ニューカレドニア  仏統治への暴動 古典的資源の問題に加えて中国をめぐる地政学的な問題も | 碧空

ニューカレドニア  仏統治への暴動 古典的資源の問題に加えて中国をめぐる地政学的な問題も

(【JAL HP】)

 

【「天国に一番近い島」で起きた暴動】

南太平洋の「天国に一番近い島」とも称される仏領ニューカレドニアで、暴動が激化し憲兵1人を含む4人が死亡する事態となっています。

 

****フランス領ニューカレドニアで暴動、政府が非常事態宣言****

フランス領のニューカレドニアで15日に暴動が深刻化し、憲兵1人を含む4人が死亡した。現地に長期滞在するフランス人に地方参政権を与える憲法改革に対して独立派が強く反発し、暴動につながった。仏政府はフランス時間の同日夜、非常事態宣言を発令した。

 

仏議会はニューカレドニアに10年以上暮らすフランス人に地方選挙への参政権を与える憲法改正の審議を進めており、14日には国民議会(下院)が上院に続いて可決していた。

 

ニューカレドニアの独立派は憲法改正で独立が遠のくと反発し、抗議活動を展開していた。自動車や店舗が破壊され、安全確保のために学校が閉鎖されるなど混乱が深まっている。

 

仏大統領府は15日、「どのような暴力も容認できない」とのコメントを発表。マクロン大統領が非常事態宣言の発令を指示した。発令により、当局はデモの禁止や集会所の閉鎖といった措置を取りやすくなる。

 

軍隊が出動し空港や港湾の治安を維持する。動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」の利用も禁止された。仏メディアによると非常事態宣言はアルジェリア戦争中の1955年制定の関連法に基づき、2015年のパリ同時多発テロ時も発令された。【516日 日経

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現地には警官などの治安部隊が1800人態勢で展開。エリゼ宮(仏大統領府)報道官は15日の記者会見で、暴力の拡大阻止へ500人の増派を明らかにしています。

 

また今朝の海外TVニュースによれば、現地住民は暴徒の略奪・暴力を恐れ自警団を組織し、道路を封鎖し、暴徒の地域への侵入を防いでいるようです。

 

ただ、そうした住民同士の争いが犠牲者を増やす結果にもなっているようです。

 

ニューカレドニアが「天国に一番近い島」と呼ばれるようになったのは、映画化もされた1966年に出版された森村桂氏の旅行に由来します・

 

****天国に一番近い島*****

子供の頃、亡き父(作家の豊田三郎)が語った、花が咲き乱れ果実がたわわに実る夢の島、神様にいつでも逢える島。働かなくてもいいし、猛獣や虫もいないそんな天国にいちばん近い島が地球の遥か南にあるという。

 

それが、きっとニューカレドニアだと思い、ニューカレドニアへ行くことを心に誓う。死んでしまった父に、また会えるかも知れないそう信じて。母が寂しがっていると言えば、心地よいその島暮らしを捨ててでも戻ろうと思ってくれるに違いない。そして、神様の目をぬすんで、父を連れて帰ればいい

 

そう信じて出発した旅行の顛末。

まだ海外旅行自体が自由にできなかった頃ゆえの苦労、夢と現実のギャップ、現地の人達との交流などの体験が書かれる。【ウィキペディア】

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私事で言えば、私も半世紀ほど昔に図書館でこの本を読み、(内容は完全に忘れましたが)その後の海外旅行趣味の下地にもなりました。

 

もちろん、“神様にいつでも逢える島。働かなくてもいいし、猛獣や虫もいない”・・・そんな現実があるはずもありませんが、この本によって確立されたイメージと実際の美しいビーチ、更に原田知世主演の映画によって、日本人にとっては一定にメジャーな観光地ともなっています。

 

【独立運動の経緯 形の上では結着がついたことにはなっているものの・・・】

しかしニューカレドニアは独立を果たした世界の植民地同様に、植民地としての悩みを抱えており、これまでも独立運動が繰り返されてきました。

 

住民投票による賛否は、一応形の上では独立否定ということで結着していますが、今回の騒動はそれが「形の上」に過ぎなかったことを示しています。

 

****フランス領ニューカレドニア、三たび独立否決*****

南太平洋の仏領ニューカレドニアで12日、フランスからの独立の是非を問う住民投票があった。反対票が96.5%となり、2018年、20年に続き独立は三たび否決された。投票の延期を求めた先住民ら独立派が投票をボイコットし、賛成票はわずか3.5%だった。

 

投票率は43.9%で、20年(85.7%)から大きく下落した。独立派幹部でニューカレドニア議会議長のワミタン氏は13日までに、仏メディアに結果を「受け入れない」と明言した。今後、デモや国連への訴えなど投票結果の正当性を巡り混乱が起きる可能性もある。

 

一方、フランスのマクロン大統領は12日演説し「棄権者が多数いたが、ニューカレドニア住民は独立を否決した。フランスの一部であり続けることが決まった」と強調した。

 

ニューカレドニアはオーストラリアに近い群島で、人口は約27万人。19世紀にフランスに併合され1946年に海外領土となった。電気自動車(EV)のリチウムイオン電池に使われるニッケルの世界有数の生産地でもあり、仏軍も駐留している。

 

住民はカナクら先住民が41%、欧州系が24%など。カナク系住民を中心に60年代から独立を求める運動が拡大した。欧州系住民の多くはフランスへの残留を希望する。

 

今回の住民投票は98年に独立賛成派、反対派、仏政府の3者でまとめた「ヌメア協定」に基づくものだ。合計3回まで住民投票の実施が可能で、今回が最後となる3回目だ。

 

独立賛成票は1回目(2018年)が43.3%2回目(20年)が46.7%と伸び、3回目は賛成票と反対票が拮抗すると予想された。

 

ただ、219月から新型コロナウイルスの影響で外出規制が導入された。同月からの犠牲者数は280人に上る。独立派は死者の弔いや外出規制により十分な活動ができなかったと主張し、投票を延期しなければボイコットも辞さない姿勢を示した。しかし仏政府は12日に住民投票を実施し、多くの独立派がボイコットした。

 

独立は否決されたが、今後の混乱を懸念する声は強い。南太平洋では中国がインフラ支援を通じて存在感を強めている。仏軍事学校戦略研究所は10月の報告書で、米国やその同盟国の太平洋における影響力をそぐために、中国がニューカレドニアで独立運動を支援しているとの見方を示唆した。【20211212 日経】

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下記の情報からすると、今回の暴動は独立派の穏健派は賛同しておらず、一部の過激な若者らが主導しているようにも見えます。

 

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フランスの国民議会(下院)は今週、ニューカレドニアに10年間住んでいるフランス系住民に地方選挙での投票を認める法案を審議した。先住民カナクの発言権が低下するとの懸念が強まり暴動に発展した。

法案はその後、賛成多数で可決され、仏政府はニューカレドニアで選挙が民主的に行われるために投票規則の変更が必要と訴えた。

マクロン大統領は上下両院の特別会議で同法案が承認される前に、ニューカレドニアの独立賛成派と反対派の間で対話を開くことを提案した。

独立派の主要政治団体、カナク社会主義民族解放戦線(FLNKS)は15日の声明で、マクロン氏の提案を受け入れると表明。「ニューカレドニアが解放への道を歩むことを可能にする」合意に向けて取り組む用意があると述べた。【515日 ロイター
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【フランスの思惑 近年重要性が増しているニッケル資源の存在に加え、中国の影響力拡大がもたらす地政学的な影響も】

多くのアフリカ植民地を手放したフランスがニューカレドニア統治を譲らないのは、島に豊富な重要資源ニッケルのためという古典的植民地支配の理由もありますが、最近ではそれに加え、中国の南太平洋地域への進出という国際情勢を受けて、地政学的重要性が増しているからでもあるでしょう。

 

“南太平洋では中国がインフラ支援を通じて存在感を強めている。仏軍事学校戦略研究所は10月の報告書で、米国やその同盟国の太平洋における影響力をそぐために、中国がニューカレドニアで独立運動を支援しているとの見方を示唆した。”【前出 20211212 日経】

 

ニューカレドニアが世界有数の生産量・埋蔵量を誇る金属ニッケル(生産量で世界第4位、埋蔵量で世界第5位)は、電気自動車など様々な分野のバッテリーにも使われている戦略物資ともなっていますが、そのニッケルの輸出先として存在感を強めるのが中国。

 

ニッケル類を主とする中国への輸出総額は、この10年で10倍以上に急増しており、貿易相手国としては断トツの1位になっています。(近年、フランス本国にどの程度輸出されているかは知りません。以前はニッケルマットとして輸出されていたようです。)

 

中国としては、ニューカレドニアが比較的近く、輸送コストが安くつくというメリットがあるとされています。(もっとも、生産量ではもっと近いインドネシア・フィリピンが世界1位、2位ですが。資源ナショナリズムも高まる両国より小島のニューカレドニアの方が扱いやすいという面はあるのかも)

 

この経済的状況でフランスが統治権を手放せば、ほどなく政治的にもニューカレドニアは中国の影響下にはいることが予想されます・

 

ニューカレドニアに軍事拠点も持つフランスとしては、対中国という観点でも譲る訳にはいかないところかも。

 

フランスと資源という観点では、原発大国フランスが必要としているウランの産出国であるアフリカの旧植民地ニジェールからも、ロシアの影響力拡大もあって、最近撤退を余儀なくされています。

 

ただ、島では先住民と白人移住者の子孫との貧富の差が依然大きいという植民地共通の歪みも生じています。

 

なお、この島と日本は無縁ではありません。

 

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1892年(明治25年)、海外で働きたいという600名の単身日本人男性が、移民社会の斡旋でニューカレドニアにやってきた。採用の際、ニッケル鉱山での5年間の労働契約書が用意された。

 

1919年までに合計5575名にのぼる移民がニューカレドニアに到着。やがて、彼らは現地の女性と所帯を持つようになった。鉱山を離れた後、島のあちこちに定住し、様々な仕事で成功した(菜園、塩田、商業、漁、コーヒー園、あるいは散髪屋、仕立て屋、大工、鍛冶屋など)。日本人は、当時の経済生活に活気あふれる豊かさをもたらす存在であった。

 

そして、真珠湾攻撃を境に、この第一世代の日本人たちは敵性外国人として見なされ、そのほとんどが連行され、ヌー島に収容された後、オーストラリアの強制収容所に送られた。

 

4~5年の抑留を経て、19462月に日本に送還された。太平洋を隔てた向こう側では、島に残った彼らの現地妻と子供たちが、一家の大黒柱を失い、とてもつらい日々を送った。

 

また、現地人と結婚しそのまま帰化した人も少なくなく、現在は約8000人の日本人入植者の子孫がいるとされる。【西南学院大学HP】

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