妹は、
婚家を出るまで
婚家の愚痴を
一切私達に言うことはありませんでした。


妹いわく、
家族に心配をかけたくなかったのと、

「夫に洗脳されていて、
おかしいと思うような事でも、
ずっと夫に責められていたので、
いつのまにか、
自分の方がおかしいのだと思うようになっていた」
とのことです。


三人目の妊娠を機に、
上の妹が婚家の隣に引っ越す際、

ちょっとおかしいな、
と思うような事はありました。


妹の前の夫が、
両親が若夫婦の家を建てるに当たり、
母のところに
ご挨拶に来たい、という事がありました。

あらたまって、
スーツを着てやってきた
妹の前の夫は、

「新しく家を建てるにあたり、
お母さんから、
桐の箪笥を一棹納めてもらいたい」
と切り出したそうです。


なんでも、
新居の御披露目には
近所の人がたくさんやって来て、
家の中を見て回ったり、
お嫁さんの箪笥の中を勝手に開けて見てもいいという風習があるとかで、

「○子(妹の名前)は結婚のときに、
桐の箪笥を納めていない。
御披露目までには納めて下さい。」
という申し入れだったそうです。


上の妹が、横でぽつぽつと話すには、
結婚してから、
嫁入り道具の中に桐の箪笥がなかったことを、
度々夫と、
夫の両親に咎められていたそうです。

妹は、母にはそんなお金はないからと、
再三頼んだにもかかわらず、
夫は譲らずに、
桐の箪笥の事を頼みに来たそうなのです。


びっくりした母は、
私と下の妹の所に連絡してきました。


上の妹の婚家は専業農家で、
妹の夫は長男でしたが、
本家という訳ではなく、
また大きい農家でもなく、

プロポーズの際には夫から、
「自分はサラリーマンで転勤族だから、
一切農家の仕事はしなくていい」
と言われたので、
妹は結婚を決めたとの話でした。

(その話を聞いた時、
私は、
そうは言ってもそんなのは所詮夫婦の口約束で、
ご両親が高齢になれば、
妹も手伝わざるを得なくなるだろう、
と内心では思っていました。)


(ちなみに私の結婚の時は、
結納も結納返しもしない代わりに、
夫の両親が花嫁道具を全部買って納める、という方式でした。
私は購入にも立ち会っておらず、
夫の両親が見立てて官舎に運び込んだので、
私の好みも聞かれませんでした。

クローゼットや鏡台はともかく、
カーテンや家電やカーペットは
「新婚だから」という謎の理由で
全部ピンクで統一されたため、
紺とか茶色とかが好きで、
ピンクの服や小物を一つも持っていない私は、官舎に初めて入った時は、
かなりびっくりしました。

しかし同級生の誰よりも結婚が早く、
こだわりもなかったので、
「家の中なんて誰も見ないしなー」
と私は気にしませんでした。

母は内心色々と思ったらしいのですが、
私が気にしていないので、
口に出すことはありませんでした。
ちなみに、家財道具の中に、
桐の箪笥はありませんでした。

私の友達が遊びに来たときは
家がピンクまみれで恥ずかしいので、
いきさつを面白おかしく話して、
笑いを取ったものです。

家電はそのうち壊れ、すべて買い替えました。
家を購入して引っ越す時に、
カーテン等は好みに合わせて買い替えました。)


下の妹の結婚のときは、
やはり、
結納金で嫁入り道具を揃えました。

下の妹の婚家は兼業農家で、
上の妹の婚家とは近所でしたが、
桐の箪笥や御披露目の風習は、
結婚前も後も、
聞いたことがないとのことでした。


母は妹の婚家に怒っていました。

「嫁入り道具は、
買いに行った先でお店の人にも相談して、
きちんと一揃い購入した。

クローゼットは、
桐の箪笥と俗に言う見た目ではないが、
内部には桐製の着物用の引き出しもあって、
着物も収納されている。

現代のインテリアに合うような、
一般的な嫁入り道具のクローゼットで、
新たに買い直せと言われる筋合いはない。

また桐箪笥を買うお金もないので、
この話は断りたい」というのが、
母の言い分でした。


私と下の妹は、母をなだめました。

「言うことはもっともだけれど、
結納のお金で嫁入り道具を揃えるのであれば、
相手の意向も確認して揃えれば、
このような行き違いもなかったのではないか。

このままでは、○子はずっと
当てこすりを言われ続けてしまう。

これから新居で隣同士、
同居に近い暮らしを始めるのであれば、
箪笥ひとつで仲がまるく納まるなら、
納めてはどうか」と。

幸い、母には
祖父と祖母から受け継いだ箪笥と、
自分の箪笥と、
古いものですが、
全部で桐の箪笥が六棹あったのです。


その中で品質と状態の一番いいものを、
鉋で綺麗に削り、
新品同様にして納めました。

(その時、桐の箪笥は、
そのようにメンテナンスすれば、
代々引き継いでいけるものだということを、
私は初めて知りました。

また、母はその時、
上の妹にだけでは
他の子達がかわいそうだからと、
鉋で綺麗に削ったりはしなかったけれど、
私と下の妹に、桐の箪笥を一棹ずつ、
譲ってくれました。)


結局御披露目はしたのかしなかったのか、
着物や箪笥を見られて、
皆に何と言われたのか、
私達は聞く機会がありませんでした。

上の妹は、半年もたたずに
相手のご両親が建てた家を、
飛び出したのでした。