スーダン  「忘れられた紛争」の資金源・・・チョコ・ガムに使用されるアラビアガム | 碧空

スーダン  「忘れられた紛争」の資金源・・・チョコ・ガムに使用されるアラビアガム

(アラビアガムノキの樹液を収穫する男性(23年、オベイドの東)【528日 WSJ】)

 

【死者は推計されている約15000人の1015倍に上る可能性も 避難民の数はガザの5倍】

世界の各地で紛争は絶えませんが、その中にはウクライナやパレスチナ・ガザのように、国際関係への影響や先進国との関連の強さなどで世界の注目を集める紛争もあれば、ほとんどメディアに取り上げられることなく続く「忘れられた紛争」もあります。

 

しかし、紛争の戦火から逃げまどい、飢えや医療崩壊に苦しむ住民にとっては等しく悲劇・地獄であり、「忘れられた紛争」の場合は人道支援も行き届かないというということでより悲惨な状況にもなります。

 

スーダンで1年以上続く紛争・・・国軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の統合問題を背景に、軍が主導する統治評議会議長のトップ、ブルハン国軍最高司令官と、同副議長でRSF司令官のダガロ氏の権力闘争としての武力衝突が発生・・・・も「忘れられた紛争」の一つです。

 

“推計で約15000人が死亡し、家を追われた避難民の数はガザの5倍近い約830万人に上る。ところが米国やロシアといった大国の思惑があまり絡まないこともあり、国際社会の関心は低いままだ。”【48日 毎日】

 

死者は約15000人の1015倍に上る可能性があるとの見方(バイデン米政権のスーダン特使トム・ペリエロ氏)もあります。いったいどのくらいの犠牲者が出ているのかすら分からないのが「忘れられた紛争」です。

 

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2023年4月15日にスーダンの各地域で戦闘が発生してから1年が経ちました。

 

いまだに武力衝突は続き、800万人以上が国内外に避難を余儀なくされ、数万人が死傷しています。また、スーダン国内の医療施設の80%以上が機能不全の状態に陥っており、2,500万人以上が深刻な食料危機に直面しています。

 

家族が亡くなったり行方が分からなかったりという状況は、人びとの心理面での負担の増加にもつながっています。「忘れられた紛争」ともいわれるスーダンにおける人道危機は、悪化の一途をたどるばかりです。(後略)【51日 日本赤十字

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【人道援助の「空白地帯」 「援助は一度も受けたことがない・・・・私たちはどこへ行けばいいのでしょう」】

「忘れられた紛争」が続くスーダンは人道援助の「空白地帯」ともなっています。

 

*****人道援助の「空白地帯」となったスーダンで何が──戦闘から1年以上 援助のない避難生活は続く****

スーダンでスーダン軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の間で戦闘が始まって1年余り。医療、食料などさまざまな面での人道危機が深刻さを増す一方、支援は今もとぼしく、スーダン全体が人道援助の「空白地帯」となっている。

 

同国西部の中央ダルフール州。州都ザリンゲイのハサヒサ・キャンプで暮らす避難民の人びとも、戦闘に巻き込まれた。国連によると、11月までに、同キャンプは数カ月にわたり「即応支援部隊(RSF)」に包囲され、負傷者はキャンプの外で医療を受けることができず、水や食料の供給も妨げられていたという。

 

国境なき医師団(MSF)は、現地で医療活動を行うとともに、スーダン保健省の支援を行っている。戦闘が始まってから1年以上がたった現在も、人びとは過酷な環境での生活を強いられており、医療ニーズは増え続けている。

 

112日の夜、アイサさん(50歳)とその家族はロバにひかせた車に乗り込み、ハサヒサ・キャンプから避難した。持ち物はマットレス1枚だけだった。

 

「同行していた男性は殺され、拘束されました。武装した男たちに止められた際には、彼らは人びとを縛り上げ、若い男性に暴力をふるいました」とアイサさんは当時の様子を振り返る。

 

アイサさんと家族が、破壊された消防署で輸送用コンテナの一つに住み始めてから、すでに6カ月以上がたつ。スーダンで避難を強いられている650万人の人びとと同様、アイサさん一家も主に人道援助に頼って生活をしている。

 

しかし、多くの場所で援助を受けることは難しく、水や食料、医療を含む必要不可欠なサービスへのアクセスも十分ではない。

 

消防署の向かいに暮らすのは、ナジャさん(30歳)と3人の子どもたちだ。一家はハサヒサ・キャンプからの避難民とともに、略奪された銀行に避難している。

 

「屋根もなく、食べ物もない。こんな状況で私たちは暮らしています」。そう、ナジャさん話す。

 

援助は一度も受けたことがないし、石鹸一個すらもありません。もうすぐ雨季がやってきますが、私たちはどこへ行けばいいのでしょう……。それも分からないのです。

 

医療を受けることも困難に

街の中心部にあるのは、ザリンゲイ大学だ。ここはかつて、医学、農学、科学技術を学ぶ学生の集う場所だった。しかし、いまではすっかり姿を変えている。講堂にはロバ用の干し草が保管され、キャンパスの建物は洗濯物の物干し竿がかけられている。

 

そこからわずか10分の距離にあるザリンゲイ教育病院で、娘のマラカさんが退院するのを待っているのがハディージャさんだ。その日は、MSFが救急治療室を再開した最初の日で、マラカさんは最初の患者の一人だった。家を追われたハディージャさんは、残った持ち物を売り、お金に換えた。しかし、彼女は娘のための薬を買うことができなかったという。

 

「この病院まで1時間以上かけてやってきました。マラリア検査で陽性だった子どもに治療を受けさせるためです」。そう、ハディージャさんは説明し、続ける。

 

以前住んでいたハサヒサ・キャンプでは、無料で薬をもらっていましたが、ここではそうはいきません……。でも今日、MSFの支援する病院で初めて無料で薬をもらうことができました。

 

崩壊した医療システムを支えるために

戦闘による大規模な暴力の中、スーダンでは医療従事者や医療施設が攻撃や略奪の対象となってきた。医療システムの大部分は破壊され、機能していない。中央ダルフール州に唯一残る二次医療施設であるザリンゲイ教育病院も、この紛争中に何度も略奪の被害に遭っている。(中略)

 

スーダンは人道援助の「空白地帯」に

MSFの緊急対応コーディネーターを務める、ビクトル・ガルシア・レオノールは、スーダンの状況について次のように話す。

 

「医薬品や食料品の価格は高騰し、特に避難民には手が届かないものになっています。また、ほとんどの医療施設は正常に機能していません。スーダンは援助の届かない、人道援助の『空白地帯』になっており、膨大な医療ニーズはさらに悪化しています」【528日 国境なき医師団

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【紛争の資金源となる資源 例えば「紛争ダイヤモンド」】

こうした紛争がいつまでも継続するのは、紛争当事者に何らかの利害関係を持つ国が水面下で武器・弾薬などの支援を行っていることも大きな理由ですが、紛争地域の資源が資金源として紛争当事者によって取引されることもあります。

 

そして紛争の犠牲者の血で汚れた資源は、最終的には先進国消費者の豊かな生活を潤すことに。

有名なところでは、アフリカ・シエラレオネやコンゴの内戦を支えた「紛争ダイヤモンド」(血塗られたダイヤモンド)があります。

 

*****紛争ダイヤモンド*****

シエラレオネなど内戦地域で産出されるダイヤモンドをはじめとした宝石類のうち、紛争当事者の資金源となっているもの。血塗られたダイヤモンド (blood diamond)、汚れたダイヤモンド (dirty diamond)、戦争ダイヤモンド (war diamond)とも呼ばれる。

 

概要

ダイヤモンドなどの宝石は、国際市場で高値の取引が行われる。産出国にとっては貴重な外貨獲得資源となるが、その産出国が内戦など紛争地域だと、その国家は輸出したダイヤモンドなど宝石類で得た外貨を武器の購入に充てるため、内戦が長期化および深刻化することになる。

 

とくに反政府組織はこれら鉱物資源による外貨獲得とそれによる武器購入を広く行っている。その際には罪のない人々を採掘に苦役させることから人道上も大きな問題がある。

 

これら内戦の早期終結を実現するには内戦当事国の外貨獲得手段を奪うのが有力な手立てであり、国際社会はそれに取り組むべきだとされる。内戦当事国に外貨が流れ込まないようにするために、内戦国から産出するダイヤモンドや宝石を「紛争ダイヤモンド」と定義し、サプライチェーンはそれらを取引しないことが求められている。

 

歴史

冷戦時代は東西両陣営が自陣営の味方となる反政府組織に武器を無償供与していたために、このような問題は起こらなかった。

 

冷戦終結後に、特に東側からの武器供与が打ち切られたために、反政府組織は武器商人から武器を買わなければならなくなった。そこで、ダイヤなどの宝石産出国の反政府組織は武器の代金を確保するために、宝石鉱山を占領・制圧して宝石を採掘して売るようになった。

 

なお、武器は対立する組織双方に売られており、これがさらなる紛争の激化、生活レベルの低下をもたらしている。この生活レベルの低下は、鉱山労働者の賃金をさらに下げ、宝石価格の低下につながっている。

 

このように、欧米諸国は武器の販売及び廉価な宝石の購入の双方で莫大な利益を上げてきた。【ウィキペディア】

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【スーダン内戦の資金源となるアラビアガム・・・先進国で消費されるチョコやガムに使用】

スーダンでは、先進国消費者が口にするチョコレートやチューインガムに使用されるアラビアガムが紛争を長期化させる資金源ともなっています。

 

世界のアラビアガムの約80%はスーダンのアラビアガムノキから採取されています。

 

****スーダン内戦、チョコやガムが資金源に****

国際商品「アラビアガム」の売買は対立する同国の準軍事組織と国軍の双方に利益をもたらしている

 

ムハメド・ジャベールさんは週に一度、でこぼこ道を運転してスーダン国内のオベイドという町に向かう。トラックの荷台には、こはく色の樹脂「アラビアガム」が詰まった袋が山のように積まれている。あまり知られていないが、アラビアガムはチョコレートやソーダ、チューインガムなどの添加物として利用される。

 

50マイル(約80キロメートル)先の目的地に到着する頃、ジャベールさんは準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘員に330ドル(約51700円)ほど払うのだと話した。

 

RSFは、1年に及ぶスーダン内戦で民族浄化や人道に対する罪を行ったとして米政府が非難している。RSFは昨年6月にオベイドを包囲し、市内につながる主要道路4本のうち3本を制圧した。同市はスーダン有数の農産物集積地で、市内は国軍の支配下にある。

 

「車列を組んで移動するしか安全な方法はないが、かなり費用がかかる」とジャベールさん。「誰もが支払うしかない」

 

ジャベールさんによると、アラビアガムの売買人はRSFの検問所以外でも、AK-47銃を構えてピックアップトラックで車列に随伴するRSFの戦闘員に60100ドルを渡す。支払いを拒否すれば、積み荷と車両を民兵に奪われかねないという。

 

世界のアラビアガムの約80%は、スーダンでアカシア属のアラビアガムノキから収穫される。西のチャドとの国境から東のエチオピアとの国境まで、およそ20万平方マイル(約518000平方キロメートル)に及ぶ砂漠地帯にアラビアガムノキは生育している。アラビアガムは無味無臭の乾燥樹液で、安定剤や増粘剤、乳化剤として多くの食品、飲料、化粧品、医薬品に使用されている。

 

スーダンの貿易業者によると、この樹液が内戦の両陣営にとって重要な資金源になっている。RSFは農産物の主要な流通経路を支配下に置いて資金を集めている。同国の事実上の政府を運営する国軍は、アラビアガムの売買に税金や関税を課している。

 

スーダンでは20234月の軍事衝突以来、約850万人が家を追われた。バイデン米政権のスーダン特使トム・ペリエロ氏は今月、戦闘による実際の死者数は、確認されている約15000人の1015倍に上る可能性があるとの見方を示した。

 

「アラビアガムの輸出収入が、この戦闘の直接の資金源になっている」。アラビアガム産業を研究しているスーダンのラビー・アブデラティ氏はこう指摘する。

 

こうした懸念があるにもかかわらず、ほとんどの企業がスーダン産アラビアガムを回避する措置を講じていないことが、メーカーやサプライヤーなどへのインタビューで分かった。

 

「顧客にガムを切らしてもらいたくない」。未加工ガムの輸入・加工を手掛ける英モロウジ・コモディティーズのゼネラルマネジャー、オサマ・イドリス氏はこう話した。製菓や飲料、香味料のメーカーを顧客に持つが、いずれもスーダン産アラビアガムを使うことの懸念を訴えてはいないという。

 

チョコレートやグミにアラビアガムを使用しているスイスのネスレは、使用量はわずかだとし、サプライヤーによると主にチャド・ニジェール・マリから調達していると述べた。

 

「キス」ブランドのチョコレートを製造している米ハーシーの広報担当者は、全サプライヤーが現地の法律を順守しているものと認識していると述べた。イタリアのチョコレートメーカー、フェレロの広報担当者は、全サプライヤーが順守すべき厳格な精査手順を定めていると述べた。

 

一部企業は、スーダン産アラビアガムの購入をやめれば、樹液で生計を立てている数十万人が打撃を受けると指摘する。その多くは自給自足の農業従事者や遊牧生活者だ。国連機関はスーダンが飢餓の危機にひんしていると警鐘を鳴らしている。

 

世界のアラビアガム市場で40%のシェアを持つという仏ネキシラは、スーダンでの操業を昨年3カ月停止したが、その後再開してガムを輸入している。広報担当者によると、関係者から最近、「スーダンの路上で恐喝行為が行われている可能性がある」との報告を受けた。現地の契約先に対し、自由な移動を確保できないルートは避けるよう要請しているという。

 

経済制裁を管轄する米財務省は、アラビアガムがスーダンの戦費調達に関係していることを考慮しているかとの問いに対し、コメントを控えた。米国は1990年代、スーダンの指導者オマル・バシル大統領(当時)が国際テロ組織アルカイダなどを支援したとして、同国に制裁を科した。この時ビル・クリントン米大統領は抜け道を作り、アラビアガムをおおむね禁輸対象外とした。

 

アラビアガムはスーダンの主要な輸出農産物だ。入手可能な最新データによると、2022年に約18300万ドル相当を輸出し、同国の全輸出品で上位10位に入った。

 

貿易業者は昨年10月から今年5月頃までの今期について、スーダンの生産量が約半分に減少するとみている。樹液の採取を担う若者が兵士として雇われたり、収穫のために外へ出るのを怖がったりしているためだ。一方、価格は3分の2ほど上昇し、一時1トン当たり5000ドルを付けたという。

 

オランダのFOGAガムは、主に欧米の香味料メーカー向けにスーダン産アラビアガムを輸入・加工していたが、軍事衝突が始まってすぐの234月にスーダンでの売買を全面的に停止した。

 

「事業が完全に停止した」。FOGAガムのパートナー、マーティン・ベルカンプ氏はこう話す。「われわれは完全な透明性のあるフードチェーンに取り組んでいる。紛争のせいで、ガムがスーダンのどこから来ているのか明確ではない。どちら側とも協力したくない」

 

同社が現在支援しているのは、スーダン西部ダルフールの育苗業者による植林だけだという。

 

貿易業者によると、スーダンのアラビアガムは大半がオベイドに集まり、主にチャドやエジプト、紅海に面した国内のポートスーダンを経由して輸出される。

 

「もし世界の市場でアラビアガムが大幅に不足すれば、かなり深刻な影響が出かねない」。国連貿易開発会議(UNCTAD)でコモディティー(商品)貿易監視を担当しているラチド・アムイ氏はこう指摘した。【528日 WSJ

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“スーダン産アラビアガムの購入をやめれば、樹液で生計を立てている数十万人が打撃を受ける”との指摘は考慮すべきところでしょう。

 

ただ、何も手をうつことなくチョコレートやガムに使い続けるというのも・・・・。