「父と私達に起こった
一連のことは
あまりにも異常な
出来事だったから、

その頃の私達は
ちゃんと受け止める事が
出来なかった。


天災とか空襲とか
通り魔とかみたいに、

起こった事が
あまりに重大過ぎて
失ったものが
あまりにも
計り知れないから、

うまく飲み込む事が
誰も出来なかったの。


父の親戚と
すったもんだしてる時も
父がいなくなっても、

こんなに異常な事が
起こっているのに、

その間ずっと
母は仕事に行ったし
私達は学校に行かないと
いけなくて、

日常の生活は
普通に続いてた。


父が亡くなった後も
葬儀が終われば
母は次の日から
仕事を再開するし、

私は大学があって
妹は高校があって、

普通の毎日が
すぐに戻って来た。


毎日授業があって部活があって
宿題があって
バイトにも行って、

最初はみんなに
大丈夫❔って
心配されたけど、

大丈夫だよ、
ありがとうって言って、

後は普段通り
笑って話してた。


本当は全然
大丈夫なんかじゃなくて、

突然叫び出したいくらい
胸をかきむしりたいくらい
誰か助けて下さいって
泣き喚きたいくらい、

苦しくて
悲しくて
ぐちゃぐちゃに感情が
渦巻いていたけど、

もちろんそんな事は
一度もしなかった。


助けてくれる人も
助けてくれる場所も
ずっとどこにも
なかったから。


父の事は家族の間でも
何年もお互い
話題にしなかった。


まるで最初から
なかった事みたいに
新しい家で
新しい暮らしに
没頭してた。


でももし、

話を聞くよって
誰かに優しく
言われたとしても、

言うことは
多分出来なかった。


あの頃は日々の生活を
こなすだけで
精一杯だったし、

ちょっとでも
口を開けば
水風船みたいに
パーン❗って
自分の中身が
全部弾けて、

自分が壊れてしまってたと
思うから。


治すには
傷が深すぎたし
総括も出来なかったから
まずは父の記憶を封印して
逃げるしかなかった。


だから父と
父にまつわる思い出は
楽しかった事も
辛かった事も
箱の中に押し込めて
奥深くにしまって、

思い出さない
ようにして、

それで何年も
私達家族みんな
やり過ごしてきたの。」