「第二章 現在の日本社会の特質」で語られている「きわめて異常な国家的な対米従属の状態」「『ルールなき資本主義』――財界・大企業の横暴な支配について」、いずれもよく調査されており評価できる。
 しかし一方で、どうしても気になってしまうのが、具体的数値をあげた欧州との比較が目立つことである。想定する読者が党員、とりわけ専従者であることを差し引いたとしても、これではあまりに"教科書"的すぎる※。普通の国民は、イタリアと比べて日本政府が在日米軍を優遇しすぎてきるからやめてほしいとか、フランスと比べて労働時間が長いから短くしてほしいとか、アイスランドと比べて女性の地位が低いから高くしてほしいとかいう風に思うわけではない。言うまでないことだが、日本国民の諸要求は、日本の歴史的条件のなかで生まれ育ち、そのなかでうまれてくるものだ。マンネリズムにおちいることなく、もっと現場の要求、国民の生活に根差した要求をその都度アップデートしながら、国民がわが身のこととして感じとれるような構成・記述を心がけてもらいたいものだ。

※:本書は党の講師資格試験の「文献ガイド」に収録されており、試験会場に持ち込み可能な"教科書"になっている。

 それから気になったと言えば、以下の記述はまったくいただけない。
 

電機産業の競争力の衰退は目を覆うばかりです。1988年に、日本は世界の半導体の50.3%をつくっていましたが、2019年では10%(経済産業省資料による)と、自前では半導体さえまともにつくれなくなり、台湾の半導体企業を莫大な補助金で誘致するという体たらくに陥っています。(上巻161ページ)

 

 こういうケチをつけるなら、それでは日本共産党の産業政策として半導体産業を補助金で育成するのかといえば、それには反対している。そもそも日本の半導体産業の没落の経緯については「日米半導体貿易交渉」(1986年)を抜きに語ることはできないのであって、これは綱領の以下の規定の例としてあげるべきだろう。
 

日本経済にたいするアメリカの介入は、これまでもしばしば日本政府の経済政策に誤った方向づけを与え、日本経済の危機と矛盾の大きな要因となってきた。「グローバル化(地球規模化)」の名のもとに、アメリカ式の経営モデルや経済モデルを外から強引に持ち込もうとする企ては、日本経済の前途にとって、いちだんと有害で危険なものとなっている。

 

 日本の半導体産業の衰退は、この規定の前半部分の典型的な例なのである(この規定の後半はすでに時代遅れだと私は考えている)。

(若干の補足)

1、「松竹伸幸著『不破哲三氏への手紙』についての感想」で述べた、「自衛隊活用」論の提起について、不破=志位氏が「そのタイミングで出したり引っこめたりするのが適切だと考えていた」という指摘について、誤解を招きかねない記述だったので改めて釈明しておきたい。不破=志位氏の「自衛隊活用」論は、党が自ら進んでひけらかすような提起ではない。共産党の政権入りが現実味を帯びてくるたびに執拗に出される質問に答えるべく、指導部が「野党連合政権」と党の路線との関係を解明すべき時だと判断したときに出されたものだということである。だが、こうして『新・綱領教室』と銘打って出版した以上、志位路線として、おそらく下に記したまとめのような形で確定だと思われる。

 

2、本書に沿って志位路線をまとめてみたが、私はそもそも自衛隊の「段階的解消」論自体が誤っているという立場である。それに立脚した「自衛隊活用論」も誤りに誤りを重ねるものだ(とくに第1段階)。それに依拠して、党の基本政策として「自衛隊=合憲」で日米安保条約を維持するという松竹氏の議論は、「基本政策」をどう捉えるかによっては議論の余地があるものの、三重の誤りではないかと考えている。

 党の政策の実現可能性が遠のいたと見えるとき、それに至るまでの段階を設定すればその課題に近づくと考えることは場合によっては幻想となる。必要な段階を想定・設定すること自体は誤りではない。実現が遠のいたと見えようとも、国民の要求とつなげて正々堂々と訴え続ける以外に道は切り拓かれない。遠のいたとみえる課題と国民の要求とのつながりを見出してたたかいにつなげることが要だ。日米安保条約の「段階的解消」論を採らないとして「二重のとりくみ」を追求するのと同じように、9条護憲の完全実施も、そして資本主義を乗り越えるという課題も追求すべきである。


22回党大会決議の自衛隊の「段階的解消」論に沿った志位路線のまとめ

第1段階(当面する課題の段階)=「国民連合政権」または「野党連合政権」
・「戦争法の発動や海外派兵の拡大など、9条のこれ以上の蹂躙を許さない」
・自衛隊=合憲
・自衛隊も安保も維持=活用する
<党として>
・自衛隊解消の旗はかかげない(段階論)
・9条護憲(自衛隊=違憲)の旗をかかげる⇒政権とベクトルの向きは同じ
・安保廃棄の旗をかかげる(段階論をとらない)⇒政権とベクトルの向きは同じ

第2段階(中期的展望の段階)=「民主連合政府」
・日米安保条約廃棄+自衛隊の民主的改革(軍縮含む)
・自衛隊=合憲
・自衛隊は維持=活用する
<党として>
・9条護憲(自衛隊=違憲)の旗をかかげる⇒政権とベクトルの向きは同じ
・自衛隊解消の旗もかかげる段階⇒政権とベクトルの向きは同じ

第3段階(究極的目標の段階)=革命の政府としての「民主連合政府」
・アジアの平和的安定の情勢が成熟+憲法9条の完全実施についての国民的合意が成熟
・自衛隊=違憲
・自衛隊解消にむかっての本格的な措置にとりくむ

 

管理人(2023/9/12)