夕の空 (朱音の空想想像小説) -180ページ目

『赤炎』 3ノ1

3.


「きゃあ!」
アサリーは手に持っていた水の入った桶をひっくり返しました。

「……」

ベッドの上に病人が起き上がっていて、ドアを開けたアサリーの方を見たのです。
ついさっきまで、意識もなかったはずなのに。


「あ、あんた、起きて大丈夫なの?」

少年がうなずきます。

「……世話、かけたみたいで……悪かった」

黒い髪が汗に濡れた額に張り付いていて、少年はうるさげにそれを撫で上げました。
たったそれだけの動きで体が悲鳴を上げそうです。

「熱は?さっきはまだ熱かったわよ?」
「だいぶ、下がった」

動けるから大丈夫そうだと、レイディンは判断しました。

「そう。良かったわ。って、嘘ついてんじゃないわよ。さっき顔触ったけど熱かったじゃない」

アサリーはやっと我を取り戻し、こぼしてしまった水を拭き取り始めました。


「あ~あ、びちょびちょだわ。……ねぇ、あんた、名前は?」
「え……名前?」

なぜだか少年は口ごもります。

「どうかした?」
「あ、や。オレは、レイディン」

レイディンが一瞬口ごもったのは、頭が真っ白になって名前が出てこなかったのです。
高熱に浮かされた後は、時折こういう事が起こっていました。

「そ。私はアサリーよ、よろしくね」

アサリーは床の上を拭い終えた雑巾やらシーツやらを抱えて、レイディンに笑って見せます。

「なんか食べられそう?今日の夕飯の残りで良ければシチューなんかどう?」

レイディンは先ほどより幾分か力強く頷きました。
「ありがとう」

レイディンの言葉ににっこり笑って、アサリーはドアの向こうに消えてゆきました。




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覚醒。



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