第1部 主人公の日常②

この道は、毎日通っているはずなのに、たまにやけに長く感じる。

別に遠いわけじゃない。

歩けば二十分くらい。

ただ、学校に近づくほど、少しだけ足取りが重くなる。

……まあ、考えても仕方ない。

俺は歩く速度を少しだけ上げた。

しばらくして、校門が見えてくる。

生徒達がぞろぞろ入っていく中に紛れて、俺も中へ入った。

校舎の中はもう賑やかだった。

友達同士で話している声。

机を引く音。

誰かが笑う声。

俺はそれを横目で見ながら、階段を上がる。

二階。廊下の一番奥。俺の教室だ。

ドアを開ける。

「おはよー」

「昨日のゲームさー」

そんな声が飛び交う中、俺は窓際の後ろにある自分の席へ向かう。

鞄を机に置いた、その瞬間だった。

「おーい、悠馬ぁ」

横から声がかかる。

見るまでもない。

声の主は分かっている。

クラスの入り口の方から、のそっと一人の男子が近づいてきた。

高い背。

がっしりした体。

名前は

久我(くが)

クラスでも有名な、面倒な奴だ。

「朝からシケた面してやんの」

久我はニヤニヤしながら言う。

俺は肩をすくめた。

「いつもそうだろ」

「へぇ?」

久我は俺の肩に腕を回した。

嫌な予感しかしない。

「お前いつからそんな口聞けるほど偉くなった?」

その瞬間。

ぐいっと体が引っ張られる。

「おっと」

次の瞬間、俺の体はくるっと回されて――
ドン。

背中が床についた。

「うわっ!」

教室の誰かが笑う。

久我がやったのは、いわゆるプロレス技だった。

腕を取られて、体をひっくり返される。

「ちげぇだろ?お前が1番に言う言葉あんだろ」

久我が腕をねじる。

さっき火傷した腕とは反対側だけど、それでも痛い。

「……口には気を付ける」

「ふーん」

久我は腕を離した。

俺はゆっくり起き上がる。

肘のあたりが少しヒリヒリした。

見ると、擦れて小さく血が出ている。

……あーあ。

久我はつまらなそうに鼻を鳴らす。

「つまんねー奴」

そう言って、自分の席へ戻っていった。

教室はまたいつもの騒がしさに戻る。

俺は鞄を開け、ポケットの中から、

妹にもらった絆創膏を取り出す。

さっき入れておいたやつだ。

血が出ているところに絆創膏を貼った。

腕を軽く動かしてみたが、特に支障はなさそうだ。

……まあ、大丈夫か。と椅子に座った。

その時。

ガラッ。

教室のドアが開いた。

「はい、席につけー」

担任の先生が入ってくる。

一瞬で、教室の空気が変わる。

みんな慌てて席に戻る。

久我も面倒そうに椅子に座った。

先生は教卓に立ち、出席簿をぱらぱらめくる。

俺は前を向いて座り直した。

腕の絆創膏が、少しだけ引っ張られる。

……ホームルームか。

先生が出席簿を閉じる。

「よし、じゃあホームルーム始めるぞ」

教室が静かになった。

窓から朝の光が教室に差し込んでいる。

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