以下ネタバレです









パーティの翌日、私たち駅に向かった。

主人公「わあ、ベルニナ急行って赤い車体で格好良いね!」

ノエル「オレ、もしレーサーになってなかったら運転手になりたかった」

微笑を浮かべたノエルは、だけどいつもより気分が浮き立っているのだろう。

隣に立っているだけなのに、なんだか楽しそうな雰囲気が伝わってくる。

(きっと電車に乗れるの、嬉しいんだろうなあ)

主人公「ノエルに車以外の乗り物って、いまいちピンと来ないかと思ったけど・・・」

ノエル「思ったけど?」

主人公「やっぱり嘘、きっと似合うよ。電車の運転でも、ノエルは凄く真面目に走るんだろうね」

ノエル「そうかな」

主人公「ちょっと今想像してみたもん。それにノエルはピシッとした服も似合うから制服もバッチリだろうね」

ノエル「・・・じゃあ今度二人で着る?セーフク」

主人公「えっ、わ、私は良いよ。ノエルが来たら似合うだろうなって話だし」

  「良いよ」って、これ、漢字違うよね?意味が違ってきちゃうもん

ノエル「なんだ、○○のセーフク姿見たかったのに。皐月さんに相談しようかと思った」

主人公「!?言っちゃダメだよ、絶対、凄く全力で面白がるに違いないんだから・・・」

微笑みながら時たま爆弾を投下する皐月さんを想い浮かべ、慌ててそう言う。

するとノエルは、分かったとでも言うように小さく肩をすくめた。

主人公「それにしてもクールの駅って、きちんと整備されてて綺麗だね。整然としてるって意味では日本と似てるかも」

ノエル「時間に関しても正確だから、確かに日本っぽいかもしれないな」

主人公「へえ、やっぱりそうなんだ~」

ノエル「乗るか。忘れ物は無い?」

主人公「うん」

さり気なく私の荷物をノエルが持ってくれる。

その事に相変わらず凄く感謝しているけど、昔みたいに恐縮はしなくなっている。

(付き合い始めてからかなり経つもんね、って言うか・・・)

主人公「出会ってから今日で一年目なんだよね」

(今日が一周年の記念日ってこと、ノエルは覚えてるのかな?)


主人公「思ったより人が乗ってないね?」

(ノエルが手配してくれたの一等車だから人が少なめなのかな。でも観光シーズンだよね?)

荷物を置きつつ不思議に思っていると、不意に後ろから手を握られ、引き寄せられる。

ふわりと、ノエルの香りがした。

主人公「ノエル?」

ノエル「貸切にした、今日のために」

主人公「ええっ、貸切ってこの時期に!?」

ノエル「嫌だった?」

主人公「違う、凄く嬉しいよ!でも凄く高かったんじゃないの?」

ノエル「だって貸切にしないと、○○とこういうこと出来ない」

主人公「あっ・・・」

ツンと顎のラインを撫でられ、そのまま口づけられる。

不意打ちのキスに、目の前がクラクラした。

ノエル「座ろう。○○のためのパノラマ車だから、景色楽しんで」

主人公「う、うん・・・」

(そっか。これ全部、私の為に用意してくれたんだ・・・)

主人公「ノエル、いつも本当にありがとう。凄く嬉しいよ」

ノエル「ん、どういたしまして」

主人公「でも良いのかな。こんなに甘やかしてもらって。あんまり幸せだと、バチでも当たるんじゃないかと思っちゃうよ」

ノエル「・・・アンタはもっと甘えて良いくらいだと思うけど」

主人公「え?」

ノエル「なんでもない。・・・来て」

お姫様のように手をそっと引かれる。

触れる指先の温かさに、胸の内まで温まるような思いだった。

(スイスはノエルやカジノの皆の思い出の土地だもんね。一緒に旅してまわれるの、本当に嬉しい・・・)


主人公「わあっ、凄いキレイ!さすがパノラマ車だね!」

左右のガラス窓からスイスの豊かな大地が迫ってくる。

まるで映画のワンシーンのような絶景に興奮してしまう。

主人公「凄い、絵葉書でしか見た事ないような景色だよ。まさに名峰だね」

ノエル「気に入った?」

主人公「気に入らないわけがないよ!本当に迫力が・・・」

峰に残る白雪も、山麓から広がる緑も何もかもが美しい。

窓があかないのが残念だけど、叶うなら風を浴びたいと思った。

主人公「大自然!って感じ。日本じゃ中々お目にかかれない景色だよね」

ノエル「もう少し走ると、ラーゴ・ビアンコが見える。白い感じの湖」

主人公「湖が白いの?」

ノエル「氷河の雪解け水のせいで白く濁って見える。ほら見えてきた」

(わあ、太陽の光でまた不思議な色合いに見える)

なんとなく、白磁の工芸品を思い出す。

なめらかでまろやかな、神秘の乳白色。

ノエル「ラ-ゴ・ビアンコで白い湖って意味だってさ」

主人公「凄いね、素敵だなあ・・・」

ノエル「気に入ったならよかった」

主人公「でも新鮮だね。いつもは私が日本の事あれこれ教えるのに」

ノエル「たまには逆も良い、でしょ」

微笑むノエルに頷く。

車窓から広がる景色は相変わらず美しい。

主人公「良いなあ。ノエルも皆も、学生時代はこんな素敵な場所で過ごしたんだね」

ノエル「綺麗な場所で過ごしたからって、思い出が全部綺麗かというと、そうでもないけど」

主人公「えっ」

ノエル「全員幼かったし。綺麗な思い出と言うよりは、ハチャメチャな感じ」

主人公「ハチャメチャ?」

ノエル「酷かったのは遼一。日本人講師がワークショップに来たことがあったんだけど、あの日本人は目を見るだけで人を呪えるとか言われて」

主人公「の、呪い・・・」

ノエル「怖くてひたすら目を逸らしてた」

  可愛い (≧▽≦)

ノエル「途中で理由を聞かれてから、やっと嘘だってわかったけど、日本人講師爆笑してるし、他の奴らも笑ってるし。当時は小さかったからよく騙されてた。・・・たまに泣いたし」

主人公&私「災難だったね・・・

ノエル「・・・まあ、オレ人付き合い苦手だったし。未来とか遼一とか、皆と会えて良かったけど」

主人公「ふふっ、そっか」

ノエル「この事、絶対ナイショだよ。あの人たち、絶対調子乗るから」

無口なノエルが少し饒舌に語る学生時代は、やっぱり楽しいものだったんだろう。

穏やかな声が嬉しくて、私は小さく微笑んだのだった。


一通り景色を堪能したころ、不意にノエルが荷物をまとめる。

ノエル「次のアルプ・グリュム駅で降りよう」

主人公「あ、そっか」

(途中下車しようって話だったもんね。それにしても、アルプ・グリュムって舌噛みそう・・・)

主人公「えっと、降りたらどこに行くの?」

ノエル「内緒。でも○○を連れて行きたい場所がある」


ノエル「お待たせ、昼ごはん買ってきた」

主人公「ありがとう」

ノエル「ここから次のオスピッツオ・ベルニナ駅までハイキングするつもり」

ノエル「・・・歩ける?」

主人公「平気だよ。でもオスピッツオ・ベルニナって、アルプ・グリュムにもまして舌噛みそうな駅名だね」

ノエル「心配ない、舌噛んだら慰めてあげる」

主人公「な、慰めるってどうやって」

ノエル「さあ?」

(なんか悪い顔で微笑んでるし・・・。あ、あんまり考えないでおこう)


主人公「わあ、ものすごい絶景!晴れてて良かったね!」

ノエル「そうだね」

アルプ・グリュムとオスピッツオ・ベルニナ駅は、大体一時間半ほどの小ハイキングコースで結ばれている。

景色も素晴らしく、沢山の人の姿が見えた。

主人公「でも段々日頃の運動不足がたたるというか」

(結構きっつい・・・かも)

ノエル「○○」

主人公「えっ、わっ!?」

疲れてバテていた身体を、羽のように軽やかに引き寄せられる。

ノエル「平気?」

ノエル「疲れたら言って」

主人公「ありがと。でも、もう少し頑張るから平気だよ」

ノエル「オレ体力あるし。アンタを抱えるくらい、なんて事ないけど」

  それは嬉しいけど・・・恥ずかしい (///∇//)

主人公「ふふっ、私はこれで十分なの」

そう言って、繋がった手を小さく持ち上げる。

ノエル「そう。じゃあ、ちゃんと握ってて」

主人公「うん。では、お言葉に甘えて」

(手を繋いでさり気なく引いてくれるのもそうだけど、歩幅もかなり気をつかってくれてるよね)

出会ったばかりの一年前には、あんまり考えられなかった事。

(今では当たり前のように享受してるけど、それって凄く幸せなことだよね)

主人公「ノエル、いつもありがとうね」

ノエル「今日の○○は、お礼が多いな」

主人公「そう?でも本心だし仕方ないよ・・・って、ノエル」

ノエル「何?」

主人公「こっちはコースからちょっと逸れてるけど・・・どこ行くの?」

ノエル「心配ない。良いとこだから」

(もしかして、この先が『連れて行きたい場所』なのかな?」


主人公「わあっ・・・」

目の前に広がる美しい花の群れ。

白にピンク、濃い紫に黄色の鮮やかな花畑が、そこにはあった。

主人公「キレイな花畑!」

ノエル「ここが、○○を連れて来たかった場所」

主人公「凄いね、ノエル!前からこんな素敵なところを知ってたの?」

ノエル「寮生活してた時に、未来と一緒に寮を抜け出して見つけたんだ」

主人公「隠れ家的で良いね、風も気持ち良い・・・」

ノエル「最初は気持ちよくても、あんまり当たりすぎると冷えるよ」

主人公「ふふっ、気をつける」

ノエル「シート持ってきた、昼ごはんにしよう」

主人公「うん!」

二人で協力してシートを広げると、駅でノエルが買ってきたパンやチーズを取り出す。

主人公「花に囲まれてのご飯って贅沢だね。・・・何でキョロキョロしてるの?」

ノエル「エーデルワイス、ないかなと思って」

主人公「エーデルワイスって白くて星みたいな形の花?」

(確か、花びらがビロードみたいっていうかフワフワしてるんだよね)

ノエル「夏も終わったし日当たり良いから、ここにはないのかもな」

主人公「開花期は夏だっけ?まだ9月だし日陰とか探してみようよ」

ノエル「えっ」

(ノエルが見たいなら叶えてあげたい。探すくらいしか出来ないけど)

主人公「ほら、あっちの陰になってるところなんてどう?もしかしたら・・・」

ノエル「サンキュ」

ノエル「でも良い、オレはアンタと一緒にいる事の方が重要だから」

主人公「ちょ、直球・・・」

ノエル「本心だから」

そう笑ったノエルの表情がどこかあどけなくて、未来くんとここを見つけたのだと言う、学生時代を想像させる。

主人公「私は普通に地元の学校に通ってたし・・・よく考えると、出会いって本当に凄いね」

ノエル「そうだな。オレ、○○に会えて良かったよ」

主人公「ノエル・・・」

ノエル「出会ってくれて、ありがとう。次の一年もよろしく」

主人公「!」

主人公「もしかして、出会って一年目って覚えて・・・?」

ノエル「当たり前」

近くの野草を私の髪にそっと挿すと、今度は耳にかすかな口づけ。

ノエルの動作の一つ一つに肩を揺らした私を見て、彼は微笑んだ。

ノエル「可愛い、○○」

主人公「そっ・・・」

ノエル「そ?」

主人公「そういう動作がサマになるの、ずるい」

ノエル「嫌だった?」

主人公「そんなこと無いに決まってるよ・・・」

半ば脱力してそう言った私に、ノエルはまた少し笑った。


ノエル「到着」

主人公「うわあ、歩いたね・・・」

ハイキングコースを抜け、乗車駅のオスピッツオ・ベルニナ駅に到着する。

主人公「ちょっと待ってて。さっきのお昼のゴミとか捨ててくるから」

ノエル「じゃあオレも・・・」

主人公「大丈夫だよ。荷物持ってくれたし疲れたでしょ?先に戻ってていいよ」

ノエル「ん、分かった」

小さくノエルに手を振り、ホームでゴミ箱を探す。

(スイスって本当にきれいで整然としてるよね。エコとか環境保護に、国全体で力を入れてるんだっけ)

主人公「分別も結構厳しそうだからちゃんとしないとね。ええと・・・」

ごみの入ったビニール袋を広げ分別していると、視界の端で走り出すベルニナ急行を捉える。

主人公「えっ?何で発車してるの?だって発車音とか・・・えっ!?」

(う、嘘っ!?電車が行っちゃった!)

  (°Д°;≡°Д°;)

主人公「お、落ち着かなきゃ。とりあえずノエルに連絡・・・は出来ないじゃない!」

(電話も財布も全部ノエルに預けた荷物の中だよ、どうしよう)

???「△△?△△じゃないか?」

主人公「えっ」

編集長「やっぱり△△だ!」

主人公「編集長!?」

唐突な呼び声と、思いがけない人物の登場に驚く。

(どうしてこんな所に編集長が・・・!?)





つづく---