母の箪笥の着物を
広げてあらためながら、
私は妹に1枚1枚
その来歴を
説明しました。


「わぁ〜、
懐かしい…❗おねがい


これはおじいちゃんが
叙勲した時、
おばあちゃんが
宮中参内で着た
色留袖よ❤」とか、

「◯子の結婚式の時
おばあちゃんが着ていた
松の黒留袖だ…。びっくり

ママ、
この黒留袖だけは
私に預けないで手元に
取って置いたんだね…。」などと、

私はしみじみと
着物にまつわる様々な記憶を
鮮やかに思い出しては
妹に熱をこめて
話すのですが、

着物に全然興味も
思い入れもない妹は、

「へぇ〜。」
「知らなかった。」と
気のない返事を
するばかりなのです。


私は妹の様子を見て
途中でハッとして、

「ねぇ、
◯子、

今私が話してること、
絶対覚える気ないでしょ。えー」と
言うと、

「…ていうか、

私着物に正直、
全然興味ないし、

覚えていられる
自信はない。」と
妹は言いました。


そこで私は
妹が何も覚えていなくても
姪っ子に
母と祖母の着物の来歴を
ちゃんと伝えられるように、

筆ペンを出してきて
畳紙に着物の説明を
1枚1枚詳しく
書く事にしました。


母が2人に受け継ごうとして
最後まで手元に
取って置いた着物を、

妹や姪っ子が
きちんと大切に
受け継いでくれるように。


だって、

もう2度と私は、

この母の箪笥には
触れる事も開ける事も
出来ないかも
しれないのですから。


私の人生で
今日が見納めかもしれない、

たまらなく懐かしい
祖母と母の着物を
1枚1枚
広げながら、

見覚えのある母の字で
「母(=私達の祖母)
色留袖」などと
畳紙に書いてある横に、

私は自分の字で
「おじいちゃん叙勲の際
おばあちゃんが宮中参内で着た
色留袖」と熱を込めて
書き添えていきました。


もしかすると、

私が一生懸命
妹に言い聞かせようとして、

通じなくて終いには
畳紙に頑張って
書いている、

これらの事を母は
妹の夢の中で
一生懸命妹に
言っていたのかなぁ…と
思いながら。


ママ、

私、

この箪笥の中の着物を
受け継ぐ事は
出来なかったけれど、

ママが◯子達に
伝えたかった事は、
ちゃんとかわりに
伝えたからね。


だからどうか
安心してね。