今年7月に株式非公開化をめざす東芝について、経済誌・ビジネス誌などで解説記事などが出ているが、めずらしく「しんぶん赤旗」にも杉本恒如記者による「金融侵略 苦悩する東芝」(2023年5月)という一連の記事が連載された。記事は確かに共産党ならではの独自視点で書かれているのだが、残念ながら事実誤認や論理飛躍がはなはだしく読むに耐えない。
まずは事実誤認。
カストディアンとは、投資家に代わって有価証券(株式や債券)の保管・管理を行う金融機関です。通常、外国の有価証券を購入する投資家がカストディアンと委託契約を結ぶといわれます。表向き株式名義人(会社の株式名簿に記載される株主)となるカストディアンは、株主構成の中で「金融機関」に分類されますが、その背後にいる真の株式所有者は主に外国人投資家だということです。
カストディアンの背後にいる真の株主は主に外資です。米国政府の力を利用し、日本の危機につけこんで襲来した外国人株主は、日本企業に大きな影響力を及ぼす地位を得たのでした。
カストディアン(受託信託銀行)に有価証券の保管業務を委託しているのは、主に短期間での売買はあまりしない内外の機関投資家である。
記事でも触れている東証「2021年度株式分布状況調査」によれば、外国法人等の株式保有比率30.4%で、カストディアン=信託銀行は22.9%である。ここには内外の機関投資家が含まれるが、国内では日銀のETF保有分が東証時価総額の7.0%(2022年度末)、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の国内株式運用分は5.9%(2021年)ある※1。これだけで信託銀行の保有比率の5割をゆうに超える。いったいどんな資料をみて「主に外資」などと言っているのだろうか? さらに杉本記者が敵対視する「外資」の実体も国内の機関投資家とそう変わるものではない(もっとも中央銀行が間接的にであるにせよ株式を保有しているのは日本だけであるが)※2。
次は論理飛躍。
賃金と設備投資が伸びずに日本経済が長期低迷するのは、外国人株主による支配と搾取の仕掛けがあるためなのです。
経済産業省による「海外事業活動基本調査概要」(2021年度)によれば、日系企業の現地法人従業者数569万人、現地法人の売上高303.2兆円、製造業現地法人の海外生産比率(国内全法人ベース)は25.9%である。日本経済はアメリカと同様に内需型であるが、それでも製造業でこれだけ海外に依存しているとなれば、株主に外資が占める割合も当然大きくなってくる。
記事にも書かれているが、外国法人等の株式保有比率は2020年で30%程度である。ちなみに貿易依存度が日本の2倍以上となっているドイツでは海外投資家が保有するDAX指数構成銘柄の比率も日本の2倍以上(2014年で64%)だ。日本企業が特別に外資に支配されているわけではないし、外国人株主に過剰な配当をしている(搾取されている)わけでもない。
杉本記者は、東芝という特殊事例、つまり債務超過による上場廃止危機時の第三者割当増資(2017年)やその後の経済産業省を巻き込んだ経営陣とアクティビスト・ファンドとの“暗闘”を敷衍して言っているのであろう。だが、それはどこまでも東芝の腐敗した経営陣による特殊事例なのであって、日本企業が外資に支配されているだの、それが日本経済の長期低迷の原因だのと言うのは論理飛躍もはなはだしいし、腐敗した東芝経営陣と日本政府(経済産業省)を免罪することにもつながる。
「8年にも及ぶ混乱」(東芝)の起点となった「チャレンジ」と称する粉飾決算事件(2015年)から身の丈を超えるM&A(2006年)とその結果としての債務超過(2017年)、従業員による不正行為(2019年)、非上場化をめぐってのアクティビスト・ファンドとの“暗闘”(現在)は、どれも財界の一角である東芝経営陣の“腐敗”ぶりを示すものだ。もしそれを外国人株主が増えて新自由主義的経営を追求した結果というなら、日本企業全体に同じような“腐敗”がまん延しているはずである。
東芝が危機におちいった直接の要因は、子会社であった米ウェスティングハウス・エレクトリック社の倒産である。日系企業による米ウェスティングハウス・エレクトリック社買収を後押ししたのは、ほかでもない財界の代弁者たる日本政府(経済産業省)だが、東芝経営陣はこれを想定の倍以上で“高値買い”した結果、フクシマ原発事故を契機にした原発産業の危機を契機に債務超過=上場廃止危機に陥った。その危機を脱するために、国内金融機関の提案を拒否し、外資(ゴールドマン・サックス)による異例な私募という形での第三者割当増資という“毒薬”をあえて選んだのもまた東芝経営陣なのである。
(補遺)以上を書いたあと、驚いたことに6月21日の「しんぶん赤旗」に同じ杉本記者による「経済壊す強欲外資」と題する14面の全面を使った記事が出た。中身は「金融侵略 苦悩する東芝」のダイジェスト版で外資悪玉論そのままである。ここで述べたことに付け加えることはないと言いたいところだがせっかくなので、杉本記者が描く図式の元ネタを指摘しておこう。それは大幅な改定があった2004年以来変わっていない綱領の以下の部分である。
日本経済にたいするアメリカの介入は、これまでもしばしば日本政府の経済政策に誤った方向づけを与え、日本経済の危機と矛盾の大きな要因となってきた。「グローバル化(地球規模化)」の名のもとに、アメリカ式の経営モデルや経済モデルを外から強引に持ち込もうとする企ては、日本経済の前途にとって、いちだんと有害で危険なものとなっている。
杉本記者は、綱領のこの部分にそって作文しているである。
かつての帝国主義は列強の植民地をめぐるシェア争いだったのに対し、1990年代から始まった現代のグローバル化は国境を超えたグローバル企業のシェア争いだ。それは企業の会計基準や株式市場制度、金融規制の同質化とともに進行した。その過程では、金融帝国アメリカの基準が押しつけられる形でデファクトスタンダードとなったが、それもこの30年間にほぼ完成したと言ってもよいだろう。つまり上記の綱領の規定はもはや時代遅れなのである※3。統一化した金融市場では、アメリカやEU、日本、産油国などの巨大資本がそれぞれの金融市場で相互浸透している(もちろん力の差はある)。「外資」が株主になることが「支配」というならば、世界はアメリカ・EU・日本・産油国などの巨大資本によって共同「支配」されているということになろう。
※1:GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、その資産管理を信託銀行3社が受託していることを公表している。なお、その外国株式運用分は46兆4652億円ある(2022年度末)。これらは、アメリカやEUなどの企業の株式で運用されている。杉本記者の論理に従えば、この分は日系資本が海外企業を支配し搾取しているのだ。
※2:内外の年金積立金などはそれぞれの国民の資産であることを鑑みれば、機関投資家が株式保有し、場合によっては株主の権利を行使することは、バブル以前の日本企業の株式持ち合いよりも民主的と言えるかもしれない。
※3:現在の課題は、たとえば「株主資本主義」によって広がった格差などの弊害をなくすべく、(従業員、取引先、顧客、地域社会といったあらゆるステークホルダーの利益に配慮する)「ステークホルダー資本主義」の考えを広げることなどが挙げられる。国家は、もはやグローバル企業によるサプライチェーンの調整役にすぎなくなってしまったかに見えるが、新しい情報産業では、米プラットフォーマーの市場独占をめぐる規制や新たな課税方法の検討などもなお重要な国家の役割として残っている(この場合、国際協調が重要になる)。党綱領は、そういった現代的課題に対応してくための指針になるものでなければならない。
管理人(2023/6/22)