韓国  リチウム電池工場の火災に見る外国人労働へ「危険の外注化」 少子化で外国人労働者受入れに | 碧空

韓国  リチウム電池工場の火災に見る外国人労働へ「危険の外注化」 少子化で外国人労働者受入れに

(外国人労働者が過酷な住環境に置かれていることを伝えるKBSニュース【59日 NHK】)

 

【外国人労働へ「危険の外注化」】

24日、韓国ソウル近郊で23人が死亡するリチウム電池工場の火災がありましたが、その犠牲者の多くが日雇い外国人労働者でした。

 

背景には外国人労働の存在が大きくなる韓国経済、その一方で外国人労働へ「危険の外注化」するような実態が指摘されています。

 

そしてそのことは、同じような流れにある日本にも言えることでしょう。

 

****韓国、外国人労働に「危険外注」 工場火災、少子化も背景****

韓国ソウル近郊、京畿道華城市のリチウム電池工場の火災で、死亡した23人のうち18人が中国とラオスの国籍だったことが29日までに分かった。

 

少子化が進む中、尹錫悦政権は労働力不足解消へ外国人の受け入れを急ぐが、労働環境が劣悪な職場も多く「危険の外注化」(韓国紙)を懸念する声が上がる。

 

「故・16番」「故・21番」。華城市の葬儀場では氏名に代え、遺体発見順の番号が掲示されていた。郷里を遠く離れ親族による身元確認が容易でない日雇い外国人労働者の境遇を物語った。

 

24日午前、工場2階で保管中の電池が火を吹き、他の電池に引火し一気に炎上した。日雇いの外国人たちが、逃げ遅れた可能性も報じられている。

 

韓国は昨年の出生率が世界最低水準の0.72に。働き手の中心となる1564歳の生産年齢人口は2019年をピークに減り始め、政府予測では50年後に半減する。

 

政府は製造業などに限って外国人の単純労働を認める「雇用許可制」で人材を募り、昨年の外国人労働者は全就業者の3%を占める約92万人となった。【629日 共同

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火災を起こした電池メーカーと人材派遣会社の間では責任のなすりつけ合いのような状況もあり、派遣法上「違法派遣」である可能性が指摘されています。

 

****「顔も知らずに送った」韓国の工場火災で死亡した外国人労働者「違法派遣」の可能性****

京畿道華城市(ファソンシ)の工場火災惨事の犠牲者のうち18人が移住労働者であったことが明らかになった中、移住労働者のほとんどは一次電池メーカー「アリセル」の所属ではなく「メイセル」という会社に所属して働いていたことが確認された。また、彼らの雇用関係は「違法派遣」だとみられる。

 

メイセルの関係者は25日のハンギョレの電話取材に対し、「我々は派遣手数料のみを受け取って人夫(労働者)を派遣しており、(労働者に)作業を指示したこともなく、労働者の顔も知らない」と述べた。メイセルは爆発事故が発生したアリセルの工場の第32階に所在し、「一次電池製造」などを事業目的としている会社だ。

 

これは元請け会社のアリセルの説明と相反する。アリセルのパク・スングァン代表取締役とパク・チュンオン本部長はこの日の記者会見で、亡くなった移住労働者について「人材供給業者から供給された派遣職」だと述べたかと思えば、「請負(業者に所属する労働者)」だと述べるなど、見解が右往左往している。また、移住労働者に対する業務指示は「派遣業者がおこなっていた」とも述べている。

 

しかしメイセルの関係者は、「アリセルに入ることもできず、盆正月に会社の幹部たちから贈り物をもらう時以外は行くこともない」とし、「派遣業者が現場の労働者に業務指示をしていたというのはうそ」だと反論した。

 

そして「携帯電話のショートメッセージで通勤バスの乗車位置を案内し、その後、アリセルに到着したらアリセルの管理者に引率されて働く。それがすべて」だとし、「アリセルから何人か送ってくれと言われれば送り、業務が未熟だということで交換してくれと言われれば交換していた」と述べた。

 

メイセル関係者の主張どおりなら、メイセルとアリセルは派遣事業主と使用事業主の関係に当たる。メイセルは移住労働者をアリセルに派遣し、派遣労働者はアリセルの指揮・監督に従って働いていたのだ。しかし製造業の生産工程は、「派遣勤労者の保護などに関する法律」が認める派遣業種ではないうえ、メイセルは勤労者派遣事業許可を受けておらず、派遣法上「違法派遣」である可能性がある。

 

メイセルは外国人求人・求職ポータルに求人公告を出しており、移住労働者を日雇いのかたちでアリセルに派遣してきたという。仕事に応じて流動的に人材を用いることがアリセルの目的だったとみられる。しかしメイセルは、派遣した移住労働者を労災保険にも加入させていなかった。(後略)【626日 ハンギョレ

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【低・中熟練外国人労働者受入れに向けて動く韓国、台湾、そして日本】

こうした危険な作業を外国人労働者に行わせる労働実態は、「国が消滅する」という厳しい少子化、またいわゆる3K業務を嫌う若者の現状を反映したものですが、その多くは日本ともダブります。

 

****韓国、台湾における低・中熟練外国人労働者受入れ拡大の潮流****

日本では、2023年、外国人技能実習制度の見直しや特定技能2号の対象分野拡大など、低・中熟練外国人労働者受入れに向けた動きがあった。

 

海外に目を向けると、日本と同じく少子高齢化・労働力不足に直面する韓国・台湾でも日本と同様の動きがみられている。(中略)

 

【要旨】

日本・韓国・台湾の経済水準等の比較

1人あたりGDPをみると、長年日本が韓国、台湾を大きく引き離していたが、近年急速に差が縮まり、2023年時点では3か国とも33,000USドル前後で、日本の経済的優位性はほとんどなくなった。

 

低・中熟練外国人労働者の平均月給のデータをみると、韓国>日本>台湾の順になっている。

 

韓国の動き

低熟練外国人労働者を受け入れる一般雇用許可制(在留資格:非専門就業(E-9))の年間受入れ上限はここ数年拡大傾向にあり、2024年は過去最大の16.5万人を予定している。

 

一般雇用許可制について、202324年にかけて、対象業種の拡大、家事労働者の試験的導入、派遣形態の許容、留学生からE-9への変更許可などに取り組むとされる。特に、制度開始以来、製造業や建設業など5業種に限定・堅持してきた対象業種を拡大し、飲食店などサービス業で受入れが認められることは大きな変更点である。

 

中熟練外国人労働者について、「熟練技能人材」点数制度の見直し(20239月)、及び、年間受入れ上限の大幅拡大(過去最大の35,000人、2023年)や、「準熟練人材」受入れルートの新設(検討中)の動きがみられる。

 

従来、韓国では外国人労働者の受入れにあたり、中長期的な育成の観点が制度的にほぼみられなかったが、「段階的な在留資格昇級システムを推進する」という政府の掛け声のもと、中熟練人材の確保に向けて、国内外で育成・訓練に注力することが目指されている点は、特に注目される。(後略)【117日 加藤真氏 三菱UFJリサーチ&コンサルティング

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日本では614日、“外国人労働者の技能実習制度にかわり、新たに育成就労制度を設けることを柱とする改正出入国管理法などが、参議院本会議で賛成多数で可決・成立しました。

新しい制度では、労働力として外国人材に向き合い、労働者としての人権を守るとしています。
有識者は「世界的に人材獲得競争が厳しくなる中で、日本が選ばれる国になるかどうかの試金石になる」としています。”【614日 NHK

 

日本の育成就労制度については、また別機会に。

 

【「このままでは国家消滅の運命は避けられない」 危機感を背景に進む外国人労働者受入れ】

韓国の移民対策の場合は、前述のように「このままでは国家消滅の運命は避けられない」という危機感があります。

 

****韓国は「移民国家」に向かうのか 人口減少対策で検討に本腰****

「このままでは国家消滅の運命は避けられない」

韓国政府の閣僚は急速に進む少子化への危機感をこう表現しました。韓国政府は少子化対策だけでは人口減少に対応しきれないとして、外国人の受け入れ拡大に向けた体制の整備を進めようとしています。

韓国は「移民国家」に向かうのか。現状を取材しました。

国がなくなってしまう

「移民政策を取り入れるかどうかについて悩む時期はすでに過ぎ去った。取り入れなければ国家消滅の運命は避けられない」 202312月、韓国のハン・ドンフン(韓東勲)法相(当時)の演説です。

 

これまでとっていた外国人の受け入れ政策をさらに拡大していく方針を「移民政策」という言葉を使って強調しました。

省庁ごとに別々に実施している在留外国人向けの政策や出入国管理などを「出入国移民管理庁」(移民庁)の創設で一元的に統括することが必要だと述べています。

韓国で1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標となる合計特殊出生率は2023年に「0.72」で、過去最低を更新。ハン氏は予測される人口減少を「人口災害」とも表現しました。

韓国政府は少子化対策の法律を2005年に制定し、日本円にして30兆円を超える予算を少子化対策に投じてきました。無償保育や児童手当、育児休暇に伴う給付金制度などを相次いで打ち出しましたが、少子化に歯止めがかかっていません。

 

若者の厳しい就職事情、しれつな受験競争に伴う過度な教育費負担、韓国で結婚の際に必要とされるマンションの価格高騰など、さまざまな要因が複雑に絡み合った結果、結婚しない、結婚しても子どもを持たない選択をする人たちが増えていることが背景にあると指摘されています。

 

高まる存在感

韓国はこれまでにも労働力として外国人の受け入れを拡大してきました。

首都ソウルから南西に電車で1時間半ほどの距離にあるアンサン(安山)。工業団地があり、人手不足解消のために長年労働者として外国人の受け入れが進められてきました。20243月末時点で市内に住む外国人は9万人余り。人口比にして13%を占めています。割合としては自治体のなかで最も高い水準です。

 

市の中心部にある駅前の通りは「多文化飲食通り」と呼ばれ、主にアジア各国から働きに来ている外国人たちが大勢行き来しています。中国語やインドネシア語、アラビア語などの看板が並び、アジア各国の料理店も数多く軒を連ねています。取材に訪れたのは日曜日で、仕事が休みの外国人たちが青果店や衣料販売店などで買い物をしていました。

 

通りの商店主に話を聞くと、外国人の存在感は消費の面でも大きいといいます。

 

青果店の韓国人店主 「ここは外国の食材も多くそろえているので、週末になると市内だけではなく周辺地域からも外国人のお客さんが来て食料品などをまとめて買っていきます。韓国全体の人口が減少するなかで、外国人の消費は地域の活性化につながっていると思います」

 

韓国で外国人は総人口の4.4%(2022年)を占めています。その10年前では2.8%だったことを踏まえると、外国人の受け入れを増やしてきたことがわかります。(統計の取り方が日本と同じではないため単純な比較はできませんが、日本は20231月時点で2.3%です)

 

増加の一途

韓国はかつて外国に出稼ぎ労働者を送り出す国でしたが、経済成長に伴って所得水準の向上や産業構造の変化が進み、1990年代になると若者が3K(きつい・汚い・危険)のイメージが強い仕事を避けるなどして雇用のミスマッチが目立つようになっていきます。(韓国では日本の3Kにあたる言葉としてDifficultDirtyDangerousの頭文字をとった“3D”という言い方があります)

 

韓国政府は、農業や製造業などの人手不足に対応しようと1990年代、当時の日本の技能実習制度をモデルにした「産業技術研修生制度」を導入します。しかし、悪質なブローカーが仲介したり、労働者としての法的な保護がないまま賃金の未払いや研修生の失踪が相次いだりして社会問題化しました。

これを受けて韓国政府は2004年に制度を大きく転換します。 外国人を「研修生」ではなく法的に「労働者」として扱い、外国人の雇用を希望する企業に政府が許可を与える「雇用許可制」をスタート。

 

この制度では韓国政府が人材を送り出す国と覚え書きを結びます。出入国を政府が一元的に管理することで悪質ブローカーの排除を図り、国際機関からも評価を受ける制度となりました。

その後、政府は一定の要件を満たせば在留期間を延長するなどの措置を進めてきました。韓国の在留外国人は、コロナ禍の時期を除いて増加の一途をたどっています。(中略)

 

政策議論が必要

韓国の外国人受け入れの状況をどのように捉えればいいのか。在留外国人政策に詳しい韓国行政研究院のチョン・ドンジェ(鄭東宰)研究委員に話を聞きました。

 

チョン研究委員は自治体の対応については、アンサン市のように現実的に外国人労働力への依存度が高い一部地域で支援体制が充実しているとしながらも、大半の自治体はそうした体制が整っておらず対応にばらつきが大きいとしています。

 

チョン研究委員
「(外国人をめぐって地域住民が強い反発を示す)テグの件では、間違った情報(ヘイト表現)が発せられたときに、その情報について何が間違っているのかを行政機関が明確に指摘し、それが広がらないように是正することが必要でしたが、それがなされなかったことが最も大きな問題だと思います。その点において地方行政と政府の役割が必要だと思いますが、それが見えていません」

 

その上で、異なる習慣や文化を尊重する取り組みを政策として強化する必要性を指摘します。

「韓国政府の外国人移住者にかかわる政策は、基本的には外国人を社会に統合する対象と見ていて、韓国社会への同化の側面が強いと言えます。つまり、韓国語がうまく話せ、韓国文化をよく理解し、いい韓国人にならなければならないという考え方に基づいています。外国人は韓国にとってどのような対象なのか、彼らとどう共存するかについて、政治の場で積極的な議論が必要です」

 

山積する課題

韓国国民の間では外国人受け入れ拡大についての慎重論は根強くあります。

韓国政府が202311月に公表した世論調査の結果では、人口減少対策として「移民政策」を推進することに「同意しない」と答えた人は60.6%で、「同意する」の39.4%を上回りました。

こうした国民世論を意識したかのように、202312月、ハン・ドンフン法相(当時)は「移民庁」創設の必要性を述べた演説のなかで「われわれが現在推進しようとする移民政策は、外国人にただちに永住権や国籍を付与したり、外国人を無条件にたくさん受け入れたりしようとするものではない。社会に必要な外国人だけを政府がしっかりと判断して受け入れ、不法滞在者をさらに強力に取り締まる」と述べました。

 

一方で、韓国では外国人労働者への賃金未払いや劣悪な居住環境などの報道が後を絶ちません。公共放送KBS20243月、養殖業者で働くスリランカ人の男性が洋上のバージ船に設置された粗末な建物で生活をさせられていたと放送。波で揺れトイレもない不衛生な環境で、労働監督当局が必要な対応をとっていなかったと報じています。

また、国はこれまで全国44か所で運営されていた外国人の相談センターへの補助金を2023年末で打ち切りました。韓国政府は「支援方法をこれまでの民間委託方式から国が直接支援する方式に変更するもので、関連予算がゼロというのは事実と異なる」としていますが、国の予算に頼ってきた地方では、長年にわたる外国人支援のノウハウがあった各地のセンターの多くが閉鎖を余儀なくされています。

現地メディアは「消えた救済窓口」として途方に暮れる外国人の姿を伝えています。ある自治体の関係者は「影響は大きい」と話していました。支援現場の実態が政策に反映されていないのではないかー。取材をしていて、そう思わざるをえませんでした。

韓国の経済は、いまや外国人労働者なしではなりたたなくなっているとされます。外国人の受け入れを拡大しつつも摩擦を減らしながら、どう社会を持続していくのか。韓国政府に突きつけられた課題です。【59日 NHK

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外国人労働の比重が高まる一方で、“人口減少対策として「移民政策」を推進することに「同意しない」と答えた人は60.6%で、「同意する」の39.4%を上回りました。”というように国民の間では否定的な思いが強く存在します。

 

今回記事では省略しましたが、外国人と地域住民の間のトラブルも。

 

そして、搾取構造、劣悪な労働環境、更に今回リチウム電池工場火災に見るような外国人労働への「危険の外注化」の実態も。

 

韓国にとっても、日本にとっても、かじ取りが難しい移民・外国人労働対策です。