暇つぶし携帯小説 -2ページ目

暇つぶし携帯小説

お暇な方、ドラマや小説が好きな方はどうぞご覧下さい。
通勤中や待ち時間の暇つぶしになるはず。
※脚本形式で書かれています。
ドラマを見るように場面を想像して
お楽しみください。

○公園(夕)
   夕焼けに染まる園内。
   子供達が帰り始めている。
   ベンチに座っている圭介。
   手に持ったコインを眺めている。
   夕日を受けてオレンジに輝くコイン。
   と、ハッと気付く圭介。
   コインの遥か向こうに
   こちらを眺めている山本望(11)の姿。
   圭介と望、しばしの間見つめ合う。
香奈の声「圭介」
   圭介、振り向く。
   香奈が立っている。
圭介「あぁ~チョコ」
   圭介、再び望のいる方を一瞥する。
   しかしもう望の姿は無い。
香奈「探したんだよ~電話も出ないしさぁ」
   香奈、圭介の横に座る。
圭介「なぁ。もう俺の事は忘れろ。
ほら、トリーのバッグちゃんも
ゲットしたことだし」
香奈「言ったじゃん、好きだって。
まだちゃんと返事貰ってないけど」
圭介「…さっきの見たでしょ?
ああゆう風に人に恨まれんのが
本当の俺の姿なの。チョコを支えられる様な
立派な人間じゃあなーいの」
香奈「お金の為に奥さん殺す様な?」
   圭介、驚いて香奈を見る。
圭介「聞いたの?」
香奈「ちらっとね。あ、でも信じてないよ」
   圭介、笑って
圭介「残念だけどほぼ本当の話。
さ、帰った帰った~」
   圭介、手で追い払う仕草をする。
   香奈、その手をピシャッと叩き
香奈「ねぇ何があったの?聞かせてよ。
圭介だって落とし穴から這い上がれる方法
あるかもしんないじゃん」
圭介「ムリムリ。俺が落ちたのは
蟻地獄だから。
チョコも俺にくっついてると一緒に
引きずり込まれるぞ~!おぉ怖っ!」
   香奈、圭介を睨む。
香奈「…わかった。どうしても
言いたくないんだね」
   香奈、立ち上がる。
香奈「じゃあちゃんと返事きかせて。
はっきりフってよ。
それであきらめるからさ」
   圭介、香奈を見つめる。
   見つめ返す香奈。
   圭介、あきらめた様に
圭介「はぁ~。わかったわかった。
こういうの苦手なんだよな~」
   圭介、立ち上がって香奈の両肩を持つ。
圭介「チョコ」
香奈「うん」
圭介「俺はチョコとは…付き合えない!以上!」
   香奈、俯く。
香奈「わかっててもやっぱりショック」
圭介「…ごめんね」
   香奈、踵を返してとぼとぼと歩き出す。
   圭介、再びベンチに座り、
   少し寂しそうに香奈の背中を見送る。
   と、立ち止まる香奈。振り返る。
   涙が膨らんでいる。
香奈「今までありがと、圭介」
   圭介、ハッとする。
   ×     ×     ×
   (フラッシュ)
○中田家のマンション・廊下(7年前・朝)
   振り返る中田ヒカリ(28)。
   涙が膨らんでいる。
ヒカリ「今までありがと、圭介」
   ×     ×     ×
   圭介、思わず立ち上がる。
   香奈、再び歩いていく。
圭介「ちょ、ちょっと待った!」
   立ち止まる香奈。振り返りながら
香奈「え?」
   圭介、香奈に駆け寄る。
圭介「わかった。うちこい。全部話すから。
聞けばドン引きして俺の事なんか忘れるから」
香奈「…」
   と、圭介、いきなり立ち上がる。
   香奈、呆然と圭介を見上げる。
   圭介、軽い感じで
圭介「わりぃ、無理だわ」
香奈「なにぃ~」
   香奈、拳がわなわなと震える。
   立ち上がって圭介の両頬を
   つねる香奈。
香奈「無理とは何さ無理とは!
こんないい女が寄ってきて何なの、
あんた?」
圭介「いたた…痛いって」
   香奈、更に力をこめる。
香奈「こう見えてもね、私が仕掛けて
オチない男はいなかったんだから!
それをあんたって奴は…」

○同・全景(夜)
   夜空に響き渡る声。
圭介の声「いってーーー!」

○道・ブランドショップ前
   店から出てくる香奈と圭介。
   香奈、買いたてのバッグが入った
   袋を持ってご機嫌。
香奈「ふふ~ん。ついにゲット」
   2人、歩き出す。
圭介「よかったじゃん、落とし穴から
這い上がれて」
香奈「あんたはまだ穴の底みたいだけどね~」
圭介「それ言うなって。無い金はたいて
それ買ってやったんだぞ」
香奈「自分から言い出した事でしょ?
自業自得~」
   2人、帝都銀行の前を通る。
   銀行の従業員入口から
   山本浩二(59)と男性行員が
   出てくる。
   浩二、圭介を見て顔が強張る。
浩二「おまえ…」
   圭介、振り返り浩二を見る。
   顔が凍り付く圭介。
   と、浩二、いきなり圭介につかみ掛かる。
香奈「ちょっと、おじさん!何いきなり!」
浩二「何ヘラヘラこんなとこ歩いてんだよ!」
   浩二、香奈を一瞥し
浩二「しかも女なんかと!」
   男性行員、浩二を止めようとする。
男性行員「山本さん!」
   浩二、手を離さず叫ぶ。
浩二「ヒカリか死んだ後、望がどんな気持ちで
過ごしてきたか分かるか?!
なのにお前はこんな所でのうのうと
女と歩きやがって!」
   圭介、目を逸らす。
   浩二、拳を振り上げる。
男性行員「山本さん!やめましょう!
会社の前ですって!」
   男性行員、強引に浩二を圭介から引き離す。 
   拳を下ろして項垂れる浩二。
   男性行員、圭介を睨む。
男性行員「早く行けよ!」
   愕然とする圭介。
   2、3歩後ずさりしてから踵を返し、
   逃げるように走っていく。
   呆然と圭介の後ろ姿を見送る香奈。
   男性行員、そんな香奈を見て
男性行員「あんたあいつの女?」
香奈「…」
男性行員「悪い事言わないから
あいつと関わんない方がいいって」
香奈「何で…?」
男性行員「あいつさ、金の為に
奥さん殺したって噂だから」
香奈「!!」
男性行員「行きましょう、山本さん」
   男性行員、項垂れる浩二を連れて
   去っていく。
   香奈、呆然と立ち尽くす。
久美の声「そういう事!
新しい女が出来たって訳!」
   中から片岡久美(27)が
   出てくる。
久美「だから私は用なしって訳」
   圭介、思わず香奈を引き離す。
香奈「!(がーん)」
   香奈、踵を返して、去ろうとする。
   と、圭介、その手を掴む。
圭介「チョコ!まてって!」
久美「チョコ?」
   久美、香奈を舐める様に見る。
久美「へぇ~あんたがチョコ。
やっぱりチョコって女だったんだ」
   香奈、目を逸らす様に俯く。
久美「チョコねぇ。
(鼻で笑って)バカな小細工して…
あんたに忠告しといてあげる」
   久美、香奈を睨む。
久美「この男はね、最初お金が有る様な事
言って優しくして、
こっちがその気になったら
散々貢がせてポイするんだよ!」
   香奈、驚いて圭介を見る。
   目を逸らす圭介。
久美「この男の正体はね、
借金が山ほどあるくせに
仕事もしないロクでも無い男!
どうせあんたも騙されてんでしょ!」
   久美、言い捨てると香奈を突き飛ばして
   ヒールの音を響かせながら去っていく。
   圭介、気まずく
圭介「あの、これはね…」
   香奈、圭介の顔を覗き込む。
香奈「嘘…だよね?」
   圭介、香奈の目を見つめる。
   圭介、目を逸らす。
香奈「(ドスをきかせて)正直にいいな!」
圭介「はい…嘘じゃありません…」
   香奈、愕然として一歩後ずさりする。
   踵を返して駆け出す香奈。
圭介「チョコ!」
   香奈、立ち止まって振り返る。
   涙が滲んでいる。
香奈「信じてたのにーっ!
圭介だけは嘘つかないって!」
   俯く圭介。
   香奈、再び前を向き駆けて行く。

○香奈のアパート・玄関~中(夜)
   香奈が荒々しく入ってくる。
   涙と雨で無惨な姿。
   と、力が抜けたように床に
   ぺたんと座る香奈。
   鞄からシールの紙を出す。
   紙のシールは後一枚だけ。
   ため息をつく香奈。
香奈「あと1枚だったのになぁ~」
   香奈、残り1枚のシールと
   鞄にびっしり貼られたシールを見比べる。
香奈「あと1枚でバッグゲットできたのになぁ~」

○デパート・化粧品売り場(朝)
   開店前。
   その一角のブースの前に
   従業員が輪になっている。
   その中に香奈の姿。
チーフ「先月のエリア売り上げトップは
佐竹香奈さんでした」
   パチパチと拍手する従業員達。
香奈「ありがとうございます…」
   香奈、会釈する。
チーフ「ずっと不調だったのに
急にどうしちゃったの~?
もしかして男できた?」
   香奈、苦笑する。
   チーフ、香奈の前に来て
   ワインの瓶を差し出す。
   ワインには「賞品」の文字。
チーフ「はい。今月も頑張ってね」
香奈「はい…」
   香奈、ワインを受け取る。
   ワインを見つめる香奈。

○走る電車の中(夜)
   帰宅ラッシュ。
   疲れた様子で電車に
   揺られている香奈。

○香奈のアパート・中(夜)
   部屋着の香奈。
   お風呂上がりといった様子。
   香奈、ソファに座り賞品の
   ワインを見つめる。
香奈「誰かほめてよ…」
   香奈、床に転がっている鞄に目をやる。
香奈「ほめてよ…圭介」
   香奈、立ち上がるとグラスを
   持ってきてワインを注ぐ。
   グラスを掲げる香奈。
香奈「初のエリア賞を祝してかんぱーい!」
   静まり返る部屋。
   香奈、一口飲んでため息をつく。
   と、思いつく香奈。
   吹っ切る様な明るい声で
香奈「そうそう、つまみがいりますよね~」
   香奈、キッチンへ立って辺りを見回す。
香奈「つまみつまみっと…」
   と、目が止まる香奈。
   棚の端にある海外土産のチョコの箱。
   香奈、吸い寄せられるように箱に
   手を伸ばす。
   チョコをつまんで
   口に入れようとする香奈。
   と、寸でのところで手が止まる。
   香奈、チョコの向こうの部屋を見渡す。
   綺麗に片付いた部屋。
   香奈、ハッとする。
   チョコを箱に戻し、
   急いで鏡台の前にいく香奈。
   鏡の中の香奈、頬に手を当てる。
香奈「吹き出物…なくなってる」
   鏡の中の香奈、微かに微笑む。
   香奈、携帯を取る。
   圭介の呼び出し画面を出す香奈。
   呼び出し音がなる。
圭介の声「もしもし…あのさ…お…」
香奈「100枚たっせーい!」
圭介の声「は?」
   香奈、最後の1枚のシールを
   鞄に貼りながら
香奈「買ってよ、バッグ」
   香奈、携帯に向かって叫ぶ。
香奈「すぐ買って!
今からそっち行くから!」

○圭介のアパート・中(夜)
   コップのワイン片手に
   酔っている香奈。
   机の上のアタリメをつまんで
香奈「ワインにアタリメってさ~
気が利かないし~」
   圭介、香奈の向かいに座って
圭介「あのさ、急に来られたら
アタリメくらいしか無いっしょ。
俺ビールしか飲まないしそれにその…」
   圭介、申し訳なさそうに香奈を見る。
圭介「俺ビンボー君だし…さ」
   香奈、あきれ顔で圭介を睨む。
   圭介、手を合わせ
圭介「ごめん、ほんとごめん!嘘ついて。
そうでも言わないとチョコが信じて…」
香奈「(遮り)もういーって!
バッグさえ買ってくれれば。
それにさ、今の私は圭介に
支えられてたって分かったし…」
   香奈、圭介を見つめる。
香奈「変わらないみたい。
あんたの正体がただの
ビンボー人だったとしても」
圭介「へ?」
香奈「やっぱり好きってこと」
   香奈、圭介を見つめる。
   圭介、真顔になる。
   香奈、両手で圭介の顔を持つ。
   キスをしようとする香奈。
   近づく2人の顔。
   香奈、電話帳の画面を出す。
   鼻歌を歌いながら自分の電話番号を
   入力する香奈。
   画面を覗き込む圭介。
   香奈、名前を『チョコ』と入力する。
圭介「チョコ?」
香奈「そっ」
   香奈、本棚の上の花を顎で指す。
香奈「あれ。あんた女いるでしょ?
『香奈』って登録するとまずいじゃん。
で、チョコ。
私にぴったりの源氏名」
圭介「(笑って)なるほどね」

○デパート・全景(別の日)

○同・化粧品売り場
   化粧品有名ブランドのブースが並ぶ。
   その一角に制服姿の香奈。
   香奈の向かい、派手なおばさんが
   カウンターを何度も叩いている。
   繰り返し頭を下げる香奈。
   カウンターを叩くおばさんの
   手の横には化粧水が置いてある。
おばさん「これ使ってカサカサになったの!
どうしてくれるの?!」
香奈「申し訳ございません!!」
   再度頭を下げる香奈。

○同・従業員控え室
   制服姿の香奈が駆け込んでくる。
   ロッカーに直行し、
   荒々しく扉をあける香奈。
   鞄を漁る。
香奈「ったく私にどうしろっつーの?!」
   香奈、鞄の中からチョコレートの
   袋を取り出す。
   慣れた手つきでチョコの包装紙をほどき
   口に放り込もうとする香奈。
   と、鞄のシールが目に留まる。
   躊躇う香奈。ジッとチョコを見詰める。
   香奈、チョコを包み紙に包み直すと、
   シールの紙を取り出す。
   裏返して圭介の電話番号見つめる香奈。
   香奈、ポケットから携帯を取り出す。


○パチスロ店レインボー前
   『パチンコスロットレインボー』の看板。
   微かに漏れる店内の喧騒。
   店内出入口の前で佇んでいる圭介。
   ぼんやりと手の中のコインを見つめている。
   と、着信音が鳴る。
   我に返る圭介。
   ポケットから携帯を取り出して
   画面を見る。
   画面には『チョコ』の文字。
   圭介、ハッとして電話に出る。
圭介「もしもし」

○デパート・従業員控え室
   イスに座っている香奈。
   手に持ったチョコを見つめながら
   ニヤッと笑う。
香奈「もしも~し!
シール1枚ゲットぉ!」

○パチスロ店レインボー前
   圭介、微笑む。
   踵を返し歩き出す圭介。
圭介「それはおめでとう」
   電話をしながら歩く圭介の後姿。

○れんげハイツ・中(別の日)
   ベッドの上に座り込んで香奈と
   柏勇太(26)が睨み合っている。
   険悪な空気。
香奈「バレバレなんだよ! 女いるって!」
勇太「証拠あんのかよ」
香奈「なっ無いけど…女の勘だよ!」
勇太「(鼻で笑って)勘かよ」
香奈「(ムカムカッ)出てけ~!」
   勇太を蹴り飛ばす香奈。
   勇太、ベッドから転げ落ちる。
   勇太、よろよろと立ち上がる。
   壁をひと蹴りして出て行く勇太。
   バタン!と閉まる扉。
   長い溜息を吐く香奈。
   一気にシュンとして座り込む。
   香奈、机の上のチョコを見つめる。
   手を伸ばす香奈。
   チョコの横の携帯を取る。

○コンビニ(別の日•夜)
   仕事帰りといった様子の香奈。
   棚に並ぶチョコを見つめている。
   右手がチョコに伸びる。
   と、その右手を左手が
   「ペチッ」と叩く。
香奈「ダメダメっ!」

○どこか(別の日)
   香奈の手で鞄に貼られるシール。

○れんげハイツ・中(別の日・朝)
   掃除機をかけている香奈。
   鼻歌を歌って楽しそう。
   部屋、かなり片付いて
   綺麗になっている。
   チョコの包み紙を拾う香奈。
   笑顔でゴミ箱に捨てる。

○公園(別の日)
   ベンチに座って電話をしている香奈。
   香奈、電話しながら鞄にシールを貼る。
香奈「圭介、彼氏よりずっと
私の近況把握してるよ~」
   貼られたシール、
   かなりの枚数になっている。
   香奈、楽しそうに笑って
香奈「そ、一日の報告が
何か日課になってきた!」

○デパート・化粧品売り場
   笑顔で接客している香奈。
   表情がどこかしら以前より輝いている。

○香奈のアパート・中(夜)
   綺麗に片付けられた部屋。
   香奈と勇太が食卓を囲んでいる。
   食卓の上には食べ終わった
   皿が並んでいる。
   勇太、箸を置き
勇太「ごちそーさまー。ふ~。腹一杯」
   香奈、立ち上がり皿をまとめる。
香奈「美味しかった?」
勇太「なかなか。お前料理うまくなった?」
香奈「(にやりと笑い)ふふ~ん」
   香奈、皿をシンクに運んでいく。
   香奈、皿を洗い出す。
香奈「ここんとこちょっといいことあってさ~
料理を楽しむゆとりが出てきたのよ~」
   勇太、皿を洗う香奈の背中を
   見つめながら
勇太「お前さ、最近変わったな。
ほら、部屋もきれいになったし。
それに何ていうかさ…可愛くなった?」
   香奈、照れ笑いしながら
香奈「ちょっとどうしちゃったの~?
勇太らしからぬ発言」
   勇太、皿を洗う香奈の背中を見つめる。
   しばしの沈黙。
   と、口を開く勇太。
勇太「そろそろ…真面目になろっかな。俺」
香奈「へ?」
   香奈、振り返る。
勇太「結婚…しよっか」
香奈「(驚いて)え…」
   香奈、複雑な表情。

○公園
   ジョギングする人。散歩する老人。
   その中でベンチに座っている香奈。
   浮かない表情。
   と、圭介が来る。
   圭介、スーツ姿で髪は短く切られており、
   髭もさっぱりと剃られている。
圭介「おひさ~」
   香奈、顔を上げ圭介の変化に驚く。
香奈「わ、どうしたの~?
何か好青年になってる!」
圭介「ちょっと気分転換」
香奈「へぇ~。なかなかいいじゃん」
圭介「俺ってば何でも似合っちゃうからさ」
香奈「前のは似合ってなかったよ」
圭介「あそう。ハッキリ言うね~」
   圭介、香奈の横に座る。
香奈「なんかさ、いつも電話で話してるから
あんまり久しぶりって感じしないかも」
圭介「そういえばそうかも」
   香奈と圭介、フッと笑う。
圭介「で、何?改まっちゃって」
香奈「あ…うん…」
圭介「?」
香奈「(思い切って)私さ、
結婚することになった」
圭介「(驚いて)へぇ~」
香奈「彼氏、心入れ替えるって。
私もさ、チョコやめてから生活とか
ちゃんとしてきたから。
借金も大分減ったし。
そういうの彼氏に伝わったのかも」
圭介「へ~。よかったじゃん」
香奈「圭介には直接言おうと思って。
まぁ、私がここまで更正出来たのも
圭介のお陰だし。
感謝って言うか…」
圭介「そうそう、感謝しろよ~」
   圭介、ニコニコと公園の人々を
   眺めている。
   香奈、圭介の横顔を見詰める。
圭介「じゃあバッグ買ったら俺らの関係も
卒業って事だな。ダーリンに誤解されちゃうから」
香奈「そう…だね~」
   香奈、何処となく寂しそうに笑う。

○香奈のアパート・全景(別の日・夕)
   激しい雨が降っている。

○同・玄関(夕)
   いつもよりめかしこんでいる香奈。
   靴箱上のカレンダーのある一日に赤丸。
   その下に「Myバ~スディ」の文字。
   香奈、急いでブーツを履く。
香奈「急がなきゃ!」
   扉のノブに手を掛ける香奈。
   と、着信音が鳴る。
   バッグを漁り、携帯を取り出して
   画面を見る香奈。
   画面には『勇太』の文字。
   慌てて電話に出る香奈。
香奈「ごめんごめん、今から向かうとこ~」

○ラブホテルの一室(夕)
   裸で寝転んでいる勇太。
   隣で寝転んでいる裸の女、
   涙を浮かべて勇太の腕に
   しがみ付いている。
勇太「あ、もしもし。ワリんだけどさ、
今日行けなくなったわ」
   と言って女の頭をポンポンと叩く勇太。
   女、上目遣いで勇太を見て微笑む。

○香奈のアパート・玄関(夕)
   眉を顰める香奈。
香奈「はぁ~?こんな日にドタキャン?」
勇太声「とにかく今日は無理!じゃあな。
ハッピーバースディ、香奈」
香奈「ちょ、ちょっと待って!切らないで」
   香奈、その場にしゃがみ込む。
香奈「婚約指輪は?いつ買ってくれるの?」

○ラブホテルの一室(夕)
   女、勇太の上に重なり首筋にキスをする。
勇太「…あ~。また、そのうちな」
   勇太、女の背中に手を廻す。
   微かに吐息を漏らす女。

○香奈のアパート・玄関(夕)
   愕然とする香奈。
香奈「…今…声がした…」
勇太声「は?」
   香奈、唇が震え、涙が滲んでくる。
香奈「今…女といるんでしょ…
何で?何で私だけじゃ満足できないの?
真面目になるんじゃなかったの?
そんなままじゃ結婚できないじゃん」
勇太声「…(溜息混じりに)はぁ。
(呟く)ウゼ~」
   顔色が変わる香奈。
香奈「…もう…我慢できない」
   唇を噛締める香奈。
香奈「…別れよ」

○ラブホテルの一室(夕)
   ハッとして上半身を起こす勇太。
勇太「は?」
   怪訝な顔で勇太を見る女。

○香奈のアパート・玄関
   携帯に向かって叫ぶ香奈。
香奈「別れよって言ってんの!
私、あんたより好きになれそうな人出来たから!
(叫ぶ)あんたなんかいらない!」
   携帯を床に投げつける香奈。
   扉を開けて外に飛び出していく。

○道(夕)
   激しく降る雨。
   雨に濡れて走っている香奈。

○圭介のアパート・玄関扉前・外(夕)
   駆けつける香奈。
   インターホンを押す。
   扉が開き、圭介が出てくる。
   圭介、香奈を見てギョッとする。
   ずぶぬれの香奈。
圭介「どうした?おい…」
   と、香奈、圭介に抱きつく。
香奈「好き」
   圭介、混乱する。
圭介「何?え?」
   香奈、腕に力を込めて
香奈「圭介が好き」
圭介、驚愕する。
登場人物
佐竹香奈(26)化粧品販売員
中田圭介(35)
柏勇太(26)香奈の彼氏
中田ヒカリ(享年28)
山本望(11)
山本浩二(59)

佐竹信子(52)香奈の母親
片岡久美(30)



○ハローローン・駐車場
   駐車場の入口に立つ『ハローローン』の看板。
   ATМのみの無人店舗に付随する駐車場。
   7~8台停められる程度の広さ。
   その真ん中に無精髭を生やしラフな格好の男、
   中田圭介(35)が突っ立ている。
   圭介、手に持った一枚のコインを太陽に翳す。
   コイン、光を受けてキラッと輝く。
   眩しそうに目を逸らし、店舗出入口を見る圭介。
   と、店舗出入口から佐竹香奈(26)が飛び出してくる。
   脇には黒いエナメルバッグを抱えている。
   下を向いて猛スピードで圭介に突進して来る香奈。
圭介「わっ!」
   思い切りぶつかる香奈と圭介。
   拍子に香奈の腕からバッグが飛び出す。
   尻餅をつく香奈と圭介。バッグの行方を目で追う。
   バッグ、鮮やかな弧を描きながら宙を飛び、
   アスファルトの上でワンバウンドしてから逆様に着地する。
   財布やポーチ、そして彩り鮮やかな
   大量のチョコレートがぶちまけられる。
   香奈、慌てて四つん這いになり、チョコレートを掻き集める。
   唖然と香奈を見つめる圭介。
   香奈、チョコレートを掻き集めては鷲掴みにし、
   無造作にバッグに放り込んで行く。
   全て放り込み終える香奈。
   バッグを抱えて立ち上がる。
   と、踵を返して猛スピードで走り去って行く香奈。
   口をポカンと開けて香奈の後姿を見送る圭介。
   香奈、角を曲がって見えなくなる。
   圭介、振り返り店舗出入口を眺める。

○タイトル『チョコ』

○れんげハイツ・全景 (夜)
   住宅地に立つ木造二階建築15年程度のアパート。

○同・中 (夜)
   薄暗い室内。
   扉が勢い良く開き、香奈が荒々しく入ってくる。
   照明がついてパッと明るくなる部屋。
   玄関から狭いキッチンを挟んで続く8帖一間の部屋。
   大きな鏡台が妙に目立っている。
   床にはチョコレートの包装紙や脱ぎ捨てられた服、
   空のペットボトルで足の踏み場も無い。
   香奈、それらを足でより分けながら部屋の奥に行く。
   脱力した様にベッドに座る香奈。
   バッグを漁ってチョコレートを取り出す。
   包み紙を床に放り投げ、チョコレートを口に入れる香奈。
   うっとりとした目付きになる。
   と、着信音が鳴る。
   香奈、携帯を取り出し開く。
   画面には『実家』の文字。
   小さく溜息をついて電話に出る香奈。
香奈「もしもし」
信子の声「もしもし。ちょっとあんたに知らせたい事があってね」
香奈「何?」

○佐竹家・居間 (夜)
   佐竹信子(52)が電話している。
   信子、電話台の上の葉書3通を手に取る。
信子「あんた宛の変な葉書が立て続けに3通も届いてるよ」
   信子、手に持った葉書を眺める。
   一番上の葉書の差出人欄には、
   『東京都港区**常盤ビル4F山岡正人』
   の文字。
信子「3通とも剥がさなきゃ中身が見えないヤツ。
   おかしいのはね、差出人が個人名なのに住所は東京のビルなのよ」

○れんげハイツ・中 (夜)
   愕然とする香奈。
   絶望的に目を瞑る。
香奈「…へぇ…」

○佐竹家・居間 (夜)
   信子、葉書を置き
信子「それと最近ね、あんたに変な電話が掛かってくるの。
   田中さんとか斉藤さんとか名前はいつも違うんだけどね、
   あんたはいませんと伝えると決まって『そうですか』
   って用件も言わずに切っちゃうの…怪しいでしょ?」

○れんげハイツ・中 (夜)
   目を瞑ったままの香奈。
信子の声「香奈……何か母さんに隠し事してない?」
 香奈、目を開く。
香奈「(務めて明るい声で)考えすぎだよ~きっと何かの売り込みじゃない? 
   最近そういうの多いから。葉書、捨てちゃっていいよ!」
信子の声「そ~お?」
香奈「そうそう! 今忙しいからもういい?
私は元気にやってるから変な心配しなくていいよ!じゃあね!」
   言い終わるか終わらないかのうちに電話を切る香奈。長い溜息をつく。
   そしてバッグに手を突っ込み、漁る。
   と、動きが止まる香奈。
香奈「何で? もう無くなっちゃった?」
   取り憑かれたように必死で漁る香奈。
   ついにはバッグを逆さにし、中身をベッドの上にぶちまける。
   ベッドの上に財布とポーチ、チョコレートの包み紙が転がる。
   呆然とする香奈。
   と、いきなり立ち上がる。
   財布を掴み、走って部屋を出て行く香奈。

○コンビニ・店内 (夜)
   自動ドアが開き、香奈が駆け込んでくる。
店員の声「いらっしゃいませ~」
   香奈、籠を掴むとお菓子売り場に直行する。
   棚にはびっしりと色とりどりのチョコレート商品が並べられている。
   香奈、それらを片っ端から鷲掴みにし、次々と籠に放り込む。
   一通り入れ終え、レジに走る香奈。
   チョコレート商品で一杯の籠をドスンと置く。
   店員、籠を見てギョッとする。
   店員を睨みつける香奈。
   店員、香奈を一瞥するとレジを打ち始める。
店員「『ガツンと板チョコ』がえ~と、1点…2点…3点…」
   レジを通ってレジ袋に入れられていく商品達。

○同・表 (夜)
   レジの前に立つ香奈がガラス越しに見える。
   後ろには行列が出来ている。

○同・店内 (夜)
   香奈の後ろには長蛇の列。
   皆、苛ついた顔で待っている。
   レジには空の籠とパンパンに膨らんだ
   レジ袋2つが並んでいる。
   最後の商品をレジに打つ店員。
   店員、ホッと溜息を吐き
店員「以上で9520円になります」
   香奈、財布を開く。
香奈「あっ…」
   店員、訝しげに香奈を見る。
   財布の中には千円札2枚しかない。
   香奈、慌てて体中のポケットに手を突っ込む。
   と、香奈の後ろからすっと手が伸びてくる。
   その手はレジに1万円札を置く。
   手に沿うように視線を動かし後ろを向く香奈。
   圭介がにっこり笑って立っている。

○同・表 (夜)
   自動ドアが開き、両手にレジ袋を下げた香奈が出てくる。
   続いて圭介が出てくる。
   圭介、香奈にまとわりつくように歩き
圭介「ねぇねぇ、あんた昼間ぶつかった人だよね?」
   香奈、無視して足早に歩いていく。
圭介「金無いんでしょ? 良かったら援助しようか?」
   香奈、ピタッと足を止める。
圭介「ただし、今晩付き合ってくれたらだけど」
  香奈、振り返り圭介を睨み付ける。
香奈「…いいよ、別に」
   圭介、薄笑いを浮かべる。

○大和荘・全景 (夜)
   二階建てのかなり古いアパート。
   階段を登っていく圭介と香奈が見える。

○同・中 (夜)
   畳6帖の部屋には少しの漫画と最低限の家電があるだけで
   殺風景である。
   奥の台所でお茶を入れる圭介の後姿。
   炬燵机の前で胡坐を掻いている香奈。
   香奈の横にはレジ袋が2つ。
   ハイペースにチョコレートを口に運んでいる香奈。
   炬燵机の上にはチョコレートの包み紙が散らばっている。
   香奈、ふと床を見て目を凝らす。
   女物のピアスが落ちている。
香奈「…(ふ~ん)」
   台所からお茶を持って来る圭介。
   包み紙を掻き分け、お茶を置く。
圭介「はい」
香奈「ど~も」
   と口だけで礼を言ってチョコレートを食べ続ける香奈。
   圭介、香奈の横に座る。
   あきれて香奈を見る圭介。
圭介「チョコ大好きだね~そんなにチョコばっか食ってると
ニキビだらけになんぞ」
   香奈、圭介を睨む。
   仕方なく手を止め、お茶を飲む香奈。
圭介「昼間ぶつかった時さ、あんたハローローンから出てきただろ。
街金なんかでお金借りるとロクな事無いって」
香奈「あんただってあそこにいたって事は同類でしょ?」
圭介「俺は違うよ。あの駐車場は仕事行くときの近道なの」
  香奈、さして興味なさそうに
香奈「ふ~ん」
圭介「…なぁ、何でそんなに金が要るの?」
   香奈、ちらりとレジ袋を見る。
香奈「も~いーからさ、さっさとやろ」
圭介「何を?」
香奈「だからぁ、さっさと済ませて早くお金ちょうだい」
圭介「(笑って)あぁ。まぁそんな焦るなって…で、いくら希望?」
香奈「さしあたって…8万」
圭介「8万…ね」
   圭介、お尻を少し上げて尻ポケットから二つに折られた札束を出す。
   札束から一枚抜くと残りをポンと机の上に置く圭介。
圭介「はい」
   香奈、素早く札束を掴む。
香奈「前払い? 良心的だね」
   お金を数える香奈。
香奈「1、2、3…」
   と、いきなり立ち上がる圭介。
圭介「さ、帰れ帰れ!」
   怪訝な顔で圭介を見上げる香奈。
香奈「は?」
圭介「それ持ってさっさと帰って、寝ろ!」
   香奈、眉を顰める。
香奈「え? やんないの?」
   圭介、香奈の腕を掴むと無理矢理立ち上がらせる。
   バッグとレジ袋を香奈に持たせる圭介。
   香奈を扉の方へ押し出す。
圭介「チョコばっか食ってる姿見たらやる気も失せたわ。
俺、金には余裕あるから。気にせずに持ってけ!」

○同・玄関扉前・外 (夜)
   玄関扉が開く。
   後ろ向きのまま押し出される香奈。
圭介の声「じゃあな」
   バタンと閉まる扉。
   香奈、呆然と立ち尽くす。

○ハローローン・駐車場
   車止めに座っている香奈。
   圭介が歩いてくる。
   香奈に気付き立ち止まる圭介。
   香奈、立ち上がる。
香奈「この前はどーも」
圭介「どうしたの?」
香奈「家に行ったけどいないみたいだし。
仕事行くときの近道って言ってたから
ここで待ってれば会えると思って」
圭介「(怪訝に)まさかまた金ほしーの?」
香奈「違うよ~! お礼言いにきたの!」

○公園
   遊具には子供が群がり、その横では父息子がサッカーをしている。
   長閑な風景。
   圭介と香奈、ベンチに並んで座っている。
香奈「お金、すっごく助かった。今月さ、
ついに返済が間に合わなくなっちゃって。
催促の電話無視してたら実家に手紙やら電話やらいったみたいで」
圭介「そりゃ大変だ」
香奈「でしょ? あんたの助けが無かったら親にバレるとこだった」
圭介「お役に立ててよかった」
香奈「今は無理だけど必ず返すから!」
圭介「(笑って)期待しないで待ってるわ」
   圭介、のんびりと子供等を眺める。
圭介の横顔を見詰める香奈。
香奈「あんた訊いたよね、何でそんなにお金が要るのかって」
圭介「うん」
香奈「…知りたい?」
圭介「まぁ。言いたくないならいいけど」
   香奈、少し迷ってから口を開く。
香奈「…私さ、依存症なんだ。チョコ依存。
ヤな事あるとすぐチョコ食べたくなっちゃうの」
   圭介、聴いているのかいないのか、
   サッカーをしている親子を目で追っている。
香奈「何だよそれって思うでしょ? チョコごときで借金するかって。
何でこうなっちゃったか自分でも分からないんだ」
  サッカーをしている子供、リフティングの練習をしているが上手く行かない。
香奈「きっかけは些細なことでさ。彼氏がね、浮気したんだ」
圭介「へぇ~」
香奈「私なりに結構ショックでさ。仕事も上の空で。
あ、私化粧品の売り子なんだけどさ。
で、ノルマがね、全然達成されそうになくて」
   子供にリフティングのお手本を見せる父親。
香奈「何か疲れて控え室でボーッとしてたら同僚がチョコくれたんだ」
圭介「へ~」
香奈「チョコには癒しの成分が含まれてるからって。
その時はチョコごときで癒されるかって思ったんだけどまぁ貰ったの」
圭介「うん」
香奈「食べてみたら不思議な感覚だった」

○丸菱デパート・控え室(回想)
   長椅子に座っている制服姿の香奈。
   口の中でチョコを転がしている。
   香奈の目、うっとりと宙を見ている。
香奈の声「甘さが口の中で広がって…疲れも一緒に溶けて行くみたいだった」

○元の公園
   子供、父に教えられながら再びリフティングの練習を始める。
香奈「それからはまっちゃって。ヤな事ある度にチョコを食べた。
段々それがエスカレートしていって…」
圭介「…(子供を眺めている)」
香奈「最初はコンビニのチョコで満足してたんだ。でもさ、一度デパートで
高級チョコを買ってみて」
圭介「…(子供を眺めている)」
香奈「そしたら今度は高級チョコじゃなきゃ満足出来なくなって。
気付いたら給料殆どチョコに使ってた」
   子供、リフティングが上達して出来る回数が増えている。
香奈「そのうち借金までして買うようになっちゃってさ。
この自分でもコントロール出来ない衝動が何なのか分からなくて
ネットで調べたんだ」

○れんげハイツ・中 (回想・夜)
   薄暗い部屋の中。
   パソコンの光が辺りを照らしている。
   パソコン越しに画面を見つめる香奈。
   香奈の肩越しに見える画面。
   そこには『依存症』の文字。

○元の公園
   香奈、苦笑いする。
香奈「で、今は借金の返済に追われてコンビニチョコに逆戻りって訳」
   子供、リフティングが続いている。
   身を乗り出す圭介。
圭介「おっ。頑張れ頑張れ!」
   香奈、圭介を睨む。
香奈「って聞いてんの?」
   子供、成功して父親と大喜びしている。
   圭介、微笑を浮かべて呟く。
圭介「長閑だなぁ~」
   香奈、あきれて溜息を吐く。
圭介「この平凡で平和な毎日の下に無数の落とし穴がある」
香奈「え?」
圭介「そしてある日突然、ストンと落ちる」
香奈「…(首を捻る)」
   圭介、香奈を見て
圭介「今の状況から抜け出したい?」
   香奈、俯く。
香奈「そりゃ、まぁ…」
圭介「本当にそう思ってる?」
香奈「(俯いたまま)どうかな。何かもう疲れちゃって。
正直今は何にも考えたくないって感じ」
圭介「投槍ってヤツね」
香奈「そう。思考能力停止してんの。最近普通のご飯まともに食べてないからさ。
チョコでお腹一杯になっちゃって」
圭介「落ちちゃってるね~落とし穴」
   香奈、自分の頬に手を当てる。
香奈「肌もね、前は結構自信あったんだ。でも今はボロボロ。
もう、肌も生活もボロボロ…」
   香奈、自嘲気味に笑う。
   と、突然立ち上がる圭介。
圭介「よしっ」
   怪訝に圭介を見上げる香奈。
圭介「今から俺んち来ない?」
香奈「まさか…この前出来なかった分を今日やるとか?」
圭介「(ニヤリとして)まぁそんな所」

○大和荘・中 (夕)
   バッグを置いて炬燵机の前に座る香奈。
   圭介、机の上にお茶を置き
圭介「まぁ、ゆっくりしてて」
   圭介、テレビ台の引き出しを開けて黄色っぽい15センチ四方の紙と
   ボールペンを取り出す。
   紙の表には直径1センチ弱の赤くて丸いシールがびっしり並んでいる。
   怪訝に圭介を目で追う香奈。
   圭介、炬燵机の前に座る。
   紙の裏に『中田圭介090―****―****』と大きく書く圭介。
   香奈、首を捻る。
   圭介、香奈の手を取る。
   ビクッとする香奈。
   と、香奈の掌の上に紙を置く圭介。
   そして紙から一枚シールを取ると、香奈のバッグの端に貼り付ける。
   目を見開く香奈。
香奈「ちょっと何すんの! そのバッグ高かったんだから!」
圭介「(笑って)チョコが食いたくなったら俺に電話して」
香奈「は?」
  香奈、紙を裏返す。
   圭介の電話番号を見つめる香奈。
圭介「それでチョコの誘惑に勝ったらこのシールを一枚ずつバッグに貼る事」
  バッグに貼ってあるシールを見つめる香奈。
圭介「今一枚貼ったから…あと99枚」
香奈「…(シールを見つめる)」
圭介「シールがこの紙から全部無くなる頃には、
晴れてあんたは落とし穴から這い上がってるって訳」
香奈「何それ? 絶対途中で挫折するし」
圭介「じゃあシール全部バッグに貼り終えた時はお祝いに新しいバッグ買ってやるよ」
   顔を輝かせる香奈。
香奈「マジ? 本当? それなら頑張る! 
私トリーバーチのバッグずっと欲しかったんだぁ」
圭介「分かった。トリーねトリー。
ただしシールが無くなるまでに一度でもチョコ食べたらこの話は無効~」
香奈「オッケ。なんかさ、シール貼ったりして小学生の頃のラジオ体操思い出すなぁ」
   香奈、笑ってシールを見つめる。
香奈「私こう見えて結構頑張るタイプだったんだ。
あんた私を見縊ってるかも知れないけど、バッグマジで頂きますから」
圭介「分かりました」
香奈「でも何でそこまでしてくれんの?」
圭介「う~ん。俺金持ちだから。暇つぶしのゲーム…かな」
香奈「金持ちねぇ…そんな家に見えないけど」
  と言って辺りを見回す香奈。
圭介「俺、住処には拘らないタイプだから」
香奈「ふーん。ま、乗ってみるかぁ。あ…じゃあさ、ちょっと携帯貸して」
  圭介、ポケットから携帯電話を取り出し香奈に渡す。