John Lee Hooker | ダッチワイフは電動コケシの夢を見るか?

ダッチワイフは電動コケシの夢を見るか?

残念ですが、貴方がお望みのエロエロな画像や動画などはありません・・・

John Lee Hooker - (Boom Boom)


 なんだか世間が騒がしくて、ネットで記事を追う事だけでお腹いっぱいな状態です。
 あまりそうやって受動的だと、TVばっかり見ているお花畑の様な頭になってしまうので問題もあるのですが、次から次へと例の国(と言うか、かの国のマスコミと言うか)が面白い主張をしてくるので、目が離せなくなってるんですよね。
 ええ、ブログ更新しない事への唯の言い訳なんですけどね。

 でまぁ、あの国の対日に関する世迷言を読んでいて色々と考えると、その"妄執の代価"と言うか、"費用対効果"の事を考慮しているのかなと思いましてね。
 「あれが欲しい」「これこれを得たい」となったならば、ソレを手に入れる為には、普通は只でという訳にはいきません。そしてまた、手に入れようとしたものと支払ったものの対価が、必ずしも釣り合ったていたり自分が得をしたりするとは限りません。

 そんな事をつらつらと考えていたら、以前に係わったある二人の女性を思い出したので、今回のエントリーはその話を記しておく事にしました。


John Lee Hooker - (Hard Headed Woman)


【 Cold Case ① 】

 俺はベンチに座ると、ここに来る途中で買った缶コーヒーの蓋を開けた。これであとは、持っている雑誌でも広げていればそれっぽく見えるだろう。もしくは携帯電話を弄っているふりとかでもいいが。
 都市部の大型公園はたとえ夜になっても人が多く居るから困らないのだが、それでも待ち伏せをするなら風景に溶け込まなきゃならない。周囲に人の動きがある場所なら常に動き、無ければじっとしていろが鉄則だ。
 ただ今日の仕事は仕事と言える程のものでもないし、定期的に係わることも無い単発の稼ぎなのでそこまで気を使う必要もないのだが、やるべき事をしっかりやって金をもらう方が気持ちがいい。

 座って10分ほど経つと携帯電話が震え、耳に突っ込んでいたイヤフォンから、オート着信されたインチキ関西人の声が流れてくる。
「まもなく入り口に着くわ。予定通り本人は自分がおる場所の入り口から公園に入るから、後はよろしゅうな」
「なぁ? 相手の事を自分って呼ぶのは関西圏では普通なのか?」
「しゃーないやろ、もう癖になっとるんやから。まぁ後は自宅までよろしゅうたのんまっせ」

 毎度の事ながら、イントネーションがやや怪しいのは別としても、話している俺の事を"自分"と呼ばれるのは混乱する。それに、都合のいい時だけ関西弁丸出しで誤魔化すのもどうかと思うが、今日の稼ぎはこいつが払うのだから一々文句も言えない。

 そんな事を愚痴愚痴と考えていると、公園の出入り口に現れた調査対象者の男の姿が目に入った。見た目通りの50代半ばのサラリーマン。某有名企業の中堅だが、肉体的なのか精神的なのか判らないがお疲れの様子だった。
 とぼとぼと歩くその男を視界の隅で追いながら、俺は依頼人であるその妻の事と仕事を請け負った経緯を思い出しながら、男がある程度過ぎ去るまでベンチに座っていた。




 依頼人の妻を初めて見たのは、確か俺が前日にやった別件の報告書のまとめと経過写真や証拠ビデオの編集を、受件先の調査事務所でダラダラとやっていた時だったと思う。
 まだパソコンでまともな動画編集ソフトも出てない頃で、俺は事務所の専用機器を操りながら、使える映像を編集したりテロップを入れたりしていた時に、その女が事務所の受付に現れた。見た目は50代位に見られ、別段どうと言うほどの変り種とは思えなかった。だが調査事務所の仲のいい女性事務員に、「だれ?」と言うように眉を上げて問うと、事情を知る彼女から非常に面白い経緯を聞けたのだった。

 その依頼人と事務所の付き合いはかなり以前まで遡る。たぶん・・・・2、3年ほど前まで。
 それはよくある不貞調査の依頼だったのだが、幾度となく尾行を繰り返しても証拠は出ない。当初は一週間ほど行動確認を行い、次に妻が怪しいと思う日を選定して調査を行ったが、それでも何もでない。
 だが依頼人の妻はそれでは納得しなかった。絶対に何かあるはずだと。


John Lee Hooker - (Whiskey And Wimmen)


 被調査人である夫は、とある有名大企業に勤めている。名前を出せば誰もが知っている企業だ。そして担当部門柄、就業中は職場から昼食以外で出ることはなく、出勤時も退勤時も寄り道はなかったらしい。また怪しいとされた日の行動も、退勤後に友人と飲食したり、出張先で普通に業務をこなしていただけだった。
 そこまで聞いた俺は事務員に尋ねてみた。
「で、どうなの実際?」
「調査は完璧、でも何も出ない。て事は、奥さんの唯の妄想って事でしょ?」
「まぁ確かにそうなるね・・・・誰が担当してたのその件?」
「インチキ関西人。もう少ししたらここに来るわよ」
「へっ?またやるの?」
「どうやらそうみたいね」


 彼女が薄笑いを浮かべて自分の席に戻っていくのを横目で見ながら、何だか面白そうな成り行きになりそうだと思った。
 暫くして当の関西人が事務所に現れ、俺に気づいた関西人は頷いて挨拶を返すと、そのまま応接室に促されて入っていく。そして30分ほど経った後に彼らが応接室から出て、依頼人は丁重な挨拶をして事務所から出て行った。

 インチキ関西人の方に目をやると、奴はぶらぶらと俺に近寄ってきた。
「なぁ自分、それ終わったら今日は暇なん?」
「その"自分"てーのは、自分自身の事を指しているのか、それとも俺の事を指しているのか、どっちなんだ?」
「そりゃBabyはんに決まってるやろ。細かいなぁ自分は」

 毎度うんざりするやり取りだが、当時はこれが俺と奴とのいつもの掛け合いだ。
「で、そう訊いてきたのは多分、さっきのオバチャンの件なんだろ?」
「ま、そういう事。なんか聞いたんか?」
「事務のねえちゃんに取っ掛かりだけは聞いたよ。もう少し詳しい話を聞かせろよ」
「がってん承知ノ助でんがな!」
「・・・・おまえは一体、どこの出身なんだよ」
「香川県」


 そうしてこの件の経緯と依頼人の詳細を、数年関西で暮らしただけのこのインチキな関西人から聞いてみると、これがなんとも悲しくも笑える話 ―同情はできないが― だった。
 先ず依頼人の妻は一年ほど調査を断続的に続けさせたらしい。しかし何も疑わしいところが無かった。その調査に掛かった費用は数百万。だがそれでも彼女は納得せず、暫く経ってからまた調査を依頼してきた。そして二度目の長期調査のときもまた何も出ない。それに掛かった費用がまた数百万。
 普通はここまでくれば大抵の奴は諦める。と言うか、いったい彼女は何を根拠に夫が浮気をしていると妄執するのか不思議に思ったが、彼女の様なのがいるから俺たちの様な稼業が潤うって事もまた事実だ。

 しかしその後も彼女は単発的にだが調査を依頼してきた。だが半年ほど前、ついに彼女の資金も尽き、入金の遅れで薄々気が付いていた調査事務所の担当はその後の調査を受け付けなかった。結局、その単発調査も含め総額二千万を超える金がこの馬鹿馬鹿しい不貞確認調査に費やされたが、いまだに夫の浮気疑惑に拘る彼女は、今度こそはとまた相談にやってきたのが今回の事務所訪問だったようだ。

 ただし・・・・彼女には殆ど金が無い。後に事務員からこっそり聞いた話では、以前調査に費やした金の出処は、夫婦の蓄え全てを注ぎ込んだものだったらしい。どうやって誤魔化しているのかは知らないが、夫がそれを知った時の心の内は、流石の俺でも考えたくない。
 まぁソレだけのお得意様だっただけに事務所も無碍には出来ず、今回は勝手知ったるインチキ関西人に仕事を丸投げした形になったわけだ。
 多分、調査費用は半額くらいには圧縮できると思うが、幾ら続けても彼女の望む結果は永久に出ないだろうし、望む結果が出なければ彼女の渇きもまた永遠に潤うことは無いんだろう。




 俺はそんな事を考えながら公園を歩いて行く男の後を追っていく。そして男は、事前に関西人から教わっていた通りの道筋を脇目もふらずに歩き続け、今夜も何事も無く帰宅した。待機時間も含めて正味1時間の仕事だ。これを仕事と言えるのであれば。
 男の帰宅を見届けた俺は、携帯電話を取り出して公園で待っている関西人に連絡した。
「予定通り帰宅したけど、これ報告書は前回分のをコピーすればOKなんじゃないか?経過写真は別としても」
「低料金受注なんで、なんも無い時は電話報告だけなんや。さぁBabyはん、飲みに行きまひょか?」


 なぁ奥さん、あんたの望む事ってのは、この代価に釣り合う程の事なのかい?





なんだかんだでまた長くなったんで、
もう一つは次回のエントリーにします。<(_ _)>