ロシア  外国人労働者排斥の一方で経済は労働者不足 戦争が惹起する諸問題 当局は統制強化 | 碧空

ロシア  外国人労働者排斥の一方で経済は労働者不足 戦争が惹起する諸問題 当局は統制強化

(【231211日 NHK】 極東サハリンで戦死者が急増 戦死者を悼む遺族

 

【テロ事件で高まる中央アジア労働者への警戒感・排斥 しかし、労働力不足のロシア経済にとっては不可欠】

322日に起きた140人以上が死亡したロシア・モスクワ郊外のコンサートホールでの銃乱射テロについては、「イスラム国」(ISが犯行声明を出し、実行犯とされた中央アジア・タジキスタン人4人らが起訴されています。

 

この事件を受けて、もともと中央アジア労働者への蔑視もあったロシアでは更に外国人への警戒感が強まり、治安当局は不法移民の取り締まりを強化しています。

 

ただロシアはウクライナ侵攻の長期化で労働力が不足しており、ロシア経済には移民が欠かせないという事情も抱えています。

 

ロシア科学アカデミー経済研究所によると、侵攻が始まった2022年以降に労働者不足が深刻化し、23年末時点で480万人の人手が足りていないとされています。【421日 時事より

 

****【ロシアの柔らかい脇腹とは?】テロ事件があぶり出すロシア経済のアキレス腱、プーチンが“切れない”旧ソ連最貧国との関係****

モスクワ郊外で起きた大規模テロ事件を契機に高まった中央アジア移民排斥の風潮に、ロシアのプーチン政権が苦慮している。ウクライナ侵攻を受けた徴兵増や、若年層の国外脱出で国内の労働者不足が深刻化するなか、移民労働者の減少はロシア経済の回復に打撃となるためだ。

 

移民規制はテロ実行犯の出身国であるタジキスタンの政治・経済に打撃を与え、親ロシアのラフモン政権を揺るがしかねない。“ロシアの柔らかい脇腹”とも称される中央アジアの不安定化は、過激主義に傾倒する若者をさらに増大させ、ロシアを一層のテロの脅威にさらす危険性もある。

 

殺害予告

「一体、どうしていいのか分からない。私は妊娠をしているのに、怖くて外に出ることもできない」 

ロシア西部の都市イワノボで、理髪店を営む女性は現地メディアの取材にそう打ち明けたという。彼女の店では、テロ事件の実行犯とされるタジキスタン出身の容疑者が働いていた。男を雇っていた事実を恨まれ、女性の家には彼女の殺害を予告する脅迫電話が鳴り続けた。

 

テロ実行犯として拘束された4人の男は皆、旧ソ連・タジキスタン出身者だった。当局により拘束された男はいずれも、顔が腫れ上がるなど拷問によるものと思われる跡があった。右側の耳に、大きな包帯を当てていた容疑者の一人は、当局による尋問のさなかに、片耳を切り落とされていたとの報道もある。

 

そのような姿をあえてさらしたのは、当局が強硬な姿勢で取り締まりを行うことをアピールする狙いもあったもようだ。モスクワ市民が広く知る人気のコンサートホールで銃を乱射し、140人以上が犠牲になった今回のテロ事件。そのような蛮行の発生を食い止められなかった当局が、少しでも国民の支持を回復するには、犯人らへの苛烈な取り締まりをあからさまにさらすほかはなかった。

 

怒りは当然、一般市民にも広がった。タジク人が運転するタクシーが乗車拒否されたり、暴行される事態も発生したほか、タジク人が経営する店舗が放火されるなどのケースも報じられている。

 

労働移民に対する警察の尋問が強化されただけでなく、警官が労働者から、金品を巻き上げるケースもあったという。ネット上では、有力ブロガーらが労働移民の徹底排除を要求する主張を繰り広げ、「殺害しても構わない」などの過激主張も行われた。政界でも移民規制強化を求める声が上がった。

 

移民に依存するも、低位に見るロシア社会

ただロシアにとり、安易な移民規制強化は決して容易ではない。ロシア経済は中央アジア諸国出身者の労働力に、深く依存しているためだ。

 

ロシアでは、約1億4000万人の人口のうち、約5%にあたる700万人あまりが外国からの移民とされ、さらにその8割はタジクやウズベキスタン、キルギスなど中央アジア出身者とされる。多くは、労働目的の移民とみられ、タジク出身者は100万人程度とされる。相当な規模を占めているのが実情だ。

 

「ロシア経済における多くの分野は、移民に深く依存している。それらの分野は彼らなしで、安定的な展開は見込めない」。ドイツを拠点とするカーネギー・ロシア・ユーラシア・センターの中央アジア専門家、チムール・ウメロフ氏は米メディアにそう断じた。

 

実際、モスクワなどの大都市では、店舗や清掃、ドライバー、また理髪店など、どこでもタジクなど中央アジア出身者を見かける。ロシア経済を底辺で支えているのが、中央アジア出身の移民労働者だ。

 

一方で、彼らはロシア人と共存しているように見えるが、実際には多くのロシア人は、彼らが社会の低位にいるとみなしている。今回のような事件が発生すれば、即座に民族的な憎悪の対象となることは不思議ではない。

 

深刻な労働者不足

ただ、ロシアの労働力はすでに、深刻な不足に陥っている。ウクライナ侵攻を受け、ロシアではIT分野の専門家や弁護士、芸術家、デザイナーなど、今後成長が期待される分野を中心に、若年層の国外脱出が相次いだ。侵攻開始直後に非営利団体が実施した推計では、これらの業態の従事者を中心に、約30万人がロシアを脱出したとされる。

 

同時期に脱出できたのは、資金面で余裕がある限られた層であり、その後も一定規模の脱出が続いた可能性が高い。海外生活で資金が底をつき、やむなく帰国したケースもあるが、外国でも収入を得られる術があるロシア人の多くが、海外移住を希望していることは従前から知られている。

 

加えて、徴兵の拡大がある。侵攻開始から約半年が過ぎた段階で、ロシアは「部分動員」との名目で、約30万人の若者を追加動員した。徴兵は特に、人口が希薄なシベリアや極東など地方を中心に実施されたとみられ、このような動きは特に、地方経済にとり打撃になる。

 

ロシア科学アカデミーによれば、同国では2023年に約480万人の労働者不足が発生していたという。ロシア経済は、中国やインド向けなど、欧米諸国の制裁を回避して行われた原油などの資源輸出増や、軍需産業への投資とみられる公共投資の拡大などを背景に、制裁による経済の落ち込みを抑え込んだ。すでに、回復フェーズに入っているが、労働力不足は新たな経済発展の芽を摘む結果につながるのは必至だ。

 

持ちつ持たれつのタジキスタンとの関係

ただ、ロシアによる移民規制の動きは、ロシアでの出稼ぎ収入に依存するタジク経済や、同国を率いるラフモン政権に厳しい打撃を与えかねない。

 

さらに同国の不安定化は、ロシアを標的とするイスラム国(IS)などのテロ集団の伸長につながりかねない矛盾をはらんでいる。

 

タジキスタンは1991年に旧ソ連から独立したが、独立後に内戦が激化し、和平に至ったもののイスラム系野党は活動が禁じられた。90年代から続くラフモン政権は独裁体制を強め、深刻な汚職体質も指摘されている。

 

タジクの1人当たりの国内総生産(GDP)は約1000ドル(約15万円)と、旧ソ連で最低水準にとどまっていて、GDPの約3割は、ロシアなど海外からの出稼ぎ労働者による送金とも指摘されている。

 

そのように経済基盤がぜい弱なタジクにとり、ロシアによる労働移民の規制強化は深刻な脅威となる。ロシアは移民受け入れでタジク経済を事実上支えているほか、ロシア陸軍がタジク国内に駐留するなど、軍事・経済両面で深い関係を持つ。プーチン政権は、事実上ラフモン政権の後ろ盾といえ、そのような政権を窮地に追い込むことは、プーチン氏にとっても得策ではない。

 

さらに、タジク経済の一層の悪化は、同国の不安定化を招き、ISのさらなる伸長と、ロシアへの流入増を招きかねない。ただ移民規制を強化しなければ、結局はそれも、ロシアへのISの流入増を引き起こす結果につながる。

 

タジクなど中央アジアやロシア南部のカフカス地方はもともと、“ソ連の柔らかい脇腹”と呼ばれ、ロシアにとり慎重な対応が求められる地域だ。ロシア経済は欧米の制裁網をかいくぐり成長が加速しつつあるが、戦争を背景にした労働力減少という思わぬ弱点をさらけだした格好だ。【423日 WEDGE

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【膨大な戦死者で、早期の終戦を望む声も】

ロシアの労働者不足を深刻化させている大きな理由のひとつは上記記事にもあるようにウクライナ侵攻を受けた徴兵増や、若年層の国外脱出。 単に徴兵されるだけでなく、生きて戻れない者も。

 

****ロシア軍の死者15万人 仏推計****

フランスのステファヌ・セジュルネ外相は3日公開のインタビューで、ウクライナ侵攻によるロシア軍側の死傷者は50万人で、うち15万人が死亡したとの推計を公表した。

 

独立メディア「ノーバヤ・ガゼータ欧州」のインタビューで語った。同メディアは20222月にロシアがウクライナに侵攻して間もなく、ロシア独立系紙ノーバヤ・ガゼータの亡命記者らによって立ち上げられた。

 

セジュルネ氏は「欧州とそのパートナーは、必要な限り団結し、断固たる態度を取り続ける。ロシアの軍事的失敗は既に明らかだ。われわれはロシア軍の死傷者は50万人で、うち15万人が死亡したと見積もっている」と語った。

「これはいったい何のためなのか」「一言で言えば、無駄だった」と続けた。

 

ロシア軍の死傷者数について、同国側は公表していない。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は今年2月、18万人が死亡したと発表した。

 

英国は、約45万人が死傷したとの推計を公表している。

BBC4月、独自調査を基に、5万人超が死亡したと報じた。 【54日 AFP

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15万人という数字の信ぴょう性はともかく、かつてのアフガニスタン侵攻の9年間で出した約15千人の死者数を数倍上回る死者数を出しているのは確かです。

 

プーチン政権は社会の動揺を回避するため、動員は地方出身者や少数民族に偏る形で行われ、モスクワなど都市部への影響を極力薄めようとしています。

 

それでも、これだけ死者が増えると、動員が集中する地方などでは批判・不満も出てきます。

 

****「犠牲はもうたくさん」 ロシア兵遺族、極東に慰霊碑****

ウクライナ侵攻に多くの兵士が出征しているロシア極東ウラジオストクで25日、戦死者の慰霊碑建立式典が行われた。最愛の人を失った遺族は涙を流しながら花を手向けた。プーチン政権が侵攻継続に固執する中、遺族らは「犠牲はもうたくさん。早期終戦を望む」と訴えた。

 

市街地の外れの広大な墓地の一角に石畳が敷かれ、侵攻が始まった2022年に死亡した兵士72人の墓石と、72人の名前を刻んだ慰霊碑が完成した。

 

ウラジオストクに司令部を置くロシア太平洋艦隊のベレゾフスキー副司令官は式典で「ネオナチ(ウクライナのゼレンスキー政権)に対する勝利のために命をささげた」と兵士をたたえた。

 

2211月にウクライナ東部ドネツク州で一人息子のニキータ・リャミンさん=当時(22)=を亡くした母マリーナさん(51)は「死の1カ月前に電話で、私を安心させようと何も問題はないと言った最後に『母さん、とても怖いんだ』と漏らした」と振り返り「死が無駄ではなく、祖国にとって意味を持つことを願う」と語った。【426日 共同

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【兵員不足の軍は受刑者や外国人を勧誘 そのことの弊害も】

地方や少数民族に偏った動員でも足りずに、受刑者を恩赦釈放を見返りに勧誘したり、怪しげな方法で外国人をリクルートしたりも。

 

しかし、受刑者が帰還後に再び犯罪を犯すことも社会問題化しています。

 

****ロシアで元囚人の帰還兵による凶悪犯罪相次ぐ 2年間で市民100人超死亡****

ロシアのオンラインメディア「ビョルストカ」は26日、ウクライナ侵略に従軍した後に帰還した元兵士が、殺人や傷害致死事件、交通事故などにより過去2年間で少なくとも市民ら107人を死亡させたと報じた。殺人事件の多くは、一定期間の従軍と引き変えに恩赦で釈放された元囚人による犯行だったという。

 

ビョルストカは、集計は報道や裁判記録など公開情報のみに基づくもので、実際にはさらに多いのは確実だとした。

 

ロシアはウクライナの前線に送る兵員を確保するため、恩赦による釈放を見返りに凶悪犯を含む多数の囚人を軍に勧誘した。今回の報道は、恩赦で釈放された元囚人らが帰還後に露社会の治安を悪化させている実情を浮き彫りにした。

 

ビョルストカによると、帰還兵が起こしたことが確認された殺人事件は計55件で、被害者は計76人。うち36件が元囚人による犯行だった。帰還兵による傷害致死事件も18件あり、18人が死亡。さらに、帰還兵は交通事故で11人を死亡させたほか、薬物事件でも2人を死亡させたという。【427日 産経

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戦場における国際法遵守も怪しいところです。

 

外国人については、「グルカ兵」の伝統もあるネパール人兵士の集団脱走・不当な扱いなどが問題化しています

 

****ロシア軍からネパール人兵士が集団脱走 無謀な命令や給与の不払いなどが原因か****

ウクライナ国防省情報総局は1日、ロシアが実効支配するウクライナ東部ルハンシク州のロシア軍部隊から、ネパール人兵士が集団で脱走しているとして資料を公開しました。

 

脱走の理由としては、犠牲を顧みない「肉弾攻撃」や、死が確実な命令を拒否した際に行われる超法規的な処刑、給与の不払いなどが挙げられています。

 

ウクライナ国防省情報総局は、ネパール人兵士らが母国に戻ったとしてもロシア軍の一員としてウクライナへの敵対行為に参加したことで、訴追される可能性があると指摘しています。

 

ネパールでは、山岳民族出身の「グルカ兵」が協定で認められたイギリス軍やインド軍に所属する以外は、国民が外国の軍隊に入ることは禁止されています。

 

ネパール外務省はロシアに対して、兵役に就いているネパール人兵士を帰国させることや、新たな採用をやめることを求めています。

 

イギリスBBCによりますと、ロシア軍に入隊したネパール人は少なくとも数百人に上るとみられています。また、ウクライナとの戦争が長期化する中、ロシア軍はネパールのほかにもジョージアやシリア、リビアなどからも兵士を集めているとされています。【53日 ABEMA Times

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【戦争遂行に批判的な言動への締め付けを強める当局】

当局は、厭戦気分の拡散・社会の動揺を防ぐため、戦争遂行に批判的な言動への締め付けを強めています。

 

****「ナワリヌイ氏陣営の動画チャンネルに協力」ロシア人ジャーナリスト2人逮捕 “過激派”参加容疑 外国メディアでの仕事も****

ロシアの反体制派指導者で今年2月に死亡したナワリヌイ氏の陣営が運営する動画投稿サイトのチャンネルに協力したとして、外国の通信社などでも働いてきたロシア人ジャーナリスト2人が逮捕されました。

モスクワの裁判所は27日、ナワリヌイ氏の陣営が運営する動画投稿サイトのチャンネルのために映像や画像の素材を準備したとして、ジャーナリストのガボフ氏を「過激派組織」に参加した疑いで逮捕したと明らかにしました。
ガボフ氏はロイター通信など国内外の複数のメディアで働いたことがあるということです。

また、ロシア北部ムルマンスク州では、AP通信などで働いた経験のあるジャーナリストのカレリン氏が同様の容疑で逮捕されました。

AP通信は声明で「カレリン氏の拘束を憂慮している。追加情報を求めている」としています。

プーチン政権は政権を批判する活動を厳しく取締まり、言論統制を一層強めています。【428日 TBS NEWS DIG

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****街頭インタビューに答えた男性に強制労働5年判決 ロシア裁判所****

ロシアの首都モスクワの裁判所は22日、米系メディアの街頭インタビューでロシア軍に関する意見を述べたモスクワ市の男性(39)に対し、ロシア軍に関する虚偽の情報を意図的に広めた罪で強制労働5年の判決を言い渡した。ロイター通信などが報じた。

 

ロイターによると、男性はロシアによるウクライナ侵攻開始から5カ月後の2022年7月、米政府系「ラジオ自由欧州・ラジオ自由(RFE・RL)の街頭インタビューに応じた。ロシアと北大西洋条約機構軍(NATO)の緊張緩和が必要かという取材記者からの問いに、「もちろん必要で、私たちの政府次第だ。問題を生み出したのはロシアで、NATOに問題はない」と答えた。また、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで起きた虐殺については、ロシア軍が「理由もなく」民間人を殺害したと語った。

 

男性は23年3月に暴動行為の容疑で当局に拘束され、ウクライナ侵攻後に設けられた戦時下の検閲法に違反したとして訴追された。

 

ロシアの人権団体「OVDインフォ」によると、男性は部分的に罪を認めているが、自分の意見が政治的な憎悪によるものだとする判決内容には異を唱えているという。

 

同団体によると、ロシアでは少なくとも1万9855人が反戦の意見を表明したとして拘束されている。

 

ロシア政府は今年2月、RFE・RLを好ましくない機関に指定し、ロシア国内での活動を禁じた。またRFE・RLの読者なども訴追の対象になるとしている。【423日 毎日

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こうした状況で、“ロシアで新たな野党設立へ 大統領選出馬阻止された女性 事実上の「反プーチン」勢力”【52日 テレ朝news】という動きも報じられています。

 

政党として正式に登録し、9月の統一地方選に候補者を擁立したい考えとのことですが、まっとうなプーチン批判・戦争批判が許される状況にありませんので、どこまで現実のものになるのかは不透明です。