「放棄地の復活」-5(里山を見直す)
 
豊かな生物多様性を育んできた環境として見直されているのが里山です。
里山は少し前まで日本全国にありました。人間は水、食べ物、冬の暖房など、
生きるすべてを里山から得ていました。生活にはきれいな水が必要です。
水源を確保するため、水をきれいにするために欠かせないのが森や林を大切に守ることでした。
食べ物を安定して収穫するために、水田や畑を作り農業を営んできました。
水の温度を上げるために水路を作って田んぼに水を引き込んだり、溜池を作りました。
畑の土壌をよくするために、雑木林の落ち葉を利用して肥料を作りました。
雑木林の木は薪として燃料に使うなど、生活の様々なところで利用されました。
そのためクヌギやコナラなど、伐採してもすぐ生えてくるように手入れしました。
定期的に木を切って新しい木を植えるために、雑木林はいつも太陽の光が入り、
春にはカタクリやスミレなどの植物が花を咲かせました。草地の草は、馬や牛の家畜のエサにとなり、
畑の肥料にもなりました。また屋根の材料としても使われました。
 
このように元々あった自然環境を計画的に育てながら、自然の一部を利用することで、
循環するシステムを作っていったのです。
それは持続可能な生態系の利用であり、自然と共に生きようとする知恵でもありました。
 
里山という小さなエリアに人間が手を入れることで、
さまざまな環境が生まれ豊かな生物多様性が培われました。人間の生態系の一部だったのです。
しかし、昭和30年頃から石油や石炭といった化石燃料が主流となり、薪を燃料に使わなくなりました。
化学肥料が導入され、落ち葉や下草を使わなくなりました。
雑木林は手入れをされなくなり、それまで暮らしてきた生き物がいない、
光の届かない場所になっていきました。泥深くて作業効率が悪かったり、
担い手の高齢化が進んだ田んぼは放棄されるようになりました。
人手が加わらなくなった田んぼは、あっという間に雑草が生い茂って荒れ野に代わっていきました。
当然のようにそれまで暮らしていた生き物たちはいなくなりました。

 

「放棄地の復活」-4(絶滅危惧種を作り出すもの)
 
繁殖場所がなくて困っているのはアカガエルだけではありません。
以前はどこにもいたメダカも、今や絶滅危惧種に指定されています。
 
「あ、これは絶滅危惧種のサンショウモです。サンショウの葉っぱに似ていることから名づけられました。
  この田んぼにはたくさんあるんですよ。」
 
これはタコノアシと呼ばれる田んぼの雑草です。まるでタコの足のように赤く紅葉しています。
これも準絶滅危惧署に指定されています。環境省が指定するレッドデータブックで、
日本における野生生物の絶滅が心配される種のリストです。
表紙にある写真はレブンアツモリソウで、自然に生える場所はたった一ヵ所で北海道の礼文島だけです。
 
その他にもコウリンカ、トラキチラン、セツブンソウ、ミズアオイなどもあり、
むかしは雑草だったものが、土地の開発や園芸用採取、田畑の農薬や除草剤散布、水路のコンクリート化、
田んぼそのものの減少など、さまざまな要因で絶滅が危惧されています。
長い地球史において、これほどたくさんの種とスピードで、絶滅の危機に瀕していると指摘されています。
絶滅のスピードが速まった原因は、乱獲、過剰な採取、開発による生息環境の悪化や破壊、
里地里山の手入れ不足、外来種による生態系のかく乱、地球温暖化による環境変化など、
人間の活動による大きな影響が問題視されています。生物多様性の保全は、世界的なテーマになっています。
2010年、第10回条約国会議コップ10の開催地は日本でした。
 
「生命が誕生して約38憶年といわれていますが、その間に大きな絶滅の歴史というのが、
  いくつかあったのですが、今日ほど絶滅の速さはなかったと考えられています。
  生命というのは、絶妙なバランスで維持されているわけで、その原因がわからないといわれていますが、
  分からない以上、その損失のスピードを落としていくことが、
  特に生物多様性条約の中で叫ばなければならないポイントだといわれています。」

 

「放棄地の復活」-3(田んぼとニホンアカガエル)
 
田んぼの中で卵からオタマジャクシへと成長するカエルの仲間は、田んぼだけではなく、
もっと広いエリヤを使って暮らしています。
 
「生き物たちは、この田んぼと湿地と草地などを多面的に使ってエサを獲り隠れたり
  繁殖したりしています。これをモザイク的というんですが、
  いろいろな環境があることが生き物たちにとって条件なんです。しかも水がある。」
 
1月末から2月にかけて、また冬の寒い時期、ニホンアカガエルは、
一時的に冬眠から覚めて田んぼに産卵します。雨が降って少し気温が上がった夜、
田んぼを観察するとお腹が大きくなったメスや、それを呼び寄せようと鳴くオスの姿が見られます。
数匹のオスがメスを取り合っている姿も…。
 
「本によりますと、この時期一時的に冬眠から覚めて田んぼで産卵して山に戻り、
  また冬眠すると書かれていますが、しかしよく観察すると、どうも山から出てくるというよりも
  田んぼの中に潜っているか、あるいは畔の中に潜んでいるような感じがします。」
 
いよいよ産卵です。1匹のメスは500~2000個の卵を産みます。メスの背中に乗ったオスは、
まるで産卵を助けるようなしぐさをします。アカガエルが冬に産卵するのは、
天敵が現れないうちに小さなオタマジャクシの時代を過ごしてしまうためだと考えられています。
しかし、かつては多く田んぼにいたアカガエルは、今や絶滅危惧種に指定されています。
 
「環境が残っていれば、いなくなるような性質のものではないんです。
  今は田んぼのつくり方、お米のつくり方が変わって、冬は乾田化といって水を落としてしまい、
  田んぼを米づくりの工場みたいにコントロールされています。
  必要な時だけ水を入れてお米を作りますから、冬に卵を産まなければならないアカガエルは、
  卵の産む場所もないといった状態です。生き物にとっては絶えず水がある田んぼがいいですね。
  水が常時ある田んぼが、アカガエルにとっては必要なんです。」