昨年、スティーヴ・ライヒの初の本格的な邦訳対談集『スティーヴ・ライヒ対談集』(左右社)が出版され、それを夢中になって読み進めています。
打楽器の歴史、そして現代のマリンバアンサンブルを語る上で、ライヒの存在は絶対に外せません。彼の緻密な音楽構造や「削ぎ落としの哲学」に改めて脳内を刺激されながら、marimba.tokyo サイトの解説記事を大幅にアップデートしました。
その作業の中で、彼の偉大な「名曲年表」を時系列で整理していたときのことです。
ふと、ある「空白」に目が留まりました。

年表に浮かび上がった「23年の時差」
ライヒが打楽器アンサンブルの金字塔であり、現代打楽器の原典となった傑作《Drumming(ドラミング)》を発表したのは1971年。
一方で、私たちが本当によく演奏する、2台のマリンバのための日本委嘱作品《Nagoya Marimbas(ナゴヤ・マリンバ)》が作曲されたのは1994年です。
その間、実に23年。
「あれ? アメリカでこれだけミニマリズムや打楽器アンサンブルが盛り上がっていたのに、日本のマリンバ文化と接続されるまで、なぜこんなに時間がかかったんだろう? 日本のマリンバの発展って、もしかして遅かったのかな?」
一見すると、そんな疑問が湧いてくるタイムラインです。
でも、じっくりとその歴史の構造を紐解いていくと、全く逆の、最高にエキサイティングな事実が見えてきました。
日本の発展が遅かったのでは決してありません。むしろ両者は、同じ「打楽器」という領域にいながら、まったく異なる課題を解いていました。
日本はマリンバをソロ楽器として成熟させることに成功し、アメリカは打楽器アンサンブルの構造そのものを成熟させていったのです。
「全く異なる2つの最高峰の進化系統が、お互いに完璧な熟成を終えて、ようやく出会った奇跡の年」が1994年。
日本:世界最速でマリンバの「ソロ楽器」としての表現力を極める
安倍圭子先生らを中心に、それまでオーケストラの「伴奏・色づけ」だったマリンバを、「ソロ楽器」として自立させる革命が起きていました。5オクターブの大型マリンバを開発し、圧倒的な「個の技巧」と、楽器が持つ豊かな倍音の響きを限界まで研ぎ澄ましていた時代です。

アメリカ:集団のアンサンブル構造を極める
ライヒたちは、ロマン派的な過剰な感情表現や、一人の独奏者を際立たせる古い音楽観を嫌いました。要素をスリムに削ぎ落とし、複数の人間が正確なパルス(脈拍)を刻むことで生まれる「堅牢なアンサンブルのシステム」を構築することにリソースを集中させていました。
一方は「個の表現力の極致」、
もう一方は「集団の構造美の極致」。
求める方向が美しく真逆だったからこそ、1970〜80年代の彼らは、お互いの熟成を待つ必要があったのです。
1994年、名古屋での邂逅
そして1994年、名古屋のしらかわホール開館記念という舞台で、この2つの歴史がカチッと接続されます。それが《Nagoya Marimbas》です。
この作品は、ライヒらしい厳格なミニマリズムの構造(フェイジング)を持っています。
しかし、実際に演奏してみると分かりますが、日本が世界に誇る「マリンバという楽器の豊かな倍音・響き」と、2人の奏者の「高度な身体的・技巧的な絡み合い」がなければ、絶対に音楽として成立しない構造になっているのです。
ただ機械的に叩くだけでは、あの素晴らしい音楽にはならない。
日本が育て上げたマリンバの美学と、ライヒのシステムが、完璧なタイミングで融合した瞬間でした。
歴史の系譜は、さらに21世紀の「静けさ」へ
さらに面白いのは、このライヒの堅牢な構造を受け継ぎながら、現代の21世紀の音楽へと劇的にアップデートしている作曲家たちがいることです。
その代表格が、デイヴィッド・ラング。
彼もまた、打楽器アンサンブルの地形を変えた一人ですが、ライヒが数学的な構造そのものを聴かせようとしたのに対し、ラングは同じ反復を扱いながらも「演奏者の呼吸や個性が介入する余白」をデザインしました。

marimba.tokyo では、このライヒの哲学と、バトンを受け継いだラングの美学、精度を上げたそれぞれの名曲年表を、打楽器奏者の視点からかなり深く掘り下げて解説しています。
ラング本人がライヒに直接語った、「私のあの曲は、《Drumming》の楽器配列をかなり意識して作った」という、新著から紐解いた生々しい舞台裏のエピソードなども肉付けして公開しました。
音楽の歴史が一本の美しい線で繋がっていく感覚は、本当にワクワクします。
お時間のあるときに、ぜひじっくりと読んでみてください!
詳しくはこちらからどうぞ。
▶️ スティーヴ・ライヒとは?
現代打楽器音楽を変えたミニマリズムの作曲家
https://marimba.tokyo/articles/steve-reich.html
▶️ デイヴィッド・ラングとは?
静けさと反復で現代音楽を更新した作曲家
https://marimba.tokyo/articles/david-lang.html
▶️ 日本現代マリンバ音楽の発展
作曲されながら進化したマリンバ史
https://marimba.tokyo/articles/history-of-marimba-music.html
打楽器の歴史、そして現代のマリンバアンサンブルを語る上で、ライヒの存在は絶対に外せません。彼の緻密な音楽構造や「削ぎ落としの哲学」に改めて脳内を刺激されながら、marimba.tokyo サイトの解説記事を大幅にアップデートしました。
その作業の中で、彼の偉大な「名曲年表」を時系列で整理していたときのことです。
ふと、ある「空白」に目が留まりました。

年表に浮かび上がった「23年の時差」
ライヒが打楽器アンサンブルの金字塔であり、現代打楽器の原典となった傑作《Drumming(ドラミング)》を発表したのは1971年。
一方で、私たちが本当によく演奏する、2台のマリンバのための日本委嘱作品《Nagoya Marimbas(ナゴヤ・マリンバ)》が作曲されたのは1994年です。
その間、実に23年。
「あれ? アメリカでこれだけミニマリズムや打楽器アンサンブルが盛り上がっていたのに、日本のマリンバ文化と接続されるまで、なぜこんなに時間がかかったんだろう? 日本のマリンバの発展って、もしかして遅かったのかな?」
一見すると、そんな疑問が湧いてくるタイムラインです。
でも、じっくりとその歴史の構造を紐解いていくと、全く逆の、最高にエキサイティングな事実が見えてきました。
日本の発展が遅かったのでは決してありません。むしろ両者は、同じ「打楽器」という領域にいながら、まったく異なる課題を解いていました。
日本はマリンバをソロ楽器として成熟させることに成功し、アメリカは打楽器アンサンブルの構造そのものを成熟させていったのです。
「全く異なる2つの最高峰の進化系統が、お互いに完璧な熟成を終えて、ようやく出会った奇跡の年」が1994年。
日本:世界最速でマリンバの「ソロ楽器」としての表現力を極める
安倍圭子先生らを中心に、それまでオーケストラの「伴奏・色づけ」だったマリンバを、「ソロ楽器」として自立させる革命が起きていました。5オクターブの大型マリンバを開発し、圧倒的な「個の技巧」と、楽器が持つ豊かな倍音の響きを限界まで研ぎ澄ましていた時代です。

アメリカ:集団のアンサンブル構造を極める
ライヒたちは、ロマン派的な過剰な感情表現や、一人の独奏者を際立たせる古い音楽観を嫌いました。要素をスリムに削ぎ落とし、複数の人間が正確なパルス(脈拍)を刻むことで生まれる「堅牢なアンサンブルのシステム」を構築することにリソースを集中させていました。
一方は「個の表現力の極致」、
もう一方は「集団の構造美の極致」。
求める方向が美しく真逆だったからこそ、1970〜80年代の彼らは、お互いの熟成を待つ必要があったのです。
1994年、名古屋での邂逅
そして1994年、名古屋のしらかわホール開館記念という舞台で、この2つの歴史がカチッと接続されます。それが《Nagoya Marimbas》です。
この作品は、ライヒらしい厳格なミニマリズムの構造(フェイジング)を持っています。
しかし、実際に演奏してみると分かりますが、日本が世界に誇る「マリンバという楽器の豊かな倍音・響き」と、2人の奏者の「高度な身体的・技巧的な絡み合い」がなければ、絶対に音楽として成立しない構造になっているのです。
ただ機械的に叩くだけでは、あの素晴らしい音楽にはならない。
日本が育て上げたマリンバの美学と、ライヒのシステムが、完璧なタイミングで融合した瞬間でした。
歴史の系譜は、さらに21世紀の「静けさ」へ
さらに面白いのは、このライヒの堅牢な構造を受け継ぎながら、現代の21世紀の音楽へと劇的にアップデートしている作曲家たちがいることです。
その代表格が、デイヴィッド・ラング。
彼もまた、打楽器アンサンブルの地形を変えた一人ですが、ライヒが数学的な構造そのものを聴かせようとしたのに対し、ラングは同じ反復を扱いながらも「演奏者の呼吸や個性が介入する余白」をデザインしました。

marimba.tokyo では、このライヒの哲学と、バトンを受け継いだラングの美学、精度を上げたそれぞれの名曲年表を、打楽器奏者の視点からかなり深く掘り下げて解説しています。
ラング本人がライヒに直接語った、「私のあの曲は、《Drumming》の楽器配列をかなり意識して作った」という、新著から紐解いた生々しい舞台裏のエピソードなども肉付けして公開しました。
音楽の歴史が一本の美しい線で繋がっていく感覚は、本当にワクワクします。
お時間のあるときに、ぜひじっくりと読んでみてください!
詳しくはこちらからどうぞ。
▶️ スティーヴ・ライヒとは?
現代打楽器音楽を変えたミニマリズムの作曲家
https://marimba.tokyo/articles/steve-reich.html
▶️ デイヴィッド・ラングとは?
静けさと反復で現代音楽を更新した作曲家
https://marimba.tokyo/articles/david-lang.html
▶️ 日本現代マリンバ音楽の発展
作曲されながら進化したマリンバ史
https://marimba.tokyo/articles/history-of-marimba-music.html