第1部⑤日常の崩壊
「何よこれ」
リビングに入ると、姉はすでに母さんを睨みつけてそう喚いていた。
俺は妹の横で立ち止まる。妹は静かに腕を組んで、姉を見つめている。
母さんが小さくため息をつくと、
「香菜がした事でしょう?何を今更言っているのかしら」
机の上に置かれたスマホの画面には、姉の行動の証拠が、パッと分かるように並んでいる。
無言で並べられたスクリーンショットや写真。
姉は一瞬顔をこわばらせ、俺の隣で妹が小さく息をつく。
「……これ……どういうつもりよ」
姉は手を震わせて画面を見つめている。
でも、妹はじっと落ち着いた目で姉を見ている。その目は、揺れない。
俺はそこでハッとした。
妹の視線、そして雰囲気が少しいつもと違う。
「ちょっとだけ……ね」
妹がそうつぶやくと、姉の目が揺れた瞬間に――ふっと力が抜ける。
俺は思わず後ずさる。姉の目が少しずつ閉じていく。
「……え?」
俺の声が小さく漏れた。
姉はソファにゆっくり沈むように座り込む。
動かない。完全に眠っている。
妹は俺の横で小さく頷いた。
「安心して、目は覚めるから」
俺は肩をすくめる。いや、こんな冷静に見てていいのか、と少し動揺する。
妹は静かに口を開いて話し始めた。
「香奈には恋人がいます。ですが香菜は凶暴です。」
俺は思わず口をつぐむ。妹は手短に、でもはっきり言った。
「このままでは香菜も生き遅れになりますし、私達も限界です。今の恋人と結婚して、今すぐにでもこの家を出ていって貰いましょう」
俺は椅子に座って息をつく。
妹の言葉は棘があり、極端で、でも圧倒的に反論出来る隙がない。
姉は眠っているので反論できない。
母さんは、
「…その方が良さそうね。」と、
どこか疲れたかのように言った。
俺は妹を見た。
妹は静かに立ち上がった。
「これで、悠真も安心して生活できるでしょ」
俺は小さく頷いた。
やっと……少し平穏が戻りそうだと、胸の奥で感じた。
姉が眠るリビングで、妹は静かに次の行動を計画しているようだった。
俺はその横で、ただ静かに見守るしかなかった。
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