スーダン内戦  「忘れられた紛争」で拡大する被害 「代理戦争」の側面も 武器としての性暴力 | 碧空

スーダン内戦  「忘れられた紛争」で拡大する被害 「代理戦争」の側面も 武器としての性暴力

(【321日 BBC】 RSFのある大物とされる人物の投稿動画

 

【「ラマダン停戦」も実現せず? ダルフール地方と首都ハルツーム周辺を抑えるRSF】

スーダンでは、昨年415日、国軍SAFと準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の統合問題を背景に、軍が主導する統治評議会議長のトップ、ブルハン国軍最高司令官と、同副議長でRSF司令官のダガロ氏の権力闘争としての武力衝突が発生して、今もなお続いています。

 

“国連によると、戦闘により14000人以上が死亡し、安全を求めて国内で避難した人は約630万人、近隣国に逃れた人は約170万人に上る。”【後出 39日 毎日】

 

多大な犠牲者にもかかわらず、昨日ブログでも触れた国際社会の関心・注目が低い「忘れられた紛争」のひとつとなっており、最新の戦闘状況に関しては情報を目にしていませんが、今月始めの段階では「ラマダン停戦」が議論されていました。

 

****スーダン戦闘、ラマダン中の停止求める 国連安保理が決議案採択****

国連安全保障理事会は8日、アフリカ北東部スーダンで昨年4月から戦闘を続ける軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」に対して、イスラム教のラマダン(断食月)期間中の「敵対的行為の停止」を求める決議案を採択した。

 

国連によると、総人口の半分近くにあたる約2500万人が命の危険にさらされており支援を必要としている。

ラマダンは10日ごろからの約1カ月間。実際に戦闘停止につながるかどうかは不透明だ。

 

英国が提出し、日本や米国など14カ国が賛成、ロシアは棄権した。英国の代表は、決議に従ってスーダン軍とRSFの双方に銃を下ろすように求め、戦闘停止中に「信頼関係を築き、対話を通じた解決」を訴えた。

 

ロシアの代表は、パレスチナ自治区ガザでのイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘に対する「即時停戦」を盛り込んだ決議案は、米国が阻んで安保理で採択できていないと指摘。「偽善的だ」と批判した。(後略)【39日 毎日

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別にロシアを支持はしませんが、アメリカのパレスチナ・ガザでの対応とその他の紛争での停戦を求める対応に「二重基準」があるとの主張は一理あります。

 

“即応支援部隊(RSF)は土曜日、国連安全保障理事会によるイスラム教の聖月ラマダン(断食月)の敵対行為停止要請を歓迎した。”【311日 ARAB NEWS】とのことでしたが、停戦実現については“グテーレス事務総長は「どのようにすべきか悩んでいる」と述べた。”【同上】とのことでした。

 

その後、停戦が実現したという情報は目にしていませんので、結局、戦闘が続いていると推測されます。

 

戦況については、かなり古い情報になりますが、昨年11月段階では準軍事組織RSFがダルフール地方を制圧しつつあると報じられていました。

 

準軍事組織RSFは、かつてダルフール地方でアフリカ系住民数十万人が死亡、200万人以上が自宅を追われ“世界最悪の人道危機”とも呼ばれた悲劇を惹起したアラブ系民兵組織「ジャンジャウィード」を前身とする組織です。

 

****スーダン内戦の新局面か****

スーダンでは、(23年)4月15日に国軍(SAF)と準軍事組織RSFの間で内戦が勃発して以降、和平に向けた出口が見えない状況が続いている。

 

西部のダルフール地域で激しい戦闘が続いてきたが、12日付けファイナンシャルタイムズは、ここ数週間の間に、RSFがスーダン第2の都市ニャラやダルフール地域を広く制圧したと報じた。

 

これに伴って、住民に対する残虐行為が広くなされた模様である。EUのボレル外相は12日のコミュニケで、ダルフールにおいて2日間で1000人以上が殺害されたとして、「RSFによって、アフリカ系エスニック集団マサリット(Masalit)に対する民族浄化」があったと発表した。

 

ダルフールでは、2003年にも特定のエスニック集団に対する残虐行為が大規模になされ、国際刑事裁判所(ICC)の捜査へと発展した。今回も類似した状況に至っている。

 

RSFの首領モハメド・ハムダン・ダガロ(通称ヘメティ)は、ダルフールのアラブ系エスニック集団リゼイガト(Rizeigat)の出身である。

 

内戦の中でRSFが制圧領域を広げていく際に、アフリカ系エスニック集団を放逐する目的で、残虐行為が広がったとみられる。EUICCを通じて、責任の所在を問う構えである(12日付ルモンド)。

 

スーダン内戦において、RSFがダルフールを、SAFがそれ以外の国土を制圧する構図が固まれば、隣国のリビアと同様の状況になる。

 

リビアでは、首都トリポリを中心とする西部を押さえる暫定政権派と、ベンガジを中心とする東部を押さえるリビア国軍(LNA)派とが国土を分割している。そして、LNAを率いるハフタル将軍はヘメティと同盟関係にあり、いずれもロシアのワグネルを利用してきた(12日付FT)。

 

RSFがアラブ系ネットワークを通じて西アフリカ諸国から人材や資源を集めていることは従来から指摘されているが、ワグネルを介したリビアから中央アフリカに至るネットワークも重要性を増すかもしれない。【20231114日 武内進一氏 現代アフリカ地位研究センター

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今年3月段階には、これまで国軍が支配的だった首都ハルツーム周辺でも、一部地域で準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)が主導権を握りつつあるとの情報も。

 

【「忘れられた」と言いつつも、水面下では多くの国が関与して「代理戦争」の様相も ロシア・ワグネル、更にはウクライナも】

「忘れられた」というのは各国の公の立場、メディア報道においての話で、水面下では多くの国が様々な利害からスーダンに関与しています。

 

戦闘が止まないこと、装備で国軍に劣るはずの準軍事組織「即応支援部隊」(RSFがここまで戦闘を継続できていることの背景には、それぞれ外国の支援をうけており、一種の「代理戦争」状態にもなっていることが指摘されています。

 

国軍側はイランからドローンなどの提供をうけていると報じられています。

準軍事組織RSFの方は、アラブ首長国連邦(UAE)から武器支援を受けたとWSJが以前報じていました。更に、上記記事でも出てくるロシアの民間軍事会社ワグネルの支援をうけていました。

 

RSFは金鉱山開発に関わっているとされ、その資金がワグネルに流れていたと思われます。ワグネル解体後も、ロシアはこの権益を引き継ぐ形で関与を継続しているとも推測されます。

 

そうした形でロシアに流れる資金はウクライナでにの戦争に使われますので、ウクライナがこの資金のながれを絶ちたい思惑でスーダンに関与する・・・という事態にも。

 

****ワグネルが支援するスーダン準軍事組織への攻撃、背後にウクライナの特殊部隊か 「公算大きい」と軍情報筋**** 

東アフリカのスーダンの首都近くでロシアの民間軍事会社ワグネルの支援を受ける民兵に対しドローン(無人機)と地上作戦による攻撃が相次いで行われた事案で、攻撃の背後にウクライナの特殊部隊がいる公算が大きいことが分かった。CNNの調査で明らかになった。これを受け、ロシアによるウクライナ侵攻の影響が本来の前線を越えて広がったとの見方が出ている。

 

CNNの取材に答えたウクライナ軍の情報筋は、当該の作戦を「非スーダン軍」の活動と形容。ウクライナ政府が攻撃の背後にいるのかとの問いに対しては、「ウクライナ軍の特殊部隊によるものである公算が大きい」とだけ答えた。作戦ではスーダンの準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」に対して一連の攻撃が加えられた。(中略)

 

CNNは一連の攻撃におけるウクライナの関与を独自に確認できなかった。ただ入手した動画の映像からは、ウクライナによるドローン攻撃と思われる特徴が見て取れる。(後略)【2023920日 CNN

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【戦闘の実態 ドローン使用 ネット遮断 深刻化する飢え 「2時間ごとに子ども少なくとも1人が栄養不良で命を落としている」】

他の紛争同様に、スーダンの戦争でもドローンが活用されています。

 

“(国際関係専門家の)K’achola氏はドローン攻撃が人権問題に重大な影響を与えることも指摘し、ドローンが戦闘員と非戦闘員を区別できないことを強調する。

 

「子供や高齢者を含む罪のない一般市民がこのような攻撃で犠牲になる可能性が、すでに悲惨なスーダンの状況をさらに複雑なものにします」と彼は付け加えた。

 

スーダンでの紛争が見せたのは、戦争が進化するという性質で、ドローンは世界中の軍事戦略でますます大きな役割を担うようになる。”【2023618日 ARAB NEWSスーダンのドローン戦争:形勢を変えられるか?」】

 

戦闘による被害状況については定かな数字はなく、“国連によると、戦闘により14000人以上が死亡”と言われていますが、実際は犠牲者は遥かに多い可能性があります。

 

ダルフールの“一つの都市だけで”RSFによって1万~1万5000人が殺害されたとも報告されています。

 

****1都市で1万5000人死亡 準軍事組織がアフリカ系襲撃スーダン****
内戦状態が続くスーダンの西ダルフール州ジェネイナで2023年、準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」による暴力で1万~1万5000人が殺害されたとする年次報告書を国連の独立監視団が19日までにまとめた。報告書は安全保障理事会に提出された。

 

中東で「地殻変動」 紛争生んだ2023年

スーダンでは昨年4月、正規軍とRSFの衝突が発生。国連は同国全土でこれまでに約1万2000人が死亡したと推定していたが、監視団の報告書はこれを上回る犠牲者が出た恐れがあることを示した。

 

報告書は、昨年4~6月にジェネイナで「激しい暴力行為」が発生したと指摘。RSFおよび同組織と連携するアラブ系民兵が、アフリカ系のマサリットと呼ばれる人々に攻撃を加えたとし、「戦争犯罪と人道に対する罪に該当する可能性がある」と非難した。【120日 時事

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食糧不足も深刻で、“2時間ごとに子ども少なくとも1人が栄養不良で命を落としている”(国境なき医師団)という状況。国連は緊急支援を要請しています。

 

****ネット接続遮断、数百万人が飢餓に直面 国連がスーダン緊急支援を要請****

国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の衝突が続く東アフリカのスーダンで、インターネット接続が遮断された。同国では10カ月近く続く戦闘で数千人が死亡、数百万人が家を追われている。

 

インターネット監視団体ネットブロックスは7日、スーダンでネット接続障害が起きていることを確認し、大手接続業者が3社ともサービスを停止していると伝えた。

 

スーダン外務省は、ネット接続障害の責任はRSFにあるとして非難した。RSFは現時点で公には責任を否定していない。

 

国連によると、現地の人たちは衝突を逃れることができず、差し迫った人道支援を必要としている。国連は、スーダンの緊急人道支援のために41億ドル(約6100億円)の拠出を要請。

 

同国の人口の半分に当たる約2500万人が支援や保護を必要とする状況にあり、数百万人が飢え、戦争によって住む家を追われていると指摘した。

 

国連人道問題調整事務所(OCHA)と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は共同で、1470万人の人道支援のために27億ドル、近隣5カ国の難民支援のために14億ドルの拠出を求めている。

 

国連のマーティン・グリフィス緊急援助調整官は「10カ月に及ぶ紛争のために、スーダンの人たちは安全も、住む家も、生活の糧も、ほぼ全てを奪われた」と述べ、昨年集まった額は求めた額の半分にも満たなかったと言い添えた。

 

RSFは8日、近隣国や国際社会に対して緊急援助を要請し、スーダンの市民が「真の飢餓の可能性に直面している」と訴えた。

 

国境なき医師団によると、スーダンの北ダルフールにある避難民キャンプでは、2時間ごとに子ども少なくとも1人が栄養不良で命を落としているという。【29日 CNN

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なお、ネットが遮断されると、生活を支えてきた電子送金もできなくなります。

 

アリ・モハメド駐日スーダン大使は以下のように「忘れられた紛争」の悲劇を訴えています。

 

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スーダンとウクライナの人道的状況と対応について、米国在住のスーダン人活動家たちが行った痛切な比較によると、スーダンの状況は深刻であり、支援を必要としている人の数と国内避難民の数は、ウクライナの367万人に対し、後者は900万人を超えている。死亡者数は12,000人以上で、両国とも同程度である。

 

ウクライナに提供された援助は770億米ドルにのぼるが、スーダンにはわずか84000万ドルである。【312日 ARAB NEWS静かな苦しみが明らかに: 忘れられたスーダンの人道危機に光を当てる」】

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【戦争と復讐の武器として使われる性暴力】

犠牲者数、飢餓だけでなく戦闘被害の実態を見ると更に悲惨な様相も見えてきます。

前出記事で1万~1万5000人が殺害されたとも報じられている西ダルフール州ジェネイナで活動する日本人看護師の報告です。

 

*****指切られた少女、頭撃たれた少年スーダンで活動の看護師「支援を」****

紛争で人道危機が続くアフリカ北東部スーダンで、国際医療NGO「国境なき医師団(MSF)」が現地派遣した神奈川県厚木市在住の看護師・佐藤太一郎さん(37)が治療活動を行っている。

 

佐藤さんは26日にオンラインで現地の状況を報告。「家事ができないように指を切られた少女など、言葉にして伝えるのも苦しい被害を受けた人たちがいる。心の傷を負う子どもらも多い。国際社会の支援が必須だ」と強調した。

 

佐藤さんは県内出身で東海大看護学科卒。同大医学部付属病院高度救命救急センターなどで勤務し2020年にMFSに参加した。23年4〜10月にチャドでスーダン難民を治療し24年1月からスーダン西ダルフール州ジェネイナで活動する。(中略)

 

ジェネイナでは地域唯一の機能する公立病院を支援する。「子どもや母親らは退院しても家に帰れない。食べ物も仕事もないから」という。PTSD(心的外傷後ストレス障害)で眠れない、しゃべれない子や性的暴力の被害女性らにさまざまなケアが必要で「紛争が終わっても長期的な対処がいる」と佐藤さんは強調した。【329日 毎日

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ドローン使用による人権問題も提起されていますが、それはそれとして、ドローンより恐ろしいのは「人間」です。

スーダンに限らず、この種の戦闘では性的暴力が兵器として利用されます。

 

****内戦続くスーダンで相次ぐ性暴力被害、背景にはかつての民族紛争も****

昨年4月以来、国軍と準軍事組織「迅速支援部隊(RSF)」による内戦が続いているスーダンで、多くの女性が性的暴力の被害にあっている。

 

RSFは現在、西部ダルフールの広大な地域だけでなく、首都の南側の地域も掌握している。ダルフールは、アフリカ系とアラブ系のさまざまなコミュニティー間の暴力で、長年にわたって混乱している。

 

ダルフールから隣国チャドに逃れた女性たちはBBCに対し、RSFの戦闘員に、時には何度もレイプされたと語った。

 

スーダンとチャドの国境で女性たちを支援している団体は、こうした被害がアフリカ系の女性に集中していると指摘。戦闘員たちが紛争や報復の武器として、性暴力を使っていると非難している

 

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19歳のアミナさんは昨日自分が妊娠していると知りました。数分後には人工妊娠中絶を始めます。

家族には絶対知られたくないと思っています。

 

「スーダンではこういうことが起こります。私は結婚していませんし、ある事件を除けば性交渉の経験はありませんでした。」

 

アミナというのは仮名です。住んでいる街で起きた戦闘から逃げ出そうとしてつかまりました。数日にわたって拘束され、繰り返し強姦されたと言います。

 

「誰にも言いませんでしたし、誰にも知られたくなかった。」

 

アミナさんのような女性が受けている性暴力がスーダンでの紛争の特徴となっていると国連は指摘しています。戦争の武器として使われているのです。(中略)

 

スーダン全土で女性たちが内戦中に暴力の犠牲になっています。この内戦は多くの死者を出した民族間紛争の再燃でもあります。

 

20年間にダルフール地方でジェノサイド(集団虐殺)だとの批判の中、黒人コミュニティーの30万人が殺されたと国連は述べています。

 

現在の紛争で起きている女性に対する暴力の大半は準軍事組織(RSFとその協力者によるものとみられています。

RSFのある大物はインターネットに投稿された動画で、戦闘員には女性を襲う権利があるとし、その理由を語っています。

 

「レイプだろうが、レイプでなかろうが、お前たちの娘や少女を犯すのは「目には目を」の原理だ。これが我々の国で、我々の権利で、我々はそれを行使した。」

 

批難の多くは虚偽だとRSFBBCに述べました。そうした事態が起きたときは部隊が責任を持っているとも。

 

しかしザハラさんは、ダルフールでは黒人女性が狙われていると言います。

「なぜならレイプは家族や社会に影響を与えるからです。彼らはレイプを復讐の武器として使っています。」

 

今回の紛争では性暴力が蔓延しています。しかしこうした話題はタブーとされ、大きな恥や烙印を伴います。つまり声を上げたり治療を求めたりする人は被害者のほんの一部に過ぎないということです。

 

紛争がもたらした残虐行為の代償を普通の女性たちが払わされています。終わりが見えない中、さらに多くの人々が沈黙のうちに苦しむことになるかもしれません。

 

BBCニュースのマーシー・ジュマがチャドとスーダンの国境からお伝えしました。

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【321日 BBC

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