決議案でうたわれている最重要方針(指針)の一つに、いわゆる「二重のとりくみ」がある。27回党大会では「二重の取り組み」、前党大会では「二重の役割」とそれぞれ一言で済まされていたにすぎないが、今回は詳しく展開されている。
 そもそも「二重のとりくみ」、安保を留保した野党政権の追求と同時に安保問題を重視した活動については、同じ比重で取りくみつづけるのは現実問題としてありえない。この間、共産党は安保廃棄を棚上げした野党政権を追求する方針から、岸田軍拡政治と闘うために安保問題の重視へと軸足を移したとみなされているだろうし、決議案でも共闘の話は出てくるが野党政権の話はもはやない。つまり、実際にはどちらか片方に重点が置かれる形でのとりくみとなる。
 ではなぜあえて「二重のとりくみ」が強調されるようになったのかといえば、一方へ行きすぎて他方が顧みられない状況がみられたからではないか。これまで不破氏や志位氏が安保廃棄を留保した政権を強調すれば、「民主集中制」の原則に従って中央委員会以下の党機関、上から下まで安保廃棄を訴える取りくみには消極的になった。これは「民主集中制」というよりも実際は、安倍政権下で〝忖度〟がはびこったようなものに近いかもしれない。それらの反省としての「二重のとりくみ」の強調だとすれば、それ自体は評価できるのだが、同時に原因となったものを取りのぞかなければ実効性がなくなる。
 その原因の1つは、志位委員長が長期にわたって党首をつとめてきたことによる組織的硬直性であり、それは党首の交代によって取りのぞかれるかもしれない。
 問題となるのは、もう1つの原因、厳格すぎる規律である。政策政党として議会での統一的な行動、あるいは選挙闘争での統一的な行動を破壊する行為は問題だが、出版物やSNS、あるいは大衆運動での党指導部とは異なった意見の表明や提起などにまで処分対象にし、さらにその党の対応を疑問視するマスコミにまで党攻撃だとして反発する、そういった反民主的とも言ってよい規律や運営はどうみても行きすぎである。このようなことをしているから、重要な問題や政策で反対意見や修正意見などが出にくくなり、幹部の一声で党全体が片方に振れすぎてしまうのである。
 この反民主的規律こそが「二重のとりくみ」だけにとどまらず党の躍進を妨げるもの、まさにその桎梏となっていることに党指導部は気づくべきである。たとえば別の例として「『悪政4党連合』への厳しい審判を下」(決議案)す課題、維新の会の勢いを止めることを考えてみよう。

 維新の会の大阪での成功は一過性のブームではなく、組織的な裏付けがあるゆえに、かつての土井たか子党首の社会党から(旧)民主党にいたるブームのように急激に縮小・解体するようなことはないだろう。かつてのブームとは異なり、維新の会は着実に都市中上層を組織化しつつある。それはおそらくこの30年間の日本社会の変化の反映でもある。あくまで個人的な感覚でしかないが、一貫して増加中の共働き世帯、とくに夫婦とも正規労働者の層に食い込んでいるように思われる。ただしこの層のうち、よほどの高所得層でないかぎりは、共産党としても十分獲得可能であり切り崩せるはずである※1。
 彼らへの批判の切り口として、彼らの〝独裁性〟をとってみよう。維新の会の場合、この独裁的体質は、その政策にも反映している。大阪市職員への「思想調査」、大阪府立高校での教師に対する「君が代」強制・口元チェックなどがその最たるものだが、都構想にしても、かつて橋下徹氏は「 日本の民主主義を相当レベルアップした」などとうそぶいたが、実際は「上から」の押しつけであって、住民による「下から」のあるいは草の根からの要求や運動に基づいたものでは決してなかった※2。
 にもかかわらず、彼らが大阪で圧倒的な与党となったことは、打ちだす政策やその見せ方、イメージ戦略次第では、そのような組織の体質が、支持拡大の障害にはならないということでもある。これは共産党指導部にとって多少のなぐさめにはなるだろうが、それでもなお共産党には、維新と比べて不利な要素が2つある。
 1つは、お隣の国の同じ名称の党による〝悪い見本〟である。その悪影響を低減する意味でも、今後も中国政府への批判を控えるようなことがあってはならない。中国全体あるいは中国共産党全体を敵とみなすのではなく、かつて毛沢東一派を批判したように習近平一派として批判する限りにおいて遠慮は無用である。
 そしてここでも、上述の維新以上に反民主的な規律のおかげで、共産党による維新批判は説得力を失い、それがために彼らに流れた無党派層の票を奪い返せないのである(もちろん理由はそれだけではないだろう)。
 しかしながら、党大会に向けて積極的に意見を募る姿勢をみせるどころか、少数意見を押さえるような土方声明(12/1付「しんぶん赤旗」)を出すようでは、指導部が一新したところでこの面でのなんらかの実りある党内改革は難しいと考えざるをえない。それでも客観的には党改革を進めない限り、党の躍進はありえないのであり、党指導部はなんらかの手直しに着手せざるをえなくなるだろうことも間違いのないところである。
 党大会後の新しい指導部にも実行可能な手直しはあるだろうか? たとえば決議案はお粗末な図式「民主集中制」VS「バラバラな党」でもって「民主集中制」を擁護しているつもりになっているのであるが、そういう指導部の土俵にあえてのって、「ガチガチの党」VS「(地方・地域・職域)分権化」という反対提起も可能だ。中央委員会に集中しすぎた人材を都道府県委員会、地区委員会にもどし、都道府県・地区を維持・強化しつつその自律性を高めるのである。他にもジェンダー問題やハラスメント問題などを切り口にして何らかの手直しがあるかもしれない。私たちは、そうした手直しを突破口にして党の民主化に力をつくさなくてはならない。

※1:維新の会が今のところおおむね男性偏重であるとすれば、それに対抗する共産党は、戦術として夫婦共働き世帯や子育て世帯の女性候補者の積極的擁立をめざすべきだろう。この点にも私が「女性幹部の抜擢」という決議案の方針を評価する理由がある。
※2:彼らが推進してきた目玉政策、カジノにしても財界や一部の大企業の要求として民主的要素はまったくないし、万博もその点では変わらない。せめて愛知万博並みに住民参加・市民参加を追求していれば今とは状況が違っていただろうが、彼らの体質がそのような発想を妨げてきたのである。

 

『日本共産党資料館』を更新

1、党大会関連

わが党の当面の要求(10回党大会)
2、幹部の発言(野坂参三)

民主的日本の建設
徹底した民主的憲法のために(一)
徹底した民主的憲法のために(二)

※宮本顕治氏より前の幹部は軽視されがちであるが、日本国憲法の制定に果たした共産党議員団、とくに野坂参三氏の質問は高く評価されるべきであろう

 

管理人(2023/12/3)