木曜日、浜スタへ行った。
就職前のささやかな楽しみである。
球場でH氏と待ち合わせ。
共に大の中日ファンのH松くんである。
レフトスタンドに陣取った。
メインの応援団とは離れたその位置に、
一人だけはっぴを着た……色白のひょろっとした男が居た。
正直、僕は声を上げてガンガン応援するのが好きではない。
野球は黙ってじっくり観たいのである。
落ち着いて、試合展開そのものを楽しみたい。
昔から、そういう思いが強いのだ。
プレイボールがかかった。
中日は先攻である。
うりざね顔の色白はっぴ青年がすくっと立ち上がる。
顔だけ見れば、おとなしいオタク系青年のように見える。
しかし先頭バッター李炳圭選手の打席から、彼は豹変する。
だみ声で口の動きも顔面体操のように大きく、
とてつもない大声で中日を応援し始めたのである。
あの細い身体のどこからこんな声が出るのだ!
しかもたった一人の応援団である。
凄まじいパワーだ。
普段の僕なら、その声がうるさすぎて、席を替えていただろう。
ここは自由席。それも可能なのである。
しかしこの夜はなぜかそう思わなかった。
ひとつは、もうすぐH松くんが到着することもあった。
彼の観戦の仕方は僕とは対極。
彼もメガホン片手に大きな声で応援するのである。
普段は感情の起伏が激しくない、冷静派の彼もである。
実はこの日、僕はH松くんスタイルで観戦してみようと密かに計画していた。
彼はタイロン(とドアラ)が好きなのである。
そのT・ウッズ選手が今季限りで退団という噂がある。
4年間ドラゴンズの四番を張った大男が、この秋に去るかもしれない。
H松くんがTに大声援を送るのも、もしかしたらこの日が最後。
だからスタイルを変えようと思った。
僕も大きな声で応援歌を唄い、メガホンを叩こうと。
応援好きでなく、メガホンすら持っていなかった僕だが、この日のためだけに買った。
試合は……予想外の展開。
中日は初回に3点先制される。
重苦しいスタートだ。
0-3のまま試合は進む。
それでも中日を応援するレフトスタンドのファンは、手を緩めない。
面白いのだ。
彼らはドラゴンズの攻撃時には立って大声援を送り、
守備の時間に変わると座って、ぴたっとおとなしくなる。
まさにオンとオフ。
見事なメリハリだ。
一人応援団の彼。
遠くに陣取る大応援団に合わせ、応援歌も完璧。
アイドルの親衛隊のようなだみ声で着実に任務をこなす。
淡々と、淡々と、無表情でそれを進めていくのだ。
そこに感情があるのかどうかも読み取れないほどのポーカーフェイスで。
まるでサイボーグ。
しかし思いは静かに届くものだ。
あのタイロンがバックスクリーンにソロホームランを放つ。
1-3。
好投の横浜・三浦投手に一矢報いた。
H松くんは幸せ者だ。
一番見たい選手の本塁打を目の前で拝むことができたのだから。
それでも試合は敗戦濃厚だった。
しかしサイボーグの彼が奇跡的なひとことを放つ。
ついに感情が芽生えた。
終盤の8回、「李炳圭さん、同点ホームランを打ってください!」
彼は……ふり絞るように心の声を発した。
しかもその可能性は限りなく低い場面で。
次の瞬間、李炳圭選手が起死回生の同点2ランを放つ。
おそるべき“応援”パワー!
まるで預言者のように、彼のひとことは次の一球の結果を見事に言い当てていた。
試合は振り出しだ。
そして延長10回。
同点弾を放った李炳圭選手が今度はライトスタンド上段に、
T・ウッズ並みのパワーで、ど派手な3ランを叩き込んだ。
結果は6-4の大逆転勝利!
10年連続50試合登板の岩瀬投手が締めた。
昨年の日本シリーズ最終戦を思い起こさせるような感動だった。
現在5割を少し越えた3位の中日がクライマックスシリーズを勝ち上がり、
日本シリーズまで制してしまったら、阪神や巨人ファンは怒るだろう。
ペナントレースの意味は何なのか!!!
そんなことを言われるかもしれない。
それでも震えが来るような試合をこの日のドラゴンズは見せてくれた。
それを演出したのは、白塗りサイボーグの彼と、2年前の優勝決定戦でT・ウッズの打棒に涙したH松くんの応援魂だったのである。
就職前のささやかな楽しみである。
球場でH氏と待ち合わせ。
共に大の中日ファンのH松くんである。
レフトスタンドに陣取った。
メインの応援団とは離れたその位置に、
一人だけはっぴを着た……色白のひょろっとした男が居た。
正直、僕は声を上げてガンガン応援するのが好きではない。
野球は黙ってじっくり観たいのである。
落ち着いて、試合展開そのものを楽しみたい。
昔から、そういう思いが強いのだ。
プレイボールがかかった。
中日は先攻である。
うりざね顔の色白はっぴ青年がすくっと立ち上がる。
顔だけ見れば、おとなしいオタク系青年のように見える。
しかし先頭バッター李炳圭選手の打席から、彼は豹変する。
だみ声で口の動きも顔面体操のように大きく、
とてつもない大声で中日を応援し始めたのである。
あの細い身体のどこからこんな声が出るのだ!
しかもたった一人の応援団である。
凄まじいパワーだ。
普段の僕なら、その声がうるさすぎて、席を替えていただろう。
ここは自由席。それも可能なのである。
しかしこの夜はなぜかそう思わなかった。
ひとつは、もうすぐH松くんが到着することもあった。
彼の観戦の仕方は僕とは対極。
彼もメガホン片手に大きな声で応援するのである。
普段は感情の起伏が激しくない、冷静派の彼もである。
実はこの日、僕はH松くんスタイルで観戦してみようと密かに計画していた。
彼はタイロン(とドアラ)が好きなのである。
そのT・ウッズ選手が今季限りで退団という噂がある。
4年間ドラゴンズの四番を張った大男が、この秋に去るかもしれない。
H松くんがTに大声援を送るのも、もしかしたらこの日が最後。
だからスタイルを変えようと思った。
僕も大きな声で応援歌を唄い、メガホンを叩こうと。
応援好きでなく、メガホンすら持っていなかった僕だが、この日のためだけに買った。
試合は……予想外の展開。
中日は初回に3点先制される。
重苦しいスタートだ。
0-3のまま試合は進む。
それでも中日を応援するレフトスタンドのファンは、手を緩めない。
面白いのだ。
彼らはドラゴンズの攻撃時には立って大声援を送り、
守備の時間に変わると座って、ぴたっとおとなしくなる。
まさにオンとオフ。
見事なメリハリだ。
一人応援団の彼。
遠くに陣取る大応援団に合わせ、応援歌も完璧。
アイドルの親衛隊のようなだみ声で着実に任務をこなす。
淡々と、淡々と、無表情でそれを進めていくのだ。
そこに感情があるのかどうかも読み取れないほどのポーカーフェイスで。
まるでサイボーグ。
しかし思いは静かに届くものだ。
あのタイロンがバックスクリーンにソロホームランを放つ。
1-3。
好投の横浜・三浦投手に一矢報いた。
H松くんは幸せ者だ。
一番見たい選手の本塁打を目の前で拝むことができたのだから。
それでも試合は敗戦濃厚だった。
しかしサイボーグの彼が奇跡的なひとことを放つ。
ついに感情が芽生えた。
終盤の8回、「李炳圭さん、同点ホームランを打ってください!」
彼は……ふり絞るように心の声を発した。
しかもその可能性は限りなく低い場面で。
次の瞬間、李炳圭選手が起死回生の同点2ランを放つ。
おそるべき“応援”パワー!
まるで預言者のように、彼のひとことは次の一球の結果を見事に言い当てていた。
試合は振り出しだ。
そして延長10回。
同点弾を放った李炳圭選手が今度はライトスタンド上段に、
T・ウッズ並みのパワーで、ど派手な3ランを叩き込んだ。
結果は6-4の大逆転勝利!
10年連続50試合登板の岩瀬投手が締めた。
昨年の日本シリーズ最終戦を思い起こさせるような感動だった。
現在5割を少し越えた3位の中日がクライマックスシリーズを勝ち上がり、
日本シリーズまで制してしまったら、阪神や巨人ファンは怒るだろう。
ペナントレースの意味は何なのか!!!
そんなことを言われるかもしれない。
それでも震えが来るような試合をこの日のドラゴンズは見せてくれた。
それを演出したのは、白塗りサイボーグの彼と、2年前の優勝決定戦でT・ウッズの打棒に涙したH松くんの応援魂だったのである。