり年上だよ?
そこ忘れてない?」
   香奈、笑って
香奈「そんなの思い出す気もない」
圭介「ははは…だろうね」
   遠ざかっていく2人の後ろ姿。
           (完)

○デパート・化粧品売り場(朝)
   空いている店内。
   一人、ブース内で商品のホコリ取りを
   している香奈。
望の声「すみません」
   香奈、振り返る。
   山本望(11)が立っている。
望「お話があるんですが。
後で少しお時間いただけませんか」
香奈「?」

○道
   携帯をかけながら必死で走っている香奈。

○圭介のアパート・玄関前・外
   激しく扉を叩いている香奈。
香奈「圭介!圭介!」
   扉、開いて圭介が顔を出す。
圭介「なに何?何なの?」
香奈「何で電話でないの?!」
圭介「あぁ、ごめん。今から出るとこでさ。
気がつかなかったわ~」
香奈「どこ行くのっ!?樹海!?東尋坊!?天ケ瀬ダム!?」
   圭介、苦笑して
圭介「何で自殺の名所ばっか」
香奈「だって死ぬつもりなんでしょ?絶対そうだよ!」
圭介「何を根拠に…てか、チョコさ、
もうここには来ないんじゃなかったの~?
ドン引きかも~とか言ってたでしょ?」
香奈「もう来ないとは言ってない」
圭介「わかったわかった。
何でもいいからさ、今日は勘弁して」
   圭介、チョコをよけて行こうとする。
   と、通せんぼする香奈。
香奈「行かせないっ」
圭介「いやいや行かせてよ」
香奈「だめ!」
   圭介、何度か香奈をよけようとするが
   負けじと道を塞ぐ香奈。
   圭介、あきらめて
圭介「じゃあどうすれば行かせてくれる訳?」
香奈「どこ行くのか教えて」
圭介「墓。その…今日奥さんの命日だからさ」
香奈「そこで『もうすぐそっちにいくよ』
とか言うの?」
圭介「だからさっきから何なの、それ」
香奈「…」
   香奈、バッグから紙を出す。
   圭介、見てハッとする。
   香奈、紙を開いて圭介に見せる。
   紙は生命保険の契約書。
   契約者は「中田圭介」、
   受取人は「山本浩二」となっている。
圭介「何でそれをチョコが…」   
香奈「私もついてくから。奥さんのお墓」
圭介「…」

○墓地(夕)
   整然と並ぶお墓。
   夕日を受けている。
   その中に香奈と圭介の姿。
   2人の前には「山本家の墓」。
   香奈、お墓を見つめながら
香奈「私の職場にさ、あんたの子供来たよ」
   圭介、驚いて
圭介「望が?」

○デパート・従業員控え室―香奈の回想―
   並んでイスに座っている香奈と望。
   望、香奈に生命保険の契約書を渡す。
   香奈、紙を見て驚く。
香奈「何これ…」
望「昨日あの人が僕にもってきたんです。
おじいちゃんに渡してくれって」
   望、受取人欄を指して
望「この『山本浩二』は僕のおじいちゃんです」
香奈「まさかあいつ…」
望「おじいちゃんに渡したら
いらないって言われました。
僕、この紙の意味、
はっきりとはわかりません。
でもあの人が僕に
『お前はやりたいことをやれ、
お金の事は心配するな』
って言ったんです」
   望、まっすぐ香奈を見る。
望「あの人を助けてあげてください」
香奈「な…何で私に?」
望「あなたとあの人が公園で話しているのを
よく見かけました。あの公園、
僕の通学路なんです」
   ×     ×     ×
   (フラッシュ)
   公園のベンチに座る圭介の横顔。
   ×     ×     ×
香奈「だからよくあそこにいたんだ…」
望「僕の母さん、何となく
あなたに似てるんです」
   香奈、驚いて望を見る。
望「だからお願いするなら
あなたしかいないと思いました。
今はあの人の事、お父さんとは
思ってません。だからあの人が
どうなろうが知りません」
   望、涙が膨らむ。
望「でも母さんが亡くなった日、
最後に僕に言ったんです。
パパを守ってあげてね、
あの人は弱いからって」
香奈「…」
望「だからお願いします、
あの人の事助けてあげてください」
   望、頭を下げる。

○墓地(夕)
   圭介、項垂れる。
   香奈、圭介に契約書を渡す。
香奈「どうするつもりだったの?
死んで償おうと?」
圭介「…」
   と、圭介、笑い出す。
圭介「だってさぁ、
俺が生きててどうなる~?
全て失ってもまだ
スロット打ってたんだ、俺は。
ヒカリが命かけて
キレイにしてくれた
借金もまたすぐできたしさ」
   圭介、笑いながら涙を滲ませる。
圭介「死んで少しでも
望の役に立ちたいと思ったけど
なかなか踏ん切れなかった。
あの日、あの日も
スロットで勝った10万を
更にスロットで使うか
借金の返済に充てるか迷ってた。
そんな時にどことなく
ヒカリに似た女が現れて」
   ×     ×     ×
   (インサート)
   店舗出入口から黒いエナメルの
   バッグを抱えた香奈が飛び出してくる。
   ×     ×     ×
圭介「チョコの電話が
毎日かかってくるうちに
不思議とスロットに行かなくて
済むようになってさ。
人生の最後ぐらいまともな人間として
生きようと思って
ちゃんと仕事も始めて
俺に貢いでた女とも別れて」
香奈「…」
圭介「チョコに感謝されて
やっとましな事が出来て。
もう思い残す事は無いって…」
香奈「だから死ぬの?」
   圭介、目を逸らす。
香奈「這い上がったって事じゃん。
落とし穴から」
   圭介、ハッと顔を上げる。
香奈「私さ、ドン引きって言ったけど
あの後ずっと考えてて。
そうなっちゃった圭介の気持ち
少し理解できるからさ」
   香奈、笑って
香奈「私だって圭介と出会わなかったら
そうなってたよ、きっと」
圭介「…」
香奈「死なずにさぁ、
これからいくらでも役に立っていけば
いいんじゃないの?私や望くんの」
圭介「…」
   圭介と香奈、ヒカリの墓を見る。
香奈「世の中落とし穴だらけだけどさ、
生きてれば這い上がるチャンスはあるよ。
いつでも…」

○デパート・化粧品売り場
   客にメイクをしている香奈。
香奈「チークは少し
手の甲で馴染ませてから…」
   表情が生き生きしている。

○道
   携帯をかけながら歩く
   スーツ姿の圭介。
圭介「ハイ、その件につきましては
後ほどお伺いした際にご説明します…はい」
   立ち止まる圭介。
圭介「失礼いたします」
   電話を切る圭介。
   ふと上を見上げる。
   『パチンコスロットレインボー』
   の看板。
圭介「…」
   再び歩き出す圭介。
   その表情に迷いは無い。
          (完)
○圭介のアパート・中(夜)
   机の前に座っている香奈。
   圭介、お茶を2つ持ってきて
   1つ香奈の前に置き、座る。
香奈「さ、聞かせて」
圭介「あぁ…うん…」
   圭介、お茶を見つめる。
   と、顔を上げ、キッと香奈を見る。
圭介「覚悟しろよ~ドン引きするから」
   香奈、真剣に頷く。
香奈「わかった」
   圭介、お茶を一口飲んで話し始める。
圭介「あの…さ、香奈の鞄に貼ってたシール、
あれ何のシールか分かる?」
香奈「う~ん、ごく普通の
事務用シールだもんなぁ」
圭介「あれさ、実は営業成績の
シールなんだよ。
俺さ、昔帝都銀行に勤めてて」
香奈「え?マジ?超エリートじゃん!」
圭介「まぁね。奥さんのお義父さんが
帝都銀行の社員でさ。
それも結構上の方の人で。
半分コネもあって入社できたんだ」
香奈「なるほどね~」
圭介「奥さんとはさ、大学が一緒で。
サークル仲間から付き合いだして。
で、卒業と同時くらいに子供出来ちゃってさ、
それで結婚したって訳」
   香奈、お茶を飲んで溜息をつく。
香奈「出来ちゃった婚かぁ」
圭介「そういうこと。お義父さんもさ、
最初反対してたけどそのうち
俺の事気に入ってくれて。
銀行はさ、入社する為にはある程度
資産持った人が保証人につかなきゃ
いけないんだけど。
俺の実家貧乏だったからさ、
奥さんのお義父さんが保証人も快く
引き受けてくれて」
香奈「…うん」
圭介「俺頑張っちゃって。
お義父さんに気に入られたい一心で。
営業成績もどんどん伸びて一戸建て
なんか建てちゃってさ。でもさ、
そのうち実力の限界がきて」
   圭介、ボーッとお茶を眺める。
圭介「少し出世したから部下まとめなきゃ
いけないんだけどうまくいかなくてさ。
少しずつ営業成績も落ち始めて」
香奈「…」

○道 -圭介の回想-
   スーツ姿の圭介(26)が
   とぼとぼと歩いている。
圭介のN(ナレーション)「あの日は期待してた
大型の新規顧客にフられて会社に帰り辛くて。
わざと回り道して帰ってた」
   圭介、パチスロ店の前で立ち止まる。
   上を見上げる圭介。
   パチスロ店の看板がネオンで
   キラキラとしている。
圭介のN「ちょっと気晴らしのつもりだった」
   圭介、フラッと店内に入っていく。

○パチスロ店・中 -圭介の回想-
   血走った目でスロットを打っている圭介。
   足下にはコインで一杯の箱が
   山積みになっている。

○圭介のアパート・中(夜)
   圭介、笑って
圭介「勝っちゃったんだな~これが。
運の悪い事に」
   香奈、圭介を見つめる。
圭介「気分がスーッと晴れてさ」
香奈「もしかして…圭介も…?」
圭介「そう。今思えば依存症。
スロット打ってると
不思議と心穏やかになるんだよ。
変だよな~店内はあんな騒がしいのに」
   香奈、溜息をつく。
香奈「…そっか」
圭介「それからは絵に描いたように
坂道をコロコロと…
仕事サボってパチスロ店に入り浸って、
休みの日は一日中スロット打ってて。
当然金はすぐ底ついたよ。
ほら、お小遣い制だったからさ。
とても足りない訳。
でも奥さんには隠してるからさ、
すぐ手出したよ、街金には」
   香奈、聞いていられなくて俯く。
圭介「給料は奥さんが管理してたからさ、
借金返す為に借金したりしてもうどんどん
膨れ上がって。1年半後には破綻がきた。
会社の金も結構遣い込んじゃってさ。
当然クビになった訳。
で、俺たちだけじゃなく
保証人だったお義父さんも
家から何から全部取られちゃって」
   香奈、目を閉じる。
圭介「お義父さんは優秀な人だったし
同情もあってクビにまではならなかったけどさ、
降格になって出世コースは完全アウト。
それでも俺の奥さん離婚しなくてさ」
香奈「…」
圭介「子供がパパの事好きだから
離婚出来ないよ、とか言って。
まだ借金いっぱい残ってたから
私も働いて一緒に返してくよ、
なんて言っちゃってさ。
そんでついにあの日…」

○中田家のマンション・廊下~玄関(朝)-圭介の回想-
   玄関で靴を履いているスーツ姿の圭介。
   廊下に立つ中田ヒカリ(28)。
圭介のN「俺はいつものように職探しと称して
家を出るとこだった。本当はパチスロ店に
朝イチで並ぶだけなんだけどさ」
圭介「じゃ、行ってくるわ」
ヒカリ「…」
   ヒカリ、踵を返して歩いていく。
   圭介、気まずそうに
圭介「…今日こそ仕事見つけるから」
   圭介、玄関扉を開け出て行こうとする。
ヒカリ「圭介」
   圭介、振り返りヒカリを見る。
   振り返るヒカリ(28)。
   涙が膨らんでいる。
ヒカリ「今までありがと、圭介」
   圭介、ヒカリを見つめる。
圭介のN「ついにきたと思ったよ。
家帰ったらきっと奥さんも子供もいなくて
離婚届が置いてあるんだろうな~なんて」
望の声「パパぁ~」
   廊下の奥から中田望(4)がかけてくる。
望「いってらっしゃ~い」
   満面の笑みで手を振る望。
   圭介、望の頭をポンポンと叩き
圭介「おう!じゃあな」
   圭介、出て行く。
   それを見送るヒカリ。
圭介のN「でもそれでいいと思った。
これで何のしがらみも無く
スロット打てるなんて…さ」

○道・パチスロ店前(夜)-圭介の回想-
   憔悴しきった圭介が出てくる。
   溜息をつく圭介、ポケットから手を出す。
   手を開く圭介。
   そこにスロットのコインが1枚。
   圭介、コインを見つめる。

○中田家のマンション・廊下~玄関(朝)-圭介の回想-
   扉が開き、圭介が帰ってくる。
   圭介、おそるおそる
圭介「ただいま~」
   家の中、薄暗く静まり返っている。
圭介「やっぱいない…か」
   圭介、電気をつけて廊下を歩き、奥の扉を開ける。
   と、凍り付く圭介。
   手からコインが落ちる。
   コイン、音を立てて落ち、転がって壁にぶつかる。

○同・リビング(夜)-圭介の回想-
   薄暗い室内。
   天井からぶら下がるヒカリの足。
   その向こうで立ちすくんでいる圭介。

○圭介のアパート・中(夜)
   話を聞いて言葉を無くしている香奈。
   圭介、ポケットからコインを出して
   机の上に置く。
圭介「奥さんさ、生命保険解約
してなかったんだよ。
支払いきつかっただろうに。
とっくに解約してると思ってたのにさ」
   香奈、ハッと圭介を見る。
香奈「…まさか…」
圭介「そ、奥さんの生命保険金で残りの借金
キレイにしたって訳」
香奈「…」
圭介「周りからは散々疑われたよ~
俺が奥さん殺したんじゃないかって。
ま、当然ちゃ当然だわな」
   圭介、コインを手に取って呟く。
圭介「ヒカリなりの復讐だったのかなぁ。
おかげで俺は今ものうのうと生きてるし」
   圭介、香奈を見てニコッと笑う。
圭介「どう?引いたでしょ?」
   香奈、よろよろと立ち上がる。
香奈「…ドン引きかも…」
   香奈、部屋から出て行く。
   玄関扉の閉まる音がする。
   圭介、一人微笑む。

○走る電車の中(夜)
   窓にもたれかかっている香奈。
   思い詰めた表情。