〝次なる尖閣〟五島列島に押し寄せる中国漁船団 | にゃんころりんのらくがき

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2012.11.18

フライデー

 

五島列島の福江島に避泊した中国漁船の群れ。五島市役所の職員が、その脅威を撮影していた(7月18日)

 

 少し前の話になる。今年7月17日の夜、台風7号が九州に接近していた。付近で操業していた中国漁船は暴風雨を避けるため、五島海上保安署に日中漁業協定に基づく緊急避難港に入港すると連絡を入れた。五島列島(長崎県五島市ほか)のうち最大の福江島にある玉之浦港に船が避泊(=避難)したのは、翌18日未明のことだった。協定では、日中は互いに緊急避難港を指定し、台風などの災害時、相手国の船舶に利用させなければならない。

 

 この港に中国漁船が避難するのは2年ぶりだった。陽が昇って島民は驚愕した。船の大きさ、真新しさ、そして何より船団の数が、過去のそれとはケタ違いだったのだ。人口4万人の島に入ってきた船の数は106隻!五島市水産課によると、この時を含め、今年だけで4回、漁船が大挙して避泊している(7月31日に53隻、8月4日に20隻、8月24日に89隻)。

 

 尖閣諸島沖での中国との摩擦は、収まる気配がない。海洋監視船が領海侵犯をし続け、軍艦が接続水域を通過している。この106隻の中国漁船は合法的に入港しただけだ。しかし、今、島の漁師たちが目にし、向き合っているのは、〝次なる尖閣〟とも言うべき、新たなる領土問題、資源問題の火種である。自民党の「領土に関する特命委員会」のメンバーで、玉之浦港を視察に訪れた新藤義孝代議士は、こう危機感を募らせている。

 

「中国漁船の多くは底引き網船で、数年前と比べて大型化・近代化し、地元の漁船が小さく貧相に見えるくらいでした。協定に基づく緊急避難港とはいえ、日本が中国の港を使用する例はほぼなく、事実上、片務的な決まりです。中国の船は日本近海の豊かな漁場で魚を獲り、嵐になると日本に避難し、再度漁場に戻っていく帰り際に網を降ろし、日本の領海内で根こそぎ魚を獲っていくと聞きます」

 

 本誌が現地で五島の漁師に話を聞くと、中国側は昔は40~50t級の日本の中古漁船を使っていたが、今や100t級以上で設備も最新型の船で来ると口を揃えた。五島漁協の川上徳夫総務部長が語る。

 

「無論、避難してきた中国船は、水産庁、海上保安庁が領海を出るまで監視しますから、堂々と不法操業ができるとは思いません。しかし、こちらは漁師の高齢化で漁に出る回数が減り、相手と反対に漁業規模が縮小している。監視の目が緩んでいることも確かです」

目の前の海にいる2000人

玉之浦湾に入港した中国漁船の数は、実に106隻に上った。海が船で埋まってしまうかのような錯覚を覚える

 

 嵐のたびに漁船が大挙して来るのだから、彼らがそう遠くない海で大掛かりな漁を展開しているのは確かだ。中国漁船の目撃証言は、いくつも聞かれた。

 

「ここから40マイル(約64km)西に行った海域で操業していますよ。ギリギリ日本の領海だと思うが、海上保安庁に『あれは許されるのか』と聞いたら、大丈夫と回答しました。それでもEEZ(排他的経済水域)内では、漁獲する魚の種類を届けなくてはならないはず。しかし立ち入り検査でもしない限り、それは確かめようがない。しかも100や200じゃきかない数の中国漁船がいる中、こちらは30~40隻です。規模が大きい船が、何日もそこに留まって漁をしているのだから、当然、こちらの漁獲量は減ります」

国旗であろう赤い旗をはためかせている。船の規模の大きさ故、漁場に長く停泊でき、魚を根こそぎ獲るという

 

 こう溜め息をつくのは、父子二代で養殖業を営む木谷年一さん(46)だ。波の静かな玉之浦湾で養殖をする木谷さん父子にすれば、港に巨大船が大挙してくるだけで損害が発生するという。父の直一さん(85)が、こう振り返る。

「'02年頃、台湾の船が避泊した際、ハマチ養殖の生簀が壊れるなど1000万円近い損害が出ました。しかし、台湾とは国交がないから補償もないと言われ、台湾の会社が船を売ったとかで、30万~40万円が支払われただけでした」

 

 同様の被害は台湾だけでなく、まさに中国も引き起こしている。五島漁協玉之浦支所の中村孝司支所長が証言する。

「'02年にやはり台風で中国船が避難してきた際、船が風に煽られて定置網の仕掛けに入り、網が傷むという被害が出ました。この時、中国政府に掛け合いましたが、被害は補償されず泣き寝入りでした」

 

 再び木谷年一さんが、莫大な数の中国人が、守りの薄い島のすぐそばにいることの〝恐怖〟について、率直に語った。

「巨大船が100隻避難してくれば、乗組員は2000人近くになります。排泄物で水質も汚染されるでしょう。魚の病気も心配です。しかし何より、玉之浦の人口より多い数の人間が、すぐ目の前の海にいるという怖ろしさがあるんです。実際、十数年前、中国人が不法に上陸して、警察が山狩りしたこともありました」

過去、中国漁船が座礁しかけたことがあった。以来、浅瀬だから注意するよう呼び掛ける看板が設置された

 

 五島列島が中国の脅威にさらされたのは、これが初めてではない。'11年11月6日、肥前鳥島北北西沖4kmの領海内を中国漁船2隻が航行しているのが発見され、うち1隻が追跡を振り切って逃げた事件が起きた。「浙岱漁04188」(135t)は海上保安庁の巡視船に体当たりされて停止。長崎海上保安部は船長を逮捕し、乗組員10人を長崎港に移送した。前出の新藤代議士が、初めて「中国が狙っているのは尖閣諸島ばかりではない」と危機感を抱いたのは、この時だった。

養殖業を営む木谷直一さん。台湾の漁船が避泊した際の被害について語った

 

「EEZ内に入る外国船にはすぐに威嚇射撃をする韓国では、中国漁船を取り締まる海上警察官が殺害された事例も少なくありません。'08年9月には韓国の警察官が中国漁船の乗組員にシャベルで撲殺されています。実際、韓国領海内で摘発された中国漁船の船内から、竹槍やハンマー、鉄パイプなど20点が見つかった例もあります。日本近海で操業している中国漁船が武器を忍ばせていないなんて保証はないのです。

 

 尖閣問題のお陰で五島列島を管轄する第七管区海上保安本部も巡視船を第十一管区にとられ、警備が手薄になっています。そこにきて、中国船舶の高速化で、領海侵犯されても逃してしまう例もある。ですから、実際の違法行為の件数は逮捕数の数倍に上るでしょう」(新藤代議士)

 

 島を見て回ると、「もう避難してこないでほしい」という意味の中国語が一文字一文字記された大きな看板が、港に貼られていた。

 

 日本は島国である。海を隔てて隣国と対峙するのは尖閣ばかりではない。そして、そこに暮らす人々も確かに存在する。

「フライデー」2012年11月23日号より