東北からやって来た夫の母を
ふるさとの駅まで
夫と私で迎えに行った後、

お通夜までは
まだかなり時間があるので
私達は遅いお昼を食べに
駅ビルに向かおうということに
なりました。


話は変わりますが、
夫の母の髪は
若い頃からほぼ白髪です。
夫も母親に似て
若い頃からかなりの白髪です。


夫の父はこれも体質で
いつまでも髪が黒かった為、
夫の父母は昔は度々人から
親子と間違えられていました。


(実は私と夫も
夫の若白髪の為に
親子と間違えられます)


その為夫の母は
ある時からずっと髪を黒く
染めていました。


夫の父が退職してすぐ
夫の母は毛染めをやめました。
今は綺麗な総白髪を
ベリーショートにして、
さらに髪が薄くなって来て
地肌が透けるのを気にして
ずっとパーマをかけています。


そんな夫の母の見た目は
今は中村メイコさんに
とてもよく似ています。


駅で夫の母を見た瞬間
夫の顔が一瞬
苦しそうに歪むのを
私は目の端で見ました。


けれど、
夫はすぐに平静を取り戻して
ひとしきりの挨拶の後
夫の母の荷物を持って
「それじゃあ行こうか。」と
歩き始めました。


私は夫の母と
並んで歩きながら、

普段なら明るくお喋りを
始めるのですが、

「お母さん、
お葬式に毛皮を着て行くのは
マナー違反ですよ。」と
夫の母にズバッと
率直に言いました。


「そうなんだけど、
東北は雪が降って
寒かったのよぅ…。」と
夫の母は答えました。


夫の母が着ていたのは
黒のオスのミンクの
ロングコートでした。


ベリーショートの
パンチパーマの効いた白髪の
中村メイコさん似の母が
それを着ている様子は
片田舎の駅舎には場違いで、

ナニワ金融道に出てくる
社長さんのようでした。


メスのミンクの毛は
毛足が柔らかくて
ふんわり見えます。
オスのミンクは
メスよりも毛が硬い為
ちょっと毛羽が立って
バサついて見えます。
オスとメスとでは
着心地も値段も
全然違います。


私は毛皮が怖くて嫌いなので
持っていませんが、
私の母が両方持っていて
見分け方を指南してくれたので
違いがわかりました。


(ちなみに私の母は
「今どき毛皮なんて流行らない」という
母らしい理由で、
ログハウスを出る時
オフハウスにミンクのコートを
全部売りました。
一枚五千円だったそうです。)


長年のつきあいの中で
夫の母がミンクのコートを着ているのを
私達は一度も見た事が
ありません。


私が大学を出て
大手証券会社に就職した時
夫の母に中国ファンドを
買ってもらって以来、
私が退職した後も
夫の母はその証券会社で
ずっと株を運用していて
自分の自由になるお金が
潤沢にあるようです。


特にここ何年かは
運用がうまくいっているようで
夫の母に会う度
新しい宝石をつけているのに
気づいていましたが、
自分の裁量でやっている事で
全く私達はそのことは
気にしていません。


私が気にするのは
叔母やいとこ達が
夫や父を悼む心を
華美な服装で傷つけないか、
その事だけでした。


夫の母は最近買った
ミンクの黒のロングコートを
どこかに着て行きたいだけだと
思いましたので、

さらに私は
「寒くても、
お葬式には毛皮を着ていったら
駄目なんですよ。
ここは関東で
今日はあったかいと
予報が出ていたじゃ
ありませんか。」と
言いました。


夫の母は
「そうなんだけど、
朝寒かったから
出る時『寒いな〜』と思って
着てきちゃったのよぅ…。」と言い、

私達は歩きながら
同じ問答を何度か
繰り返しました。


母の格好を見ていながら
車で駅まで送った夫の妹にも
私は腹が立ちましたが、
夫の妹もいつも変な格好で来るので
気にならなかったのでしょう。


すると、夫が
「車で来ているんだから
葬儀場に着いたら
みんなでコートを脱いで入れば
いいじゃないか。」と
言ったので、

私は
「そうね…。
そうしましょう。」と言って
お店まで歩きました。


夫の母はとりなすように
私に話しかけるのですが、

私は心底うんざりしていて
はかばかしい返事を
しなかったので、

夫の母は救いを求めるように
前を歩く夫に追いついて
2人で並んで
歩き始めました。


2人を後ろから見て初めて
私は夫の母が
よりによって青色の
ヒールの高い新しいブーツを
履いている事に気づき、
愕然としました。ガーン


「ブーツは脱がせられない…。
あぁ、
どうしよう…。」と私が
泣きたい気持ちで
後ろをとぼとぼ歩いていると
目当てのお店に着きました。


お店で夫の母が
コートを脱いだ時、

夫の母の格好を見て
もうこれ以上驚く事なんて
ないと思っていたのに、

私はさらに衝撃を受けて
急に怒りが湧いて、
お腹が熱くなってきました。ムキー


書くのがキツいです…。アセアセ
けれど、
続きます。