以下ネタバレです




(よし。健至に電話してみよう)
RRRR・・・ピッ
健至 『もしもし、○○?』
主人公「健至。今、話しても大丈夫?」
健至 『平気だよ。今ちょうど寝ようと思って筋トレしてたから』
  寝る前に筋トレって・・・
主人公「筋トレ?」
健至 『毎日の習慣なんだ。寝る前に、腹筋腕立てダンベルその他もろもろ』
主人公「す、すごいね」
  だから、その筋肉美が保てるわけか・・・反省
(なるほど。健至のあの体はこうやって作られてるのか)
  やっぱそう思うよね
健至 『それで、どうしたの?』
主人公「あのね。今日、館長からクリスマスに代休取っていいって言われて、予定空いたから、健至とどこか行きたいなって思ったんだけど・・・」
健至 『えっ・・・』
主人公「確か、健至もクリスマス休みだったよね?どこか行かない?」
健至 『・・・』
主人公「どうしたの?」
  もしかして・・・たっくんの時と一緒かしら?
明らかに、電話の向こうで健至が戸惑っていた。
(もしかして嬉しくないのかな・・・)
主人公「何かもう予定入れちゃった?だったら私、大丈夫だから・・・」
健至 『ち、違うんだ!実は・・・』

そして、クリスマス当日。
私はきくふじにいた。
健至 「本当にごめん!せっかくのクリスマスだったのに」
主人公「いいよ。私も急だったから。久しぶりのきくふじでのお手伝い、頑張るね」
私が仕事だと思っていた健至は、クリスマスの日、丸一日きくふじでの仕事をいれてしまっていた。
あの後電話でその事を聞き、人手が足りないという事なので、急遽私も手伝うことにしたのだ。
健至 「ホントごめんな」
主人公「大丈夫だよ。私が最初に無理言っちゃったんだから、気にしないで」
主人公「それに、今さら取り消しなんてしたら、女将さん達に迷惑かかっちゃうよ」
健至 「そうだけど・・・」
しゅーん、としょげる健至は、叱られた犬のようでちょっと可愛い。
主人公「もう、そんな顔しないで。せっかくのクリスマスなんだから、今日一日楽しくお仕事しようよ」
健至 「○○・・・」
(せっかくだから二人きりで過ごしたかったけど、今年はしょうがないか)
健至 「・・・ありがとう」
主人公「え?」
健至の顔が近づいてくる。
(あっ・・・)
いつ誰が来るかもわからない休憩室で、おでこにキスをされた。
主人公「ど、どうしたの?」
健至 「○○がさみしそうだったから」
主人公「え・・・」
健至 「今日の事は本つに悪いと思ってる。その埋め合わせってワケじゃないけど、営業が終わったら、ちゃんと二人で祝おうな。オレの部屋でさ」
(それって・・・)
思いがけない提案に、ドキッとする。
健至 「なんなら泊まっていってもいいし。ていうか、泊まっていけよ」
健至 「ダメ?」
  この聞き方ずるいなぁ~
  ダメって言えないよ

主人公「うん、いいよ。私も健至と二人きりでクリスマスを祝いたかったから、嬉しい」
(下に女将さんや源さんがいると思うと、ちょっと恥ずかしけど・・・)
  やること前提だな
健至 「よし。夜は誰にも邪魔させないからさ」
健至 「よし!○○との二人きりのパーティのために、今日は頑張るぞ」
女将 「ちょっと健至、うるさいわよ!」
健至 「っと、ヤベ」
主人公「ふふっ」
(よし、私も頑張ろう!)

きくふじのクリスマスでは『和風クリスマスディナー』という特別なイベントを行っている。
その名の通り、内容はクリスマスの代表的な七面鳥などを和風にアレンジした、料亭ならではの料理だ。
健至 「コース用の茶碗蒸し、30個上がったぜ。こっちの蒸し器はあと5分で仕上がる」
健至 「一個、味見してみて」
源さん「・・・ん?坊ちゃん、腕あがりましたなぁ」
健至 「源さんの出汁がんだよ。とりあえず今は60個で足りるかな?」
源さん「バッチリですぜ」
健至 「じゃあ、後は御吸い物の具合を・・・」
(普段はあんまり見ないけど、やっぱり健至って料理上手いんだな・・・)
健至 「って、どうしたんだよ。じっと見て」
主人公「いや、料理美味いなーって感心しちゃって。すごい手際いいね」
健至 「先付前菜吸い物お造り煮物・・・とたくさん品数があるからな。さすがに慣れた」
健至 「○○の仕事は?」
主人公「全部終わったんだ。あとは開店を待つだけ」
主人公「それにしても・・・」
目の前に盛り付けられたまるで宝石箱のような美しい料理の数々に目を奪われる。
(すごく美味しそう・・)
健至 「なんだ、食べたいのか?」
主人公「そういうわけじゃないけど・・・」
健至 「ホラ、あーん」
先程蒸しあがったばかりの茶碗蒸しをスプーンに乗せて、差し出してきた。
健至 「オレの手作り。『チーズがとろける・厚切りベーコンとトマトとピーマンのピザ風茶碗蒸し』熱いうちに食べた方が美味いぞ」
主人公「それじゃあ・・・」
ぱくり。
(熱っ・・でも・・・)
主人公「・・・美味しい!」
健至 「ホントか?」
主人公「ベーコンと野菜の食感が面白いし、なによりこのつゆがすごく美味しい」
健至 「きくふじ特製秘伝の出汁と少しの鶏がら、それにベーコンの油が不思議と合うんだよな。ベーコンは中火でじっくり炒るんだぜ」
主人公「すごい、手が込んでるんだね」
源さん「はっはっは!茶碗蒸しに負けず劣らず、アツアツですなぁ。二人とも」
主人公「げ、源さん!」
健至 「あっ、今のおふくろにはナイショだからな?」
源さん「分かってますって」

源さん「やーいいですなぁ。この七面鳥のように燃え上がる若者たちの情熱・・・」
健至 「な、何言ってんだよ」
(恥ずかしい・・・)
主人公「そ、それよりも、和風のクリスマスディナーなんて面白いね。あんまり・・・っていうか、見た事ないよ」
健至 「昔さ、おふくろが試しにやってみたんだけど、意外と好評で毎年やってるんだよ。これ目当てに来るお客さんもたくさんいるんだ」
主人公「へぇ」
女将 「何言ってるのよ。アンタが幼稚園の時にうちだけクリスマスがなくてヤダって泣きだすから始めたんじゃない。調子いい事言わないの」
主人公「女将さん」
健至 「そ、そうだっけか?」
女将 「そうよ。だからこんな子供向けみたいなメニューばっかり」
女将 「ま、そのギャップが受けてるんだけどね」
女将 「アンタがああでもないこうでもないってワガママ言うから、毎年改良して、今ではすっかりうちのクリスマス定番メニューになりましたとさ」
主人公「あははっ。そうなんですか?」
健至 「それを言うなって・・・」
(子供の頃のワガママな健至か。可愛かったんだろうなぁ)
女将 「さ、そろそろ開店よ。みんな、準備は良い?」
源さん「おうよ!」
主人公「はい!」
健至 「へーい」
女将 「今日は予約のお客様も多いから、気を引き締めていくわよ!」
女将さんの掛け声とともに、料亭きくふじは開店する。
開店と同時にたくさんのお客様が足を運んでくださり、1時間もしないうちに、なんと店は満席状態に。
主人公「和風クリスマスディナーをお二つですね。かしこまりました」
(健至の言った通りだ。みんな、クリスマスディナーを注文してく)
メニューに惹かれるのだろう、いつもより子供連れのお客様も多かった。
客  「すみませーん」
主人公「はい、ただいま!」
休む間もなくきくふじを走り回った。
そして数時間後・・・。
主人公「つ、疲れた・・・」
やっと休憩をもらえた私は、控室で休んでいた。
目の前には賄いのミニクリスマスディナーがあるがとても食べられそうにもない。
(とりあえず、少しでも体力回復しよう・・・)
横になり、目の前にある自分のカバンを漁る。
主人公「あった」
取り出したのは、実はこっそりと買っていた健至へのクリスマスプレゼントだ。
(これ、いつ渡そうかな)
(忙しすぎて、なかなかあげるタイミングが難しい・・・)
  あとで二人きりのクリスマスパーティの時が良いんじゃないかな?
(っていうか、健至は用意してるのかな?私へのプレゼント)
なくてもいいと思うと同時に、やはり期待している自分がいる。
(もらえたら嬉しいなぁ・・・)
プレゼントを抱えごろごろしていると・・・
健至 「お疲れ、○○」
主人公「け、健至!」
慌ててプレゼントを隠した。
健至 「どうした?」
主人公「う、ううん。なんでもない。健至こそどうしたの?休憩?」
健至 「ちょっとだけな。○○が心配になって」
主人公「え?」
健至 「これ」
健至が差し出したのは、小鉢に入ったリンゴだった。
健至 「今日、思った以上に忙しかったからさ。ホラ、甘いものって疲れを取ってくれるじゃん?」
主人公「ありがとう」
その気遣いが心に沁みる。
主人公「・・・ん、美味しい。蜜がすごい甘いね」
健至 「青森から今朝届いたばかりのリンゴだからな。ちなみに、うち御用達」
主人公「さすがだね」
健至 「あれ?なんだ賄いまだ食べてなかったのか」
主人公「うん。ちょっと食欲なくて・・・でも、このリンゴのお陰で元気出てきた。こっちも頂きます」
健至 「そんなに疲れてたのか・・・」
主人公「え?あっ、そういう意味で言ったんじゃなくて・・・」
健至 「クリスマスなのに、手伝わせてホントごめんな」
主人公「もう、私は大丈夫だってさっきも言ったじゃない」
健至 「でも・・・」
主人公「はい、この話は終り。これ以上謝ったら許さないからね?私は健至の彼女なんだから、好きな人の力になりたいって思うのは当然なの」
健至 「○○・・・」
健至 「・・・オレ、分かったかも」
主人公「何が?」
健至 「なんで○○の事を好きになったのか・・・」
(健至・・・)
健至 「○○のそういうオレの事を思って気遣ってくれるところに、惹かれたんだな・・・」
主人公「え・・・?」
どくん、と心臓が高鳴った。
主人公「私も・・・健至の気を配ってくれるところとか、好き・・・」
健至 「え、オレいつそんなことしたっけ?」
主人公「このリンゴとか。すっごく嬉しかったよ?」
健至 「あ・・・」
健至 「そ、そっか・・・」
ぽんぽん
健至が私の頭を優しく撫でる。
健至 「○○・・・」
主人公「ん・・・」
自然と近づく距離。
(お店でキスするなんて・・・)
(でも、クリスマスだしちょっとくらいならいいかな・・・?)
そしてあともう少し、ということろで・・・。
女将 「健至、いるの?」
健至 「げっ!」
(女将さんの声!)
女将 「入るわよ」
女将 「・・・あら」
健至 「な、なんだよおふくろ」
主人公「ど、どうも・・・」
女将 「○○ちゃんにリンゴ渡しに行ったきり全然帰ってこないから、呼びに来たんだけど・・・」
女将 「あら・・・あらあら、二人とも若いわね。もしかしてお邪魔しちゃったかしら」
主人公「い、いえ・・・」
(好きな人のお母さんに、キスしそうなトコ見られるなんて・・・)
居たたまれなさすぎて、その場から逃げ出したくなった。
女将 「○○ちゃん。今日は手伝ってくれて本当にありがとうね。とっても助かってるわ」
主人公「あ・・・ありがとうございます」
女将 「ホント、健至にはもったいないくらいの良い子で・・・」
健至 「お、おふくろ!オレを呼びに来たんじゃなかったのか?」
女将 「あら、そうだったわ。健至、源さんが呼んでたわよ。ケーキの件についてですって」
健至 「分かった。すぐ行く」
(料亭なのに、ケーキなんて作るんだ?)
休憩時間も終わり、仕事へ戻る。
(さっき言ってたケーキって何のことだろう?)
(クリスマスディナーのデザートは最中だし・・・うーん)
女将 「○○ちゃん、ちょっと厨房へ行ってくれる?運んで欲しいものがあるの」
主人公「あ、はい」
主人公「うわぁ・・・」
厨房へ着いた私は、思わず感嘆の声をあげた。
健至 「あ、きたきた」
源さん「おっ、○○ちゃん。見てよこれ、すごいだろう?」
主人公「これ、どうしたんですか?」
厨房には、大きなデコレーションケーキがあった。
健至 「源さんとオレの力作。題して『きくふじ特製・和風クリスマスケーキ』だ」
源さん「栗やあずきや白玉、金粉などで飾り付けをして、生クリームにはきなこを混ぜてみたんだけど、どうだい?」
主人公「すごいです!美味しそう!」
主人公「でもこれ、作るの相当大変だったんじゃ・・・?」
健至 「まぁな。普段はケーキなんて出さないけど、クリスマスは特別っていうことで、お客さんに依頼されてから、源さんと一緒にデザインしたんだ」
源さん「お得意様のご依頼とあっちゃあ、手は抜けませんからなぁ」
健至 「じゃあこれ、松の間に運んでくれないか?」
主人公「私が?」
(こんなに手間のかかったものを・・)
主人公「・・・わかった。責任を持って運ばせて頂きます」
健至 「ハハッ、そんなかしこまらなくたって大丈夫だよ」
主人公「だって・・・」
恐る恐るケーキを持つ。
主人公「で、では行ってきます」
健至 「よろしくな」
主人公「失礼します・・・」
ふすまを開け、部屋へ入る。
主人公「ご予約のケーキをお持ちいたしました」
お得意様「ああ、待っていたよ」
主人公「こちらが、きくふじ特製和風クリスマスケーキでございます」
お得意様「おおっ、すごい。さすがきくふじさんだな」
主人公「ありがとうございます。では、こちらのテーブルに・・・」
と、ケーキを置こうとした、その時。
子供A「わーい!ケーキだケーキ!」
お得意様「コラ、危ないぞ」
子供B「おねえちゃん、もっとよく見せてー!」
お得意様「あっ、そっちは・・・!」
(えっ!?)
どーんっ!
部屋の中を走っていた子供が、思い切りタックルしてきた。
ぐらり、と体が傾く。
主人公「きゃあっ!」
どしーん!
そしてそのまま、尻餅をついてしまった。
主人公「いたた・・・」
主人公「だ、大丈夫?僕、ケガはない?」
子供B「へいきだよ!」
主人公「そう。良かった・・・って」
(そうだケーキ!ケーキは!?)
慌てて辺りを見回すと・・・
主人公「そ、そんな・・・」
そこには、見事にひっくりかえった無残なケーキの姿が・・・。
お得意様「コラ!なにやってるの!」
子供B「ご、ごめんなさい!」
お得意様「お嬢ちゃん、大丈夫かい?孫がすまんかった」
主人公「い、いえ。お孫さんにお怪我がなくて何よりです・・・」
お得意様「ああ、どうしましょう・・・ケーキが・・・」
子供B「ぼくのケーキ・・・っく、ひっく」
主人公「え?」
子供B「う・・・うわぁあああん!ぼくのケーキ!!」
次の瞬間、店中に響き渡る大声で、その子は泣き始めてしまった。



つづく---