民宿を営む中で、いつも心にあるのは「どうすればお客様に、この土地の魅力をもっと感じてもらえるだろうか」ということです。

宿泊というのは、ただ“泊まる場所”を提供するだけではなく、その土地の空気や文化、そして人のぬくもりを感じていただく時間でもあります。

だからこそ私は、宿の壁の中だけで完結する旅ではなく、自然そのものを体験してもらえる“外に広がるおもてなし”を意識するようになりました。


そんな思いから始めたのが、「自然体験付き宿泊プラン」です。

お客様にただ休んでいただくだけでなく、地元の自然を“身体で感じる”時間を楽しんでもらいたい。

その第一弾として、先日行ったのが地元の川での「ヤマメ釣り体験」でした。

この川は、私が子どもの頃から遊び場にしてきた場所です。

透明な水が流れ、太陽の光を反射してキラキラと輝く様子は、今も昔も変わりません。

今回のプランでは、地元の釣り名人の方にお願いして、お客様に直接釣りを教えてもらうことにしました。

最初はみなさん慣れない手つきで竿を握り、糸を垂らすたびに「あれ、引っかかった!」と笑いながら苦戦されていましたが、

しばらくすると小さなヤマメが見事に釣れました。

釣り上げた瞬間のあの笑顔――あれこそ、自然が生み出す最高の表情だと思います。


釣った魚はその場で炭火を起こして塩焼きにしました。

炭の香りが漂い、焼きあがるにつれて皮がパリッと音を立てる。

箸でほぐすと、ふんわりとした白身が現れ、みなさん夢中でかぶりついていました。

「外で食べるとなんでこんなに美味しいんでしょうね」と誰かがつぶやいたとき、私も思わず笑ってしまいました。

地元の自然が持つ力、それは味覚までも豊かにしてくれるのです。


この体験プランの準備も、決して簡単ではありませんでした。

川の水量や天候の確認、安全対策、食材の手配など、考えることは山ほどあります。

でも、そのすべてが「お客様に自然の魅力を伝えたい」という気持ちにつながっているから、苦労とは思いません。

むしろ、ひとつの体験を一緒に作り上げるような感覚で、地元の仲間たちと協力して行うこの時間が楽しいのです。
今後は、春の山菜採り体験や、秋の紅葉ハイキングなど、季節ごとに違った自然体験を企画していく予定です。

たとえば、山の湧き水を使ってコーヒーを淹れる体験や、薪割りから焚き火を起こして料理を作るプランも考えています。

どれも派手なものではありませんが、自然と一体になる瞬間をお届けできたらと思っています。


私は、この仕事を通して改めて感じました。自然というのは、人を“元の姿”に戻してくれる存在だということ。

スマートフォンも時計も置いて、ただ風の音を聞きながら魚を焼く――

そんな時間の中に、忘れかけていた心のゆとりが戻ってくるのです。
これからも、地元の人だからこそ知っている自然の魅力を生かし、「泊まる」以上の体験をお届けしていきたいと思います。

自然に包まれながら、時間を忘れて過ごす。

そんな贅沢を味わえるのが、この民宿の一番の魅力です。

都会の喧騒を離れ、ぜひこの地で“自然と泊まる旅”を体験していただけたら嬉しいです。