「それで、何かあったって、何があったの?」


ホテルに着いて一息つくと、牧野君はそう僕に尋ねた。
モンさんにフラれた日、嫌なことがあったから友人の家に飲みに行くとメールした。
【何があったの!?】 と問われたがメールではうまく説明できそうになかった。
モンさんに片思いしていて彼を待っているということを、以前話したことがあったのだが、
それを牧野君が覚えているか疑問だった。それに牧野君との関係は約束したものではないので、
薄いガラスのような関係にひびを入れるようなことはしたくなかった。
せめて言葉なら伝えられなくもないか… 【メールではうまく書けないや。今度会ったら話すよ】 と
返信した。


「…ええと…覚えてるかな。君と夜景見た日と…そのあとは会話で一度言ったんだけど…。
ハプバーで知り合った人に恋して…外でも会うようになって…でも結局付きあってはくれない人を、
あたし待ってたんだけど…」


牧野君はうんうんと相槌を打っていたが、果たして少しだけ話したその内容を覚えているかは疑問だった。


「いつまでも…こっちもだらだら待ってるの嫌だからさ。メールしたの。【会って話がしたい】って。
そしたら速攻メール返ってきたよ。実は牧野君と夜景見に行ったちょっと前に彼に会ったのが
最後なんだけど…それから3回くらいメールしたけど…返信なかったのね」


端的に話すと、なんか明らかにダメになるタイプの恋愛だ。そして薄っぺらい。
真面目な顔して何をやっていたんだろう。


「その返信で、フラれたよ。はっきりさ。好きな人が出来たってさ。
全然恋愛に興味無いみたいなこと
言ってたんだよ?
結局あたしのこと好きじゃないだけだったんだよね。
でも、最後に会ったときは
会いたい、会いたいって感じだったから会ったのに。

身体だけの関係は嫌だったからさ。だから外で初めて会ったときに好きだって言ったんだ。
断られたけど、脈がないわけじゃなかったからだらだら続いちゃって…」


そうだ。【俺、ハンターちゃんのこと、ますます好きになっちゃうよ…】って
メールが来たこともあったなあ。

普通振っといてそんなメールしてくるだろうか。ムカつく。
黙って話を聞いていた牧野君は大きく深呼吸をして溜息をついた。


「…ま…いろいろあるからねぇ…男女はさぁ…」


大変に無難な感想だった。僕も特に突っ込む気は無かった。
本当は、彼が僕をどう思っているのか知りたかった。
「身体だけの関係は嫌なんだ。あたしのこと好き?」 でもそんな言葉は口にできない。

行為中に僕の膝にキスした彼から、気持ちを推し量るのは難しい。



次の日。僕が恐れていたことが起こった。
仕事の用事で、モンさんの家の近くを通ることになったのだ。
モンさんの家のおおよその場所は聞いてわかっていた。そこは仕事の関係で知っている、
という話で盛り上がったのだった。
僕は間違いなく彼の家を探してしまう。だからそこに仕事がないことを祈っていたのだが、
とうとうこの日がきてしまった、という感じだった。


少し道を逸れて、僕は歩調を緩めた。確かこの角のアパート…1階だって言ってたな。
別に何をするわけでもなかった。ただ、彼がまだ存在しているということを確認したかった気がする。


人目を気にしながら敷地内に滑り込み、集合ポストを確認した。
するとパソコンからプリントしたらしい明朝体の文字を見つけた。


「門倉」


その漢字2文字が、僕の脳を痺れさせ、そして安堵とどうしようもない寂しさを溢れさせた。
モンさん…そうか…ここに住んでるんだね。君は、この通路を通って、この景色を見て、
ここに…住んでるんだね。


僕は、そっとアパートを離れた。周りの人におかしく思われないよう、顔を伏せて歩いた。
さよなら、モンさん。さよなら…。



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乙女心とハプバーと