火葬場に着くと

母の棺は

火葬場の方々によって

黒いバンから運び出され、


台車に載せられましたが

「入口」には入らず、


追いついた他の家族が

駐車場に車を停めて

全員揃うまで、


そのままその場所で

待機しました。



私は「出口」は

ないのだな…と

思いました。



私は白木の位牌を

胸に抱えて、


母の棺と並んで

しばらくぼんやりと

1人で立って、


みんなを待っていました。



アレッ、

前もこんな体験を

したことがあるなぁ…と

私は考えて、


父が亡くなった時のことを

ふいに思い出しました。



あの日もとても

寒い日でした。



あの時母は

今まさに私が着ている

着物の喪服を着て、


今の私みたいに

父の白木の位牌を

胸に抱えていました。



私は父が入る予定の

骨壺の入った箱を

胸に抱えて、


妹は父の遺影を抱えて、


送迎用のバンから

親戚が降りて来るのを

父の棺と一緒に

3人で待っていました。



私達はみんな

ぼんやり立っていました。



私は大学の期末試験中

父が亡くなったという

連絡を受けて

慌てて帰省して、


急いで喪服を着て

棺の中の父と

対面したと思ったら、


やっぱりあの時も

黒いバンで、


山の上にある火葬場に

(母や親戚は

「焼き場」と言っていました)

父の棺と一緒に乗って、


やっぱり木枯らしが

ビュービューと

吹きさらす場所に

家族で並んで

立っていました。



家族がこうして揃うのは

これが最後なんだな…。



何がどうして

ここにいるのか、


これから父はどうなって

どこへ行くのか、


残された私達は

全然事態が呑み込めずに、


お仕着せの服を着せられて

いきなり小道具を持たされて

役を与えられた

でくの棒みたいに、


初めて立つ舞台の上に

呆然として

突っ立っていました。



私は

さみしがりやで

怖がりだった

棺の中の母に、


「みんな来るから

怖くないからね。


もう少し待っててね。」と

声をかけて、

みんなを出迎えました。



母の体と

並んで立つのは

これが最後だと

思いながら。



母の遺影は上の妹が、


母の骨壺の入った箱は

下の妹が持って、


もうすぐ追いつきます。