中国外交、紛争の仲介者としての存在感 ウクライナ、ミャンマー、パレスチナでも | 碧空

中国外交、紛争の仲介者としての存在感 ウクライナ、ミャンマー、パレスチナでも

(握手するウクライナのクレバ外相(左)と中国の王毅外相=24日、中国広東省広州市【725日 産経】)

 

【ウクライナ外相の訪中 欧米の支援先細りが懸念されるなかで、プーチンが耳をかす相手は習近平だけ】

先ず、727日ブログ“ウクライナ 「あと1か月半ほどで形勢変化」 停戦交渉を左右する米大統領選挙”でも取り上げた、ウクライナ外相の中国訪問。

 

****ウクライナ外相が中国訪問 ロシア侵略後初 王氏と停戦などを協議****

中国の王毅共産党政治局員兼外相は24日、訪中したウクライナのクレバ外相と南部の広東省広州で会談し、ロシアのウクライナ侵略を巡る停戦などについて協議した。侵略開始以降、ロシア寄りの立場を示す中国へのウクライナの高官の訪問は初めて。

 

中国外務省は中国がクレバ氏を招いたとしている。中国国営中央テレビ(電子版)によると、王氏は会談で、停戦などに向け「建設的役割を引き続き果たしたい」と表明。「ウクライナとロシアは最近、程度は異なるが協議を望むシグナルを発している。条件や時機はまだ熟していないが、平和に有益な努力を支持する」との強調した。

 

中国は5月、ウクライナ危機の政治解決を謳(うた)う独自案をブラジルと発表し、ウクライナとロシアの同意を得た国際和平会議の開催などを提案。王氏は同案について「国際社会の最大公約数を凝縮し、広範な賛同と支持を得た」と主張した。

 

ウクライナ外務省の発表によると、クレバ氏はロシアとの交渉には「ロシアが誠意を持って臨む用意」ができた際にウクライナも応じるとの姿勢を表明。現時点ではロシアにその準備がないと強調した。

 

クレバ氏は、ウクライナ主導の和平案協議のために6月に開いた「世界平和サミット」についても説明。中国はサミットを欠席している。

 

ウクライナを巡っては、11月の米大統領選で返り咲きを目指すトランプ前大統領が和平を目指す考えを示している。中国側はそうした動きの中で影響力を高めておこうとの思惑があるとみられる。ウクライナ側も国内で厭戦(えんせん)機運が高まりつつあることも踏まえ、中国との関係を保ち、将来の交渉でのウクライナの立場を強める考えとみられる。【724日 産経】

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****パリ五輪と米大統領選の影で「ウ中接近」が進む理由****

人目をひくイベントの最中でも、国際情勢は常に動き続けている。

 

ウクライナ外相 異例の訪中

米大統領選挙にカマラ・ハリスが正式に立候補したのと同じ723日、ウクライナのドミトロ・クレバ外務大臣が中国を訪問した。4日間の中国滞在を終え、ウクライナに帰国したのはパリ五輪が開幕した26日だった。

 

世界的に注目されるイベントの狭間で、クレバ訪中はほとんど注目されなかったものの、かなり大きな意味をもつ。ロシアによる侵攻が始まって以来、ウクライナ外務大臣の中国訪問はこれが初めてだからだ。

 

中国とロシアは昨年“無制限の協力”に合意した。これを警戒するアメリカは「中国がロシアに軍事転用可能な民生品などを供給している」と主張している。

 

中国はこれを否定しているが、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は今年6月、スイスで開催された支援国会合で「中国がロシアを支援している」「支援国会合に出席しないよう多くの国に圧力をかけている」と名指しで批判した。

 

それから約1ヵ月後に中国で王毅外相と会談したクレバ外相は「ウクライナの平和は中国にとっての戦略的利益であり、大国としての中国の役割は平和にとって重要と確信している」と述べた。

 

欧米の“フェードアウト”への警戒

今なぜウクライナ政府は中国へのアプローチを強めているのか。

その最大の要因は、6月から7月にかけて、欧米のウクライナ支援が今後ますます減少する見込みが大きくなったことにあるとみてよい。

 

このうちアメリカは、国別でいえば最大の支援国であるものの、2023年後半から支援の遅れが目立ってきた。ウクライナ支援に消極的な共和党が過半数を握る議会下院が、ジョー・バイデン大統領にブレーキをかけてきたのだ。

 

ウクライナ側の懸念をさらに強めさせた転機は、6月末のバイデンとドナルド・トランプの討論会だろう。(中略)“コスト意識の高い”トランプが大統領選挙で勝てば、ウクライナ向け援助は激減すると見込まれる。

 

ウクライナ戦争に関してトランプは「自分が大統領になれば1日で終わらせる」と述べているが、それはもちろん「米軍が全面的に展開してロシアを追い払う」といった意味ではなく、「支援を停止してでもウクライナに停戦交渉をさせる」という暗示だろう。(中略)

 

パリ五輪で“一時封印”された政治危機

アメリカだけでなくヨーロッパ各国でもウクライナ支援の継続に消極的な世論が広がっている。パリ五輪が開催されているフランスは、その典型だ。

 

五輪開催直前の7月初旬に行われたフランス議会選挙では、左派政党の連合体"新人民戦線"と極右政党"国民連合"が大幅に議席を増やした。

 

その後フランスはパリ五輪に忙殺され、大統領と議会の対立は一時棚上げにされた。しかし、五輪が終わって熱狂が覚めれば、マクロンは再びウクライナ支援に否定的な世論の突き上げに直面することになる。

 

フランスが反ウクライナ侵攻の拠点でなくなれば、その影響はヨーロッパ全土に及ぶと想定される。つまり、ウクライナからみてヨーロッパもこれまで通りの支援を期待しにくい。

 

中国の立場と利益

もっとも、“ロシアと手を組む中国に停戦の仲介なんかできるはずがない”という意見もあるだろう。もちろん、中国はアメリカをはじめ先進国とは立場が異なる。

 

ただし、ウクライナ政府が強調したように、黒海沿岸で戦闘が続くことが中国の「一帯一路」構想にとって妨げになることは確かだ。

 

さらに、一般にいわれているほど、中ロの“無制限の協力”は無制限ではない。実際、中国はどさくさに紛れてロシアの“裏庭”中央アジアへの進出を加速させている。

 

ウクライナ戦争に関していうと、中国は公式には中立を標榜していて、ウクライナとの取引も多い。今年5月だけでも中国-ウクライナ貿易額は85000万ドルを超え、前月のアメリカ-ウクライナ貿易額の約1億8000万ドルを大きく上回った(ウクライナは中国の「一帯一路」構想に参加している)。

 

さらに中国は今年4月にはウクライナ停戦交渉のための6項目からなる提案をブラジルと共同で発表している。

 

その一方で、今やプーチンが耳をかす相手は習近平だけだろう。

クレバ外相との会談後、王毅外相はメディアに対して「ウクライナは今や中国に“仲介者”としての役割を期待している」と述べた。これは暗に「アメリカでもロシアでもなく中国こそ世界の安全に責任を果たす大国」とアピールしたかったとみてよい。

 

焦点は"国土の不可分"

ただし、実際にロシアに働きかけられるのが中国だけとしても、中国が仲介役をこなせるかは話が別だ。

その最大のハードルは2014年以降にロシアによって編入されたクリミア半島、東部のドネツクやルハンスクの取り扱いにある。

 

これらの土地はロシアによる実効支配のもとで住民投票が行われ、"独立"が多数を占めた。住民自身がロシア編入を望んだのだから、すでにウクライナ領ではない、というのがロシアの立場だ。ロシアは2022年以降、しばしばウクライナに停戦交渉を呼びかけてきたが、この一点を譲る様子はない。

 

これに対して、ウクライナ側は住民投票自体が違法と主張しており、ロシアの実効支配からこれらの土地を奪還したい。だからこそ、ウクライナは停戦交渉そのものに難色を示してきたのだ。

 

ウクライナとロシアの停戦交渉が実現しても、この問題が最大の難所になると予想される。先進国はウクライナの言い分を支持しており、スイスの支援国会合でも“国土の不可分”が強調された。

 

ところが、中国はクリミア半島やドネツクのロシア編入を支持していないものの、ブラジルと共同発表した停戦交渉に関する提案では、この問題について触れていない。

 

その一つの理由は、中国の外交方針にあるとみてよい。

1971年の国連総会で「中華人民共和国が国連における中国代表権をもつ」と決議されたとき、それを支持したのはほとんどが途上国だった。このように冷戦時代から中国は、新興国・途上国に国際的な足場を求めてきた。

 

アメリカなど先進国の呼びかけにも関わらず、新興国・途上国の多くはロシア制裁に消極的だが、そのほとんどはロシアの軍事活動や編入を支持しているわけではない。だからこそ、中国にしてみれば、新興国・途上国で受け入れられにくい部分でまでロシアに付き合うことのリスクは大きい。

 

かといって、中国がロシアに「ウクライナに土地を返せ」といえるかは疑問だ。とすると、たとえ中国が仲介役になっても、ウクライナとロシアの停戦協議がスムーズにいくとは限らない。

 

それでも停戦協議をスタートさせられる条件が最も揃っているのが中国であることも確かだ。そのこと自体、“徹底抗戦”を後押ししてきたアメリカはじめ先進国にとっては都合が悪いことなのである。【730日 六辻彰二氏 Newsweek

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今年4月中国がブラジルと共同で発表した6項目提案にしても、今回のウクライナ外相の訪中会談にしても、中国が停戦に向けて懸案事項に関する具体策を示している訳でなく、あくまでも総論的なレベルにとどまってはいます。

ただ、形式的には“中立”を主張しつつ、“プーチンが耳をかす相手は習近平だけ”という状況が“仲介者”としての中国の存在感を高めています。

 

【ミャンマー要人の「中国詣で」 中国は総選挙実施で安定政権樹立を目指す】

“耳をかす相手は習近平だけ”という点では、欧米から制裁を受けるミャンマー軍事政権も同じでしょう。

 

****ミャンマー要人「中国詣で」 軍政、治安や経済支援促す****

軍事政権下のミャンマー要人による中国訪問が相次いでいる。この1カ月で軍政序列2位の高官や外相、主要政党代表のほか、テインセイン元大統領も派遣された。

 

治安や経済分野で中国の支援を促す。中国も物流の重要経路としてミャンマーへの関与を深める。

ミャンマーの主要4政党の代表が27日までおよそ1週間、中国共産党の招きで訪中した。(後略)【729日 日経

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テインセイン元大統領・・・軍事政権ではありながら、その後のスー・チー政権につながる民主化、そして、経済発展の基盤をつくる「善政」を行った軍人政治家です。個人的には、民主化の象徴たるスー・チー氏以上に、その手腕・実績を評価しています。(軍幹部ですから、軍へのコントロールも効きます)

 

ミャンマーでは今月末には非常事態宣言が再び期限を迎えます、憲法では、宣言解除から6カ月以内に総選挙を実施すると定めています。それを受けて、軍事政権は総選挙実施の基礎となる国政調査を10月に行おうとしています

 

しかし、少数民族武装勢力及び民主派武装勢力との戦闘が続いている現状から、非常事態制限解除そして総選挙の実施は困難で、また延期されるのではと見る向きが多いようです。

 

そうした中で、中国は総選挙実施を後押ししています。

シンガポールのテレビ局CNAは消息筋の話として、中国外交トップ王毅共産党政治局員兼外相はミャンマー国軍がまず政権を手放し、選挙実施に向けた暫定政権をつくるよう、ミンアウンフライン司令官の説得を訪中したテインセイン元大統領に要請した、と報じています。

 

少数民族武装勢力ともつながりを持つ中国は、軍事政権とも同時につながりを持っています。

中国にとっては、投資や貿易の拡大のためにも、また中国本土からインド洋へアクセスを可能とする「一帯一路」の要としても、ミャンマーの安定を重視しています。

 

そのために、国軍が影響力を持つ前提で、暫定政権(テインセイン元大統領も参加か?)による選挙によって正統性がある政権を発足させることを狙っていると想像されます。

 

国軍を支えつつ、その他の勢力への影響力も維持しながら情勢安定を促すというのが中国の方向性のようです。

 

【パレスチナ各組織が北京で協議 ファタハ・ハマスの対立をおさめて「統一政府樹立」で合意】

ガザ地区での戦闘が続き、更にヒズボラとイスラエルの本格的戦闘も懸念されるパレスチナ情勢に関しても中国の存在が注目されています。

 

パレスチナの停戦・安定にとってパレスチナ自治政府の役割が不可欠ですが、そのパレスチナ自治政府がファタハとハマスの対立で長年機能麻痺状態にあることが、パレスチナ問題にとって大きな課題になっています。

 

そのパレスチナ内部の対立を中国が仲介してとりまとめ、「統一政府」を樹立することで合意したとか。現段階では方向性での合意のレベルに過ぎず、難しいのは今後の具体策ではありますが。

 

****パレスチナ各組織、統一政府樹立で合意 北京で会談=中国メディア****

パレスチナのイスラム組織ハマスや自治政府主流派ファタハなど複数の組織が23日、分断を終結させ統一政府を発足させることで合意した。中国国営メディアが伝えた。

中国国営中央テレビ(CCTV)によると、各組織は2123日の日程で北京で和解に向け会談。閉会式で団結を強化する「北京宣言」に署名した。

ハマス幹部のフサム・バドラン氏は、宣言の最も重要な点はパレスチナ統一政府を樹立し、パレスチナ人の問題を管理することだと述べた。

中国国際テレビ(CGTN)はソーシャルメディアへの投稿で、対立するハマスとファタハの指導者を含むパレスチナの14の組織はメディアとも会談し、中国の王毅外相も同席したと伝えた。

バドラン氏は声明で、会議を主催し宣言の署名に導いた中国の取り組みを称賛した。
「われわれの市民が特にガザ地区で大量虐殺戦争に直面している重要な時期にこの宣言が行われた」と指摘。「(この合意は)パレスチナ統一の達成に向けたさらなる前向きな一歩だ」と述べた。

統一政府がガザとヨルダン川西岸地区のパレスチナ人の問題を管理し、復興を監督し、選挙の条件を整えると表明した。

「これは戦後のパレスチナ情勢を管理する上で、パレスチナ人の利益に反する現実を押し付けようとするあらゆる地域的・国際的な介入に対する強力な防壁となる」とした。

ハマスとファタハは和解に向けて今年4月に中国の仲介で北京で会談していた。【723日 ロイター

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イスラエルはこの動きを批判しています。

 

****イスラエル、中国仲介のパレスチナ「和解政府」計画を非難****

パレスチナ諸派が中国の仲介によって23日、イスラム組織ハマスを含める「民族和解政府」を樹立して統治する方向で合意したことについて、イスラエルは即日、これを非難した。

 

イスラエルのイスラエル・カッツ外相は「ハマスによる統治は粉砕されるだろう」と述べ、「北京宣言」に合意した主流派ファタハを率いるパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長がハマスを受け入れたと非難した。

 

イスラエルおよび、ハマスをテロ組織と見なしている米国は、紛争終結後のパレスチナ自治区ガザ地区の統治にハマスが関与することは、断じて認めない姿勢を貫いている。

 

訪米中のイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ハマスを排除するまでガザでの戦闘を継続すると明言した。

 

中国は23日、ハマスの幹部ムサ・アブマルズク氏やファタハの特使マフムード・アロウル氏ら、14のパレスチナ諸派の代表を北京に招き、和解と合意を仲介した。

 

ハマス政治局幹部のホッサム・バドラン氏は今回の中国の関与について、米国の影響力に対抗する手段と位置付けた。その上で、米国は偏見によって「パレスチナ内部の民族的合意」に反対すると同時に、「われわれパレスチナ人に対する占領という犯罪」に加担していると非難した。

 

北京宣言では、「パレスチナ諸派の合意による暫定的な民族統一政府」が、ガザ地区およびヨルダン川西岸、イスラエルが併合した東エルサレムを含む「すべてのパレスチナ領に権限を行使する」計画の概要がまとめられている。 【724日 AFP

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ハマスとファタハは長年対立し、過去にも「和解」を約束しましたが実現していません。そのため今回の北京宣言に関しても、その実効性は不透明と見られています。

 

ただ、ハマス、ファタハを含むパレスチナの14の組織が中国・北京で会談し、中国が仲介・主導するというのが非常に興味深いところ。

 

ウクライナやミャンマー同様に、水面下で多方面とパイプを持ちつつ、アメリカのように紛争当事者の一方に肩入れすることなく表向きは紛争に中立的姿勢をアピール、結果的に仲介者としての立場が強化されるという中国外交の成果・・・というか、それを可能にしている中国の存在感の高まりを感じます。

 

習近平国家主席があちこち飛び回るのではなく、紛争地域当事者が「北京詣で」するあたりが中国の存在感です。