今、もしも。

殺人ゲーム開始の鐘が鳴り響いたなら、

僕はきっと、誰よりも先に自分自身を殺すだろう。

今、自分が堪らなく嫌いだ。


きっかけは小さな別れだった。

アルバイトさんが一人辞めていった。

それをみんなで見送った。


関わった時間がすくなかった。

淡い光を持つ人だった。

中心にいる訳じゃない。

控えめな笑顔が印象に残ってる。


形式的なものになると思ってた。

違った。

浅はかな考え。


子供達は悲しんでいた。

形じゃなく心で。

彼女を中心に輪が出来ていた。


それを羨む僕がいた。

もしも、『僕だったら』それはあったのか?

僕のために悲しんでくれる子はいるのか?


対等にじゃれ合いながら、

憎まれ口をたたき合いながら、

そんな関係だから「好き」なんて言葉は誰も使わないけれど

それでも、子供達の心は手の中にあると思ってた。


揺らいだ。

ずっと、信じて心を支えていた柱が

鈍い音を立てて軋むのを感じる。


不安が迷走し、

心のあちこちに穴を開ける。

亀裂から流れ出てきた後悔が渦を巻いて足下をすくおうとする。


村上さんの小さな拒絶ともとれる言葉が

最後に僕の背中を押した。



真っ暗。

どこにも光が見えない。

今夜、何よりも一人でいることが怖い。

一度に二人以上を同時に好きになるんなんて

最低な人間だと思ってた。

自分勝手で限りなく頭が悪い。

絶対に理解できないと思っていた。


でも今は違う。

自分自身が分からない。


もちろん村上さんは好きだ。

今もこれからもそれはきっと変わらない。

彼女の笑顔を見るたび、

彼女と交わす言葉が増えるたび、

そこに「幸福」の存在を感じる。

そばにいたいと思う。

「さよなら」が悲しくなる。

その気持ちが膨らむことはあっても

決して薄れることはない。


だけど、「彼女だけ」じゃない。

笑ってほしい人がいる。

そばにいたいと思う人がいる。

抱きしめたいと思う人がいる。


順番なんてつけられない。

「等量に好き」だなんて言うつもりはないけれど

どちらもたまらなく好きなんだ。

何に変えても失いたくないと思う。

矛盾してるのは分かっている。

でも、どちらを欠いても、生きて生けない。


たった一つの大切なもののためにがむしゃらに突っ走ることが出来ればどれほどに楽だろう。


世界中の人間に聞きたい。

何をもって『愛』だという?

何を基準にたった一つを選ぶんだ?


規格外の愛を切り捨てることでしか一つを残せないなら、

その一つは本当に自分にとっての『一番』だと言えるのか?

誤解だった。

彼女の隣に見えた男の影。


病気だったんだ。

ずっと抱えていたものが、

また少しずつ進行を始めて

彼女の体をむしばんでいた。

知っていたのに。


突然の電話で会えない日が続く不安がそう見えた。

いいわけにもならない。


ずっと見ていたはずだったのに、

何も見えていなかった・

勝手な幻想を押しつけて、

思い通りにならない現実に勝手に「裏切られた」と幻滅する。


自分の馬鹿さ加減に、呆れを通り越して死にたくなる。

それでもまだ、彼女のそばにいたいと思うんだから、

きっとこの苦しみから救われることなんて無いだろう。