殺人、強盗など凶悪事件も続々…外国人犯罪の知られざる実態
2018.11.30 07:00
「外国人犯罪は近年、ほぼ横ばい状態」「外国人観光客は急増したが、短期滞在者の総検挙人員はそれほど増えていない」──警察は、日本に外国人が激増する中でも、彼らによる犯罪は増えていないとアピールしている。しかし、その内実は全く異なるようだ。元兵庫県警通訳捜査官で関西司法通訳養成所代表の清水真氏がリポートする。
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警察庁の統計によると、外国人犯罪の検挙人員は2004年をピークに減少し、2011年あたりからほぼ横ばいとなっている。しかし、私はこのデータをまったく信用していない。なぜならこの統計は、あくまで「警察が検挙した外国人犯罪」を表しているだけで、「日本で発生した外国人犯罪」そのものではないからだ。さらに、犯罪の内容も深刻になりつつある。
外国人犯罪の多くは「首領なき犯罪」と言われており、指示役が検挙されることはほとんどない。指示役は海外におり、SNSなどを利用し、万引きでも海外から指示を出しているのである。たとえ実行犯を検挙しても、指示役の検挙のために海外の警察へ捜査協力を打診することはほとんどないのが実情である。
増加傾向にあるベトナム人らによる集団万引きでは、盗品を別の場所へ郵送し、さらに飛行機を利用して海外で転売するというケースがあった。
実行犯は、技能実習生や留学生などの正規滞在者が多い。彼らはたとえ万引きで逮捕されても、制度上、直ちに在留資格が剥奪されることはない。そのため、SNSを通じてアルバイト感覚で犯罪に加わる者が増加している。
外国人によるサイバー犯罪も増加傾向にある。昨年10月、中国籍の男性2名と日本人男性1名が、インターネットバンキングを狙ったフィッシング詐欺事件で逮捕された。このグループは全国で93件、被害総額約2億5000万円を不正送金させていた。しかし、逮捕されたのは「出し子」だけであり、指示役の逮捕には至っていない。
窃盗や詐欺だけではない。数は少ないが、外国人による殺人や強盗、強制性交(レイプ)などの凶悪犯罪も起きている。昨年は殺人35件、強盗59件、強制性交等40件が検挙された。
私もかつて、中国人によるレイプ事件を担当した。この犯人は他人になりすまして日本へ不法入国し、バイト先で顔見知りとなった女性の後をつけ強制性交に及んだ。被害者は合計4名。犯人は日本語ができなかったため、中国人留学生ばかりを狙ったという。外国人犯罪の被害者は日本人だけでなく、来日外国人さえもその標的となるのだ。
また、外国人被疑者・被告の取調べや公判に携わる司法通訳人にも課題が多い。昨年は中国人男性が関与した殺人事件の取調べで、誤訳が明らかとなった。誤訳は冤罪を生む危険がある上、司法通訳人には資格が必要ないため、犯罪組織の息のかかった人物が供述を捻じ曲げようと通訳として売り込んでくる恐れもある。
さらに、最近の外国人犯罪は日本人と比べて共犯事件の割合が高く組織的に敢行される傾向がある。しかし、残念ながら、縦割り組織の警察は、組織犯罪捜査が苦手なのが実情だ。
来日外国人の数が増えれば、その分、彼らによる犯罪が増えるのは道理だ。それに対応できるように警察や入管の体制をいま一度考えていかなければならない。
【PROFILE】しみず・まこと/1960年兵庫県生まれ。佛教大学卒業後、兵庫県巡査を拝命。後に中国語のバイリンガル捜査官として外事警察、刑事警察など31年間奉職し、警部で退職。現在は一般社団法人関西司法通訳養成所の代表を務める。
●取材・構成/浅野修三(HEW)
※SAPIO2018年11・12月号
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外国人増で治安に不安?増える苦情 犯罪率比例せず…体感と実態にずれ
11/29(木) 9:47配信
在留外国人数と外国人摘発率の推移
政府が外国人労働者の受け入れ拡大を急ぐ中、治安の悪化を心配する声が一部で上がっている。九州でも元技能実習生による犯罪が起きているが、実際には、近年増え続ける在留外国人数と、刑法犯摘発数に占める外国人の摘発数の傾向は比例していない。体感治安と実態にずれが生じる背景には、文化や生活習慣の違いによる誤解もあるとみられ、共生に向けた模索が始まっている。
外国人住民が10年前から倍増し、約5千人が暮らす福岡市南区。ごみ出しや騒音に関する苦情が最近、警察に連日寄せられるようになった。住民の間では「街にたむろし、夜道を歩くのが怖い」「大事件を起こさないか心配」と、漠然とした不安を抱く声もある。
「過酷な職場から逃げて犯罪に走るケースが多い」
ベトナム人の元技能実習生らによる窃盗事件の摘発も相次いでいる。福岡県内に住む30代のベトナム人女性は「ベトナムの送り出し団体に『楽に稼げる』とだまされて来日し、過酷な職場から逃げて犯罪に走るケースが多い」と話す。
入管難民法改正案が今国会で成立すれば、地域に暮らす外国人はさらに増える。では現時点で、外国人犯罪は急増しているのか。
警察庁などによると、在留外国人は右肩上がりに増え、昨年は過去最高の256万1848人(前年比17万9026人増)。一方、刑法犯摘発数に占める外国人犯罪の割合は2005年の5・1%をピークに、近年は3%前後で増減を繰り返している。昨年の外国人摘発数も、05年の3割程度に当たる1万1012件。福岡県では昨年の摘発率が3・8%(同0・6ポイント増)、摘発数が632件(同49件増)と増えたが、「ベトナム人による集団万引の摘発が数字を一気に押し上げた」(同県警)という。
「住民とのトラブルも、外国人に悪気はなく、言葉が通じなかったり、生活習慣が違ったりして誤解が生じているケースが大半」。技能実習制度の監理団体として外国人約千人を受け入れている「福岡情報ビジネス」(福岡市)の藤村勲代表理事は言う。
実習生の寮で周辺住民とトラブルになった場合、担当社員が通訳を帯同して訪ね、生活マナーを教えている。「きちんと説明すれば、彼らも地域に溶け込もうと努力してくれる」
日本人を対象に勉強会を開く地域も
外国人と向き合う日本人を対象に、勉強会を開く地域もある。
福岡市東区の香椎浜公民館は、昨年から日本人の住民への講座を始めた。外国人にも伝わりやすい日本語を学んだり、外国人の日常生活の困り事について考えたりしている。同公民館の宮嵜祐子主事は「最近は、ごみ出しのルールなど生活マナーを多言語で表示する自治会も出てきた。まずは顔見知りになり、理解し合うことが大事」と言う。
福岡県警も技能実習生を雇用している企業に警察官を派遣し、日本の法律を教えている。昨年新設された国際捜査課の西嶋満裕次席は「住民が安心して暮らせるよう、摘発と啓発の両輪で治安を守る」と話している。
西日本新聞社