赤ちゃんが花粉症やアトピーならない? 妊娠中に予防で
小坪遊
2018年11月26日19時15分
妊娠中に「予防接種」を受けることで赤ちゃんがアレルギー体質にならないようにするしくみを、国立成育医療研究センターなどの研究チームがマウスの実験で見つけ、26日に発表した。花粉症や食物アレルギー、ぜんそく、アトピー性皮膚炎などを防げる可能性がある。今後、人での効果を確かめて数年以内の実用化を目指す。
アレルギー体質になるかどうかは、生後3カ月までに免疫グロブリンE(IgE)と呼ばれる物質をたくさんつくる体質になるかどうかで決まる。IgEが花粉や食物、ダニなどと反応し、花粉症や食物アレルギー、ぜんそくを発症する。
研究チームは、胎児や乳児期にのみ現れる「mIgE陽性B細胞」に注目。この細胞の表面にあるIgEに、花粉や食べ物などの原因物質(アレルゲン)が結びつくと、IgEを大量に作り始める。一方、このIgEに特殊な薬を結合させると、細胞を自殺させるスイッチが入り、生涯にわたってIgEが作られなくなる。
妊娠中の母親マウスに薬を注射すると、胎児マウスの体内では、ほとんどIgEが増えないことを実験で確かめた。母体からへその緒を通じて赤ちゃんに送られ、mIgE陽性B細胞が死滅した可能性が高いとみている。効果はマウスが生まれた後大人になっても続き、アレルギー体質にはならなかった。悪影響がないことも確認した。
日本人の2人に1人が何らかのアレルギー疾患を抱えている。だが、これまで治療の多くは対症療法だった。この技術を人に使えれば、将来にわたってアレルギーのリスクを下げられる。この薬はすでにアレルギー患者の症状を和らげるために使われている。
IgEは今年7月に亡くなった石坂公成博士らが1966年に発見し、アレルギー検査などに広く使われている。今回の研究は石坂博士が着想し、国立成育医療研究センターを中心に進めてきた。今後、アレルギー体質の妊婦らに協力してもらい効果を検証する。
同センターの森田英明・アレルギー研究室長は「人での安全性を確認し、数年以内に臨床での実用化につなげたい」と話した。(小坪遊)
――――――――――――――――――――――――――――――
「灯台下暗し」だったアレルギー予防 博士の着想が原点
小坪遊
2018年11月26日22時24分
花粉症やぜんそくを予防する仕組みを、国立成育医療研究センターなどのチームが見つけた。すでにある薬を使い、動物実験では極めて有効だと確認された。もとになったのは、今年7月に亡くなった免疫学の世界的権威、石坂公成博士が30年以上前から温めていたアイデアだった。
今回の技術は、免疫の最も基本的な仕組み「抗原抗体反応」を使った。ウイルスなどの病原体や異物が体内に入ると、免疫細胞が作った抗体が結合。その際、異物の表面のたんぱく質を目印にしてとりつく。
アレルギー反応は、花粉や食べ物など本来無害な物質が体内に入り、抗体の免疫グロブリンE(IgE)に結合することで始まる。IgEはヒスタミンなどの刺激物質を出す細胞の表面にもあり、原因物質と結合すると、刺激物質を出して、かゆみやくしゃみ、じんましんなどの症状を引き起こす。
チームはIgEが体内に増える前に、胎児や新生児の時期にだけ出現し、IgEを生産する特殊な免疫細胞「mIgE陽性B細胞」に着目。その表面に現れるIgEに、人工的に作った抗体を結合させ、自殺させた。体内のmIgE陽性B細胞を「異物」に見立て、その表面のIgEを目印にした。
mIgE陽性B細胞を除去しておけば、花粉や食べ物などの原因物質に触れても、アレルギーを引き起こすIgEがないため、アレルギー反応が起きない。
従来の治療は、アレルギー体質になった後に対処するやり方だった。発症後にステロイドを使ってアレルギー反応による炎症を抑えたり、原因物質に慣れさせる「減感作療法」で悪化を予防したりする方法などだった。今回はアレルギー体質になる前に根元から原因を絶つ。
IgEは本来、寄生虫やダニなどに対する防御機能として体に備わっている。だが、IgEは衛生的な生活を送る現代社会では不要な物質だ。花粉や食べ物などの本来ヒトには無害なものに対しても反応し、様々な症状を起こす。
厚生労働省の検討会が9月にまとめた「免疫アレルギー疾患研究10カ年戦略」では、日本人の2人に1人が何らかのアレルギー疾患を抱えており、今も数が増えていると指摘。リスクが高い人に対し、「予防的・先制的治療」の重要性を盛り込んだ。今回の治療法がそうした治療の一つになると期待されている。
■妻照子さんとIgE…
こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。
残り:812文字/全文:1753文字
****************************************************************************************************************************************************************************
アレルギー疾患研究に初の10カ年戦略―来春にも取り組み開始
Web医事新報2018年10月04日13時47分
厚生労働省の免疫アレルギー疾患研究戦略検討会(山本一彦座長)は9月28日、免疫アレルギー分野では初となる「研究10カ年戦略」の案を大筋で了承した。10カ年戦略では、①本態解明、②社会の構築、③ライフステージ等で異なる疾患特性―の3つに注目した研究の推進を柱に据える。今後10年間で、発症予防・重症化予防や患者の疾患活動性の「見える化」を通じてQOL改善につなげ、アナフィラキシー等による「防ぎうる死」の根絶を目指すほか、先制的治療の実現に向けた医薬品・医療機器の開発なども進める。
同省は年内にも都道府県、関連学会等に通知を発出し、来春にも戦略に基づく取り組みを開始する予定。
アレルギー疾患対策基本法(2015年施行)では、対象疾患を、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、花粉症、食物アレルギーの6疾患としている。10カ年戦略ではこの6疾患を中心に、薬剤アレルギー、関節リウマチや皮膚・粘膜臓器の異常に起因する疾患など、何らかの免疫反応が関与する疾患を対象とする。
アレルギー疾患を巡っては、基本法に基づき、今年度から全国で拠点病院の指定が進められており、医療提供体制が整備されつつある。研究基盤の充実を目的とした10カ年戦略の策定により、包括的対策を進める上で必要な診療と研究の両輪が揃うこととなる。