鷲鼻(ハンプノーズ)および魔女鼻(ドロップノーズ)は、鼻背中央部の過剰隆起(ハンプ)や鼻尖下垂(ティプドロップ)です。審美的には、鼻筋の過剰な突出や鼻尖下垂によって「強い」「老けた」印象を与えるため女性に人気の手術でもあります。
主な原因と対応術式の整理
症状・形態の主因 | 推奨される術式 | 修正の目的 | 備考 |
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鼻骨の中央部が突出している(ハンプ) | ハンプ切除術(hump resection) | 鼻背の滑らかなライン形成 | 過切除に注意(Suh et al., Aesthetic Plast Surg, 2018) |
ナジオン(鼻根部)が低い | プロテーゼまたは自家軟骨移植 | 鼻背ラインの上部補正 | ハンプ削除のみでは凹みが強調される |
鼻尖が低い | 鼻尖形成術+軟骨移植(tip plasty + graft) | 鼻尖の高さ・立体感向上 | 耳介軟骨が汎用的(Lee et al., Plast Reconstr Surg, 2017) |
鼻尖が下垂(魔女鼻様) | 鼻尖吊り上げ術、鼻中隔短縮術 | 鼻尖角度を改善し若々しい印象へ | 下方回転した鼻中隔を短縮(Han et al., Arch Plast Surg, 2019) |
鼻骨幅が広くラインが乱れている | 鼻骨骨切り幅寄せ術 | 鼻背の対称性改善 | 骨切り幅と鼻尖角度の連携が重要 |
鼻中隔軟骨が長すぎる | 鼻中隔軟骨下縁切除 | 鼻尖下垂の改善 | 吊り上げ術と併用することが多い |
症例的アプローチ
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骨性鷲鼻型
鼻骨の隆起が主体で、横顔のラインに段差が見られる。
→ ハンプ切除+骨切り幅寄せを行い、鼻背を直線的に整える。 -
軟骨性鷲鼻型
上外側軟骨の肥厚や鼻中隔突出が主因。
→ 軟骨切除・再縫合で修正し、必要に応じて鼻尖形成を追加。 -
魔女鼻型(垂れ鼻)
鼻中隔が長く、鼻尖が下方回転している。
→ 鼻尖吊り上げ+鼻中隔短縮術で角度を調整し、アップノーズ方向に補正。
美的バランスの指標
審美的理想角度(M Powell & Humphreys, Facial Plast Surg, 1984)
指標 | 理想値 | 改善目標 |
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鼻尖角(nasolabial angle) | 女性 95–105°、男性 90–100° | 垂れ鼻では90°以下に下がる傾向、吊り上げで補正 |
鼻額角(nasofrontal angle) | 約 115–130° | ハンプ切除後に直線的ラインへ調整 |
鼻背ライン | 眉間から鼻尖にかけて緩やかなS字 | ハンプ除去+鼻尖形成で連続性を確保 |
学会報告からの考察
日本美容外科学会(JSAPS)2022年の報告では、鷲鼻修正後の再手術率は約6.8%であり、その主因は「過矯正による鞍鼻化」でした。※鞍鼻(あんび)→鼻すじの途中がくぼんで、馬の「鞍(くら)」のような形になった鼻の変形です。
過度のハンプ切除を避け、プロテーゼや軟骨移植を組み合わせる「ハイブリッド形成」が現在の主流となっています。また、鼻尖下垂に対しては鼻中隔短縮+軟骨支柱再建の併用が再下垂予防に有効とされています。
超音波骨切り機(ピエゾ) 使ってる医者=安心ではない
鼻手術において、学術的にも、鼻整形領域では以下の報告が多くあります。
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Robotti et al., Aesthetic Surgery Journal, 2020
→ 超音波骨切り群では従来のノミ使用群に比べて術後腫脹が約30%軽減。 -
Cakir et al., Plast Reconstr Surg, 2016
→ 骨膜損傷の少なさと、左右差の減少が確認された。
つまり、出血・浮腫・内出血が少なく、骨の形状をミリ単位で整えやすいというのが最大の利点です。
一方でデメリットもあって、ピエゾ機器は非常に高価(数百万円〜)で、メンテナンスも煩雑なため、以下のような限界もあります。
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骨が非常に厚い・硬い場合、切削に時間がかかる
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熟練していないと、かえって削りすぎるリスクがある
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軟骨部分(上外側軟骨など)は結局メスや剪刀操作が必要
そのため、「ピエゾを使っている=上手」ではなく、「骨の形態を三次元的に理解して扱える」かが核心です。学会発表などでも、結果の良し悪しは「デバイス」よりも「設計と骨処理の一貫性」で決まるとされています(JSAPS 2023 講演報告より)
実践的な見分け方
ドクターの信頼性を判断する際は、機器の有無よりも次の点に注目すると良いです。
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術前にCT評価を行っているか(鼻骨・ハンプの高さ・左右差を3Dで確認)
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ハンプ切除後に「鼻背ラインをどう再構成するか」を明確に説明してくれるか
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骨切りを伴う場合に「外側骨切り・内側骨切り・ハンプ削除」の順序を理解しているか
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過去に致命的な失敗が無いか
ピエゾを持っていても、これらを曖昧に説明する医師は技術が浅い可能性があります。
逆に、手動のノミやヤスリでも繊細な段差修正や骨膜下処理を正確に行える医師は信頼に値します。