「食虫植物ウツボカズラ」-8(アリにトリデまで提供する)
 
生き物同士が共に助け合う共生の関係が見られる「ビカルカラータ」に、山口さんが引かれる最大の理由です。
 
この日も「シュミッツィー」がツボの中から獲物を引き上げています。
硬い体を細かくしながら食べています。しばらくすると2匹のアリが近づいてきて何かを始めました。
仲間に食べ物を分けているのです。食べ物をお腹に収めるとツボから出ていきました。
巣穴に戻っていきます。そして、サナギから返った赤ちゃんに食べ物を与えています。
 
「シュミッツィー」が他の場所に食べ物を探しに行く報告例はありません。
驚くことはウツボカズラの周りだけで生涯を過ごします。
 
ある日近くに黒いアリの群れが現れました。どう猛な肉食のヒメサスライアリです。
大軍を作って狩りをすることで知られています。出会ったものを片っ端から襲っていく恐ろしいアリです。
「シュミッツィー」の近くに現れたのは群れの一部、偵察隊のようです。
気配を察したのか「シュミッツィー」の姿が消えました。
「シュミッツィー」が向かったのはこの部分。フチが内側に折り返されていて空間がある場所です。
逆光を受けてたくさんの影が見えます。
ツボの中の「シュミッツィー」は、みんなこの部分に避難していました。
そのままやり過ごすと思ったら、お腹を壁にたたきつけて、仲間に警戒音を発しています。
ヒメサスライアリたちは、フチまで登ってきました。
ウツボカズラは「シュミッツィー」に獲物と住まいを提供するだけでなく、
いざというときに、トリデにもなっていたんです。お互いに支え合うアリとウツボカズラ。
その結びつきの強さを改めて感じました。

 

「食虫植物ウツボカズラ」-7(アリの大活躍で元気で長生き)
 
「ビカルカラータ」に「シュミッツィー」より5倍も大きなアリがやってきました。
しきりにミツをなめとっています。あっ!、足を滑らせてツボの中に落ちてしまいました。
アリだけではありません。ツボには次々に獲物がかかっています。
獲物は死ぬと底の方へ沈んでいきます。「シュミッツィー」はこれを待っているのです。
底まで潜ると沈んでいた獲物を引っ張り上げます。
他の「シュミッツィー」も集まってきて力を合わせます。これがアリたちの獲物です。
「シュミッツィー」がウツボカズラで泳ぐのは、罠にかかった獲物を食べるためなのです。
 
「これでは泥棒ではないですか。横取りされたウツボカズラは大丈夫なんですか?。」
「大丈夫なんです。」
「なんで?。」
 
こちらは2012年に発表された論文で、アリが棲んでいるウツボカズラの方が、
長生きすると記されているんです。アリは獲物を食べると、食べ残しやフンをツボの中に落とします。
これがウツボカズラにとって好都合で、昆虫の硬い体を消化するのは大変です。
少しくらいアリに食べられても、消化吸収しやすくしてくれる方がずっと有利だからです。
 
さらにウツボカズラの中に棲んでいる厄介者にも関係があります。蚊の幼虫ボウフラです。
ウツボカズラの中にはたくさんのボウフラが棲んでいるのです。
「アリがボウフラを追いかけていますね。あっ!、捕まえた。」
アリはボウフラが大好物。得意の泳ぎの能力を生かしてボウフラをつかまえます。
これはウツボカズラにとってはとてもありがたいことなのです。
ボウフラは消化液の栄養分を食べて育ち、本来ウツボカズラが吸収するはずのものを、
横取りしているんです。しかも取るだけ取ると飛んで行ってしまいます。
 
「ボウフラこそ泥棒ということ?」
 
その通り。そんなボウフラを退治してくれるアリは、ウツボカズラにとってたのもしい存在です。
アリが棲むと元気で長生きできるのもうなずけます。

 

「食虫植物ウツボカズラ」-6(ウツボカズラに巣をつくるアリ)
 
ボルネオの山で撮影を続けていた山口さんですが、今回1番撮影したかったウツボカズラがありました。
 
「ありました、ありました、これです。これは若い奴です。嬉しい。」
 
15センチほどの緑のツボ「ビカルカラータ」です。とはいっても特に変わったところは見当たりません。
どうしてこれが山口さんの1番なのでしょうか。
実は「ビカルカラータ」には、他にはない特徴があります。それがこの穴です。
ほとんどのツボの茎に穴が開いています。一体なんでしょうか。あっ!、アリです。
小さな穴からアリが次から次へ出てきました。
アリの名前は「シュミッツィー」。体長はわずか5ミリ、米粒ほどの大きさです。
世界でもここボルネオでしか見つかっていません。
この「シュミッツィー」は、「ビカルカラータ」の中に巣を作って棲んでいるのです。
中には茎に沿って15センチほどの巣穴ができています。白っぽく見えるにはサナギです。
一つの巣穴にはおよそ20匹が暮らしています。
 
1匹が巣穴から出てきました。ツボの方へ歩いて行きます。
あっ!、危ない。ツルツルする方のフチを歩き、見えなくなってしまいました。
中をのぞくと水面にアリがいます。でもおぼれている様子はありません。
それどころか泳いでいるようにも見えます。
 
アリの観察をするために山口さんは、内視鏡レンズを使ってアリに大接近できます。
確かにアリは泳いでいます。水面をスイスイと泳いでいて、
すぐにおぼれてしまう他のアリとはだいぶ違います。よく見ると前足で水をかき、後ろ足はバタ足。
まるでクロールです。さらに見ていると何と潜っていきました。
「シュミッツィー」がなぜ溺れないのか、詳しいことは分かっていませんが、
一説には、他のアリとは呼吸穴の構造が違うのではないかと考えられています。
 
でも「シュミッツィー」は、ウツボカズラの中でなぜ泳ぐのでしょうか。
その理由は、観察を続けていると分かりました。