以下ネタバレです












ノエル『母さんの容態が急変した。オレはすぐに発つ』

(ノエルのお母さんの容態が、急変・・・!?)

一瞬だけ、くらりと眩暈がした。

主人公「私も行くよ」

ノエル『えっ』

主人公「明日から休みだし仕事は平気。直行するから、時間も取らせないよ」

ノエル『でも・・・』

主人公「ノエルを一人で行かせるなんて絶対できない」

ノエル『・・・ありがとう、○○』

主人公「待ってて。すぐに行くから」

ノエル『いや、オレが車で迎えに行く。その方が早い』

主人公「ノエル・・・」

通話の切れた携帯を見つめて、唇をかみしめる。

(全てが上手くいきそうだと思ってたのに、直前でどうして・・・)

主人公「とにかく急がなくちゃ」


アイルランドまでの十数時間がもどかしい。

お互いに黙り込んだまま、どちらからともなく手を繋ぐ。

繋がった手の先にある温もりだけが、自分を勇気づけてくれる気がした。

ノエル「・・・でも本当に身一つで来るとは思わなかった。仕事、平気?」

主人公「もともと世界選手権のために時間は空けてあったから」

ノエル「世界選手権か・・・」

主人公「・・・」

ノエル「いくつかの場所には、本当にとてつもなく迷惑をかける事になるな」

主人公「うん・・・」

(このままアイルランドのお母さんのところへ向かえば、世界選手権には間に合わないかもしれないんだもんね・・・)

ノエル「だとしても、多分後悔しないけど」

主人公「!」

きっぱりと、ノエルが言い切る。

憑きものが取れたような、さっぱりとした顔だった。

ノエル「全部終わったら頭下げて回る。最悪、この世界には戻れなくなるかもしれないけど」

主人公「ノエル・・・」

ノエル「それでもオレ、やっぱりこの選択を後悔したりはしないと思うよ」

(色んなことを一気に知って、きっと私が思う以上に辛かっただろうに・・・)

主人公「頑張ったね、ノエル」

ノエル「違う」

主人公「え?」

ノエル「頑張るんだ、現在形と未来形で」

主人公「うん、そうだよね」

私の言葉にノエルが微笑みを浮かべる。

ノエル「あっち着いて、手術が・・・成功したとして」

主人公「うん」

ノエル「そしたら母さんに紹介するから」

主人公「えっ・・・」

ノエル「『この人はオレが世界で一番愛してる人だ』って」

主人公「うん・・・!」


アイルランドに降り立つなり、私達は病院へと直行した。

通された病室には、病院着で小さな女性が眠っている。

ノエル「母さん・・・」

ノエルと同じ美しい金髪。

伏せられた瞳もノエルと同じなのだろうか。

主人公「眠ってるね・・・」

ノエル「術前処置は済ませてあるって・・・この後すぐに手術だからな」

主人公「そっか」

本来なら透き通るように美しいのであろう白い肌には、ぞっとするほど生気がない。

その事が無性に悲しかった。

ノエルは愛しさと悲しみをない混ぜにしたような表情で、じっとお母さんを見つめていた。

ノエル「母さん・・・オレ、戻ったから・・・・」

ノエル母「・・・」

ノエル「今までずっと一人ぼっちにしてごめん。事情も知らないまま、母さんに寂しい思いをさせて、ごめん」

ノエル母「・・・」

ノエル「母さん・・・」

主人公「ノエル・・・」

祈るような、哀願するようなノエルの眼差しに泣きそうになる。

ベッドに横たわる、この小さな女性の手をとって、ノエルはそっと顔を伏せた。

ノエル「もう一人じゃないから。オレが傍にいる、○○だっている」

主人公「うん、そうだよ・・・」

ノエルに寄り添って、お母さんを見つめる。

とにかく手術が成功するように、そればかりを願いながら。


手術が始まって3時間ほど

待ちながら、私少し眠ってしまっていた。

見るとノエルも私の肩に凭れかかって眠っていた。

(ノエルの寝顔、可愛い)

(でもやっぱり、今日はいつもより表情が険しい気もするな・・・)

主人公「夢の中でくらい気を休めないと、ノエルが先に参っちゃうよ・・・?」

ノエル「ん・・・」

小さく身じろいだノエルの肩から掛けていたブランケットがずり落ちる。

少し苦笑しながらそれをかけ直すと、ノエルの瞳がそっと開いた。

主人公「起こしちゃった?」

ノエル「・・・○○・・・?」

主人公「まだまだ、かかるから。もう少し眠ったままでいいんだよ」

ノエル「ん・・・」

目を閉じさせるために、そっと瞼に手のひらをかざす。

するとノエルが、その手をぎゅっと掴んだ。

主人公「ノエル・・・?」

ノエル「今、ここに○○がいてくれて良かった・・・」

主人公「!」

ノエル「手、こうしてて」

主人公「うん・・・」

私の返事に安心したのか、ノエルがまたすうっと寝入る。

本当に疲れていたんだろう。

(しっかりしなくちゃ。ノエルが辛いなら、その分私が頑張らなくちゃ)

主人公「未来くんたちにも、ノエルの事頼まれちゃったもんね・・・」

急いで空港に向かった時に入った、カジノの皆からの電話を思い出す。

主人公「お母さん、今凄く頑張ってるよ。だから私達も頑張ろうね・・・」

ノエル「ん・・・」

繋いだ手に力を込めて、私も小さく目を伏せた。


ハッと目を覚ますと、私の隣で寝入っていたはずのノエルが起きていた。

彼の分のブランケットも、私の体にかかっている。

主人公「起こしてくれても良かったのに・・・」

ノエル「アンタの寝顔見てると、心が安らぐから」

主人公「もう・・・」

ノエル「信じてないだろ」

主人公「そんな事、ないけど。・・・あとどれくらい?」

ノエル「予定通りならそろそろだな。・・・でも大がかりな手術だし、不測の事態を考えると、もう少し見た方が・・・」

ノエルがそこまで言った時、パッと手術室のライトが消えた。

続けざまに手術室の扉が開き、寝台車に横たえられたお母さんと、手術担当のアンカー先生が現れる。

眠ったままのお母さんの姿は、術前と同じで、そこから不穏なものは感じない。

(手術は、成功したの・・・?)

ノエル「オレは先生に話を聞いてくる。○○は、母さんについててやって」

主人公「うん、わかった!」


術後の説明を受け、二人でお母さんを見守る。

まだ目は覚まさないけれど、この難しい手術は、奇跡的に成功したとのことだった。

(手術後の問題も、いまのところはまだなさそうだし、これで目覚めてくれたらいいのに・・・)

シンと、静寂に満ちた部屋。

お母さんを見つめるノエルの視線に、今までとは違うものがよぎった気がした。

主人公「ノエルが、今何を考えてるか当てようか」

ノエル「え?」

主人公「手術が無事に終わって、まだ目こそ覚めないけれど経過も悪くない。・・・今から行けば、世界選手権に間に合うよね」

ノエル「・・・」

主人公「違った?」

ノエル「・・・かなわないな、アンタには」

主人公「お母さんが一番大事。でもレースの事だって、ノエルは好きだよね」

ノエル「・・・走る意味がわからなくて、広告塔なんて嫌だってヒネくれてた事もあったけど」

お母さんの顔を見つめたまま、ノエルがかみしめるように呟く。

ノエル「やっぱりオレの人生の半分は、レーサーとしてのそれなのかもな」

主人公「・・・行こう。お母さんがもし目を覚ましてたら、そういう気がする」

ノエル「・・・」

主人公「心配しなくても、ノエルのお母さんは凄い人だよ。大変な手術にも耐えたんだもん」

ノエル「そうだな・・・オレの母さんだからな・・・」

ノエル「ワールドチャンピオンを取って戻ったら、目が覚めた母さんに会える」

ノエル「・・・都合良いかな」

主人公「ううん、そんな事ない」

ノエルと手を取り合い、幾分か穏やかな表情をしているお母さんを見つめる。

その姿をしっかりと瞳に焼き付けて、椅子を立つ。

ノエル「すぐ戻る・・・しばらく待ってて、母さん」

ノエル母「・・・」

ノエルがそっと、お母さんの手の甲に口づけを落とす。

何だかそれは、世界で一番綺麗な光景だと思った。


皐月さんが手配してくれたのだというジェット機に乗って、アイルランドを発つ。

そのおかげか、私達は大会の前日にモナコ入りすることができた。

その上・・・

ノエル「本当に!?」

主人公「ノエル?」

ノエル「母さんが目を覚ましたって・・・これでしばらくは安心だろうって・・・!」

思わずノエルに抱きつく。

主人公「本当に良かった・・・!」

ノエル「ああ」

主人公「これで明日の試合は負けられないね?」

ノエル「確かにそうだな」

ノエルの声が素直に弾んでいる。

ほころんだ笑顔がストレートに甘い。

主人公「明日、大会が終わったらすぐに会いに行こうね」

ノエル「もちろん」

主人公「そうと決まればこうしちゃいられないね。明日に向けて英気を養うためにも、ノエルはしっかり休まなくちゃ!」

ノエル「えっ」

主人公「試合前夜って大事だと思うし、今日はゆっくり休んで。私はノエルの邪魔しないように・・・」

ノエル「やだ」

主人公「えっ?」

ぐいっと手を引かれたせいで、部屋を出ようとしていた足が止まる。

主人公「ノエル・・・」

ノエル「体をいたわるのもそうだけど、心を安らげる必要だってあると思う」

主人公「え?」

ノエル「オレは、○○と一緒にいたい」

ノエルからの直球に、思わず顔が赤くなる。

硬直していた私を、ノエルがベッドへと引きよせる。

ノエル「べつにヘンなことしない。アンタと一緒にいると、凄く落ち着くから」

主人公「ノエル・・・」

ノエル「だから、今夜は傍にいて」

主人公「!」

ノエル「オレを置いて、どこか別のとこに行こうとするのとか、止めて」

主人公「う、ん・・・」

ノエル「良かった」

表情を緩めて、ノエルが私の頬にキスをする。

体に触れたノエルの肌が、何だかとても温かい。

(明日、きっと勝とうね。それでお母さんに優勝の報告をするの)

主人公「ノエルなら、出来るよ・・・」

私の小さな呟きが、二人きりのホテルの部屋に溶けた。





選択肢

・そっか・・・

・明日のためだよ




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お母さんの手術無事成功して良かった。


てっきり、世界選手権日本で開催かと思ってたんだよね・・・

だから3日じゃ間に合わないなーって

だって3日前まで日本でトレーニングしてるんだもん

そしたらモナコだった (^▽^;)

うん、でも、手術も世界選手権もどちらも可能になってよかったです